第三十話 戦果報告と影の立役者
「帰って来たぞ! 軍師殿!」
本陣に戻ると意気揚揚とした声でカイトはホークに帰還の挨拶をした。
「その顔だと、首尾は上々のようだな」
「ええ。ことごとく作戦通りでした。軍師殿のおかげです。犠牲は、ほとんど出ておりません」
「軍師殿はやめて下さい、キルスさん」
「いえ。あなたはもう立派な軍師です。次の作戦もお願いします」
「そうですね。もう一つ砦が残っていますからね。それと、さっき斥候が帰って来ました。もう一つの砦の残存兵力はおよそ六百です」
「こっちは三千だ。後は力押しでもいけるんじゃないか?」
「いや。それでは犠牲が多くなる。また策を練ってみた。皆がよければその作戦で行こうと思っているんだが」
「どんな作戦ですかな? 軍師殿に従いますぞ」
「ええ。今回はシェラに働いてもらおうと思います」
側で座って聞いていたシェラは自分の名前が出たことで立ち上がった。
「よし! 俺の出番か!」
「今度はお前が鍵になる。頼むよ。それと僕も戦場に出る」
ホークが戦場に出ると聞いて、アベルが口を挟んだ。
「いや、ホークはここで待機していた方がいいいんじゃないか?君に何かあったら指揮が崩れる」
「いや僕の火炎魔法も鍵になるんだ。そのために準備していた。僕の代わりにアベル、君が残っていてくれ」
「分かった。無理はしないでくれよ」
「有難う。作戦は明日の夜になる。それまで僕達も兵士も休息を取ろう」
「かしこまりました。そのように手配しましょう」
作戦開始の時間になった。
いわゆる夜襲になる。
ホークとカイトは魔道兵を率いて、賊の砦の裏側に回った。
「上手く回りこめたな」
「ああ。ここまでは上々だ。ここから素早く動かないといかん。マーキングの魔法を頼む。全体的にな」
「よし! 任せておいてくれ!」
シェラは集中を始めた。少し間を置いて、ホークも集中を始めた。
「マーキングレッド・レベル3!」
「マーキングレッド・レベル1!」
シェラと魔兵がそう言葉を発すると、赤い光が上空に飛んで行き、それが砦全体を包んだ。
「何事だ!」
その砦の頭領は突然の異変に寝床から飛び起きた。同時に自分の体の一部が赤く発光しているのに気がついた。
「どうやら夜襲のようですぜ。あれ? お頭も赤くなってますね? 俺もだけど……」
「いかんな……。この状態で討って出て対抗しても的になるだけだ。砦に篭城するぞ!」
「分かりやした」
頭領と配下がそういう会話をしているうちに、ホークと魔兵は集中を終え。言葉を発した。
「ホットサーモ・レベル4!」
「ホットサーモ・レベル1!」
ホークのワンドから生じた巨大な火球と魔兵から生じた無数の火球が合わさり、業火となって砦に高速で飛んで行った。砦は炎に包まれた。
「お頭~! 篭城どころじゃありませんぜ!」
「もう、討って出るしかないな……お前ら腹をくくれ! 俺に続け!」
砦の頭領はやぶれかぶれで討って出たが、既に賊兵達は意気消沈していた。
「出てきたぞ! 軍師殿の作戦通りだ! 矢を射ろ!」
候補生の指揮官の一人が弓兵で待ち伏せをしており、賊達に無数の矢を浴びせかけた。マーキングの効果で夜襲にも関わらず、恐ろしく命中精度は高かった。
「よし! 剣士隊! 全軍突撃!」
間髪いれず、キルスの剣士隊の全軍が突撃した。士気がなくなった賊兵達はその時点で降伏した。
「大勝利だな。こちらは一兵も失っていない。流石、ホークだ。軍師殿だ」
「軍師はやめてくれ、カイト」
「いや。お前は俺の軍師だ。作戦の時はそう呼ぶことにした」
「……まあいいや、好きにしろ。俺もここまで上手く行くとは思わなかったよ。何にしろ、これで賊も鎮静化するだろう。後は、色々な村からさらわれた女や、物資、金を戻して終わりだ。胸を張って帰ろう」
