第二十九話 レッドケープ討伐戦
レッドケープまでの移動にほぼ一日かかった。
「日が落ちましたな。夜営を張りましょう」
戦慣れをしているキルスがそうカイトを促した。カイトはうなずき、兵士達に夜営の準備をするように指示した。
「ホークが兵士達の中に入った後、出て来ないな。ちゃんと来ているんだろうか?」
カイトがそう言っていると、兵士達の中からひょっこり、ホークが現れた。
「無事に移動できたなカイト」
「ああ、ホーク。やっと出てきたな。兵士達と話して、何か収穫があったか?」
「まず、指揮官として顔を覚えてもらえたのが良かった。ほとんどの兵士が初対面だからな。これだけで、戦いがかなり楽になる」
「その通りだな。俺も歩くべきだったか……」
カイト達と合流して移動した、シェラがそう思い直しながら言った。
「なあに。僕が念入りすぎるだけさ。気にすることはない。他にはレッドケープに派遣されたことがある兵士が意外に多かったのが収穫だな。ここの地理に明るい人が多いから、作戦次第では楽に勝てるはずだ」
「流石ホーク君ですが、賊の数は中々多い。油断は禁物ですぞ」
キルスがそう釘を刺した。
「その通りですね。油断はしません。演習とは違う所を肝に銘じておきます」
そういう話をしているうちに、夜営の準備の取りまとめ役の兵士がキルスに報告をしに来た。今回の作戦の総大将はキルスになっている。副将はカイトだ。
「夜営の準備が整いました。炊事も既に済んでいます」
「ご苦労。ではカイト王子、皆さん。今日は休んで、明日のために英気を養いましょう」
キルスがそう言った後、皆散開し、各自で休息を取り始めた。
翌日の早朝。
天候に恵まれてその日は晴れていた。
「眠れたかホーク?」
営舎を出て早朝の空気を吸っていたホークにカイトが話しかけてきた。
「演習で何回か夜営はしているからな。慣れてきたよ」
「それなら良かった、戦は軍師次第だからな。軍師の体調が悪かったらどうにもならない」
「僕が軍師をやらないといけないのか? この作戦で? これが初陣だぞ?」
「今の指揮官の中で一番作戦を立てるのに向いているのはお前になるんだ。爺もそう考えている。まあ何とかなるだろう。やってみてくれ」
「……仕方がない。引き受けざるをえんのだなあ。やってみよう」
「頼んだよ」
「で、今はどれ位の情報が集まっているんだ? 斥候(偵察兵)は出しただろう?」
「ああ、未明に出した。もうすぐ戻って来るはずだ」
ホークとカイトは、それから作戦のことを中心に話ながら暫く待った。そうしている内に斥候が帰って来た。キルス達、他の指揮官も出てきていた。
「偵察から戻って来ました。敵の兵力はおよそ千人強です。こちらが戦場となる地域のおおよその図面です」
「有難う。図面を見させてもらいます」
「はっ!」
図面は、若干森が多いようだった。森の間に隠すようにして、二箇所、賊達は砦を築いており、そこを拠点にしていた。
「あなたは優秀な斥候ですね。いい図面だと思います」
「お褒め頂き、恐縮です有難う御座います」
「いえ有難う御座います。お疲れ様でした。休息を取って下さい」
「はっ!」
ホークのねぎらいの言葉を受け斥候は下がった。
「さて。この図面をどう見ます? ホーク君。いや軍師殿」
キルスの言葉にじっと作戦図面を見ていたホークは答え始めた。
「平地が限られているので、騎兵を使うタイミングも限られるでしょう。キルスさんの剣士隊がやはり主力になってくると思います」
「私も同意見です。砦にこもっているとはいえ賊兵です、私の剣士隊だけでも千人強位なら力押しで何とかなりますが……」
ホークはキルスがそう言い終わった所で少し考えた、その後口を開いた。
「キルスさん。今回の作戦では剣士隊を何人連れて来ていますか?」
「七百です」
「それでは幾らオストガルド一強力な剣士隊といえども犠牲は避けられないでしょう。この戦場で三千人の兵にすべて働いてもらう作戦を考えます」
「時間がいくらか、かかりますか?」
「いや、時が惜しい。図面を見ながらこの場で考えます」
ホークはそう言って、少しの間また図面に目を移した。少し経ち考えがまとまった所で口を開いた。
「先陣はやはりキルスさんにお任せします。ただ……」
「ただ? 何でしょう。何でもやりますよ」
「はい。ただ、囮になって頂きます。他の指揮官の方々にも作戦を伝えます」
ホークはそう言うと、各々の指揮官に作戦を伝え始めた。
ホークの軍師としての本格的な始動だった。
「猪の肉はいつ食っても美味いっすねえ。今度はどの村を襲うつもりですか、頭あ」
「さあて、どうするかなあ。金も食い物も、それに女も奪ってきたから当分はな……」
賊達の二つある砦の内の、オストガルド軍から見て手前にある砦では、賊達が宴会を開いていた。
「まあ当分は安泰ですね頭あ」
その砦の頭領の太鼓持ちのような奴がそう言った後、周りが急に騒然となった。
「どうしたんだ?」
頭領がそう言うと、すぐに伝令が頭領がいる建物に入って来た。
「お頭大変です! 砦が襲撃されてますぜ!」
「何処のどいつだ!」
「恐らくまたオストガルドの奴らです!」
「数は分かるか!」
「およそ百でさあ」
「そのくらいなら蹴散らしてやる! 皆、ついて来い!」
砦の頭領は側らにある蛮刀を持って、反撃に臨んだ。
頭領が出てみると、砦の入り口にあたる、木の柵で競り合いが続いていた。賊側の方が分が悪い。
「いかんな……。おい! 砦の中の連中を集められるだけ集めろ! オストガルドの奴らを追い返すぞ!」
頭領はそう言うと、自身と今付き従っている人数で、競り合いの救援に向かった。
「頭あ! 来てくれましたか!」
「おう! なあに百人程度なら押し返せる。しかもこっちは砦にいるんだ。俺が来たからには好きにさせねえぞ! 野郎ども! やってやれ!」
賊達は頭領に鼓舞され、士気が上がったようだった。また、