「戦後処理も重要ですな。かしこまりました。軍師殿の仰せの通りに」
「キルスさん、敬語は勘弁して下さい」
「いやいや。あのような手並みを見せられたら、感服せざるを得ません。これからは軍師殿には敬語をずっと使わせて頂きます」
「困ったなあ。まあその方が良いのならそうして下さい」
(変なことになったなあ)
ホークはそう思いながら、賊の頭領から奪った、略奪品の目録を見ていた。
ホーク達は戦後処理も済ませ、無事にオストガルドに帰還出来た。
「この度はご苦労だった。正直、実戦の経験のためとはいえ、指揮官を士官候補生ばかりにして行かせたのはどうかと思ったのだが、上出来すぎるくらい上手くやってくれたそうだな」
ホーク達が、作戦結果を国王に報告すると、国王からそうねぎらわれた。
「中でもホーク、お前の作戦立案による活躍が際立っていたと聞く。末、頼もしい候補生だな。礼を言う。これからもカイトをよく補佐してやってくれ」
「礼を受けるのは恐縮です。たまたま予測と作戦がかみ合って上手く行っただけのことです。運が良かったのでしょう。それにキルスさんがいてくれたことによる所なども大きかったのです。僕の活躍などささいなものです」
ホークは国王の言葉に謙遜した。実際そう思っていた。国王はその態度に改めて好感を持ったようだった。
「お前は色々な人を思いやることができる優しい軍師になれるな。卒業後も任官してもらって、オストガルドに末永く仕えてもらいたいものだ」
「……それほどの人間かどうか自分では分かりませんが、ご期待に添うよう努力します」
「頼んだぞ。カイトのことも含めて」
ホークは黙って一礼した。側らのカイトは黙って直立して聞いていた。
「それにしても、今回の作戦はホーク殿が作戦を練ってくれたのも大きかったのですが、兵が精鋭揃いだったのも大勝因の一つでした。どなたが編成して下さりましたか?」
キルスがそう、国王に訊いてみた。ホークもあれだけの編成をしたのは誰か、最初から気になっていた。兵の数も多すぎず少なすぎず、既に戦場を把握していたような編成だった。
「キルスよ。分かっていて訊いていないか?宰相のアルバートしかおるまい。今、他の執務を行っているようだが呼んで来よう」
国王はそう言うと側近を呼び、別室にいる宰相アルバートを呼んだ。
暫くしてアルバートが現れた。カイト以外の候補生はアルバートに会うのは初めてだった。国王より年齢は上そうだったが、足腰はかくしゃくとしていた。
「この度のレッドケープでの賊の掃討作戦はお見事でした。よく無事で戻ってこられましたな。それが何よりです」
「初めまして、ホークと言います。アルバート様の見事な編成がなければ、こう上手くは行かなかったでしょう。恐れ入ります」
「なに。慣れですよ。私の編成など大した仕事ではない。やはり重要なのは、実際に戦場で兵を動かすあなた方指揮官です」
そういって、アルバートは今回の作戦に参加した指揮官の顔を見回した。そしてゆっくりうなずいた。
「いや。大爺のような、内政や編成、補給の達人がいるから安心して戦えるんだ。俺たちだけじゃどうにもならないよ」
カイトがそう言うと、アルバートは声をあげて笑った。
「お褒めに預かり光栄ですカイト様。立派になられましたな。それによきお仲間も沢山得たようですな。喜ばしいことです」
ここで側近が国王になにやら耳打ちした。どうやらもう時間が無いらしい。
「もう少し私もお前達と話したかったのだが時間がなくなったようだ。国王としての職務も色々あってな……。残念だが後日話そう。皆のものご苦労だった。十分に戦の疲れを癒してくれ」
こうして謁見は終了した。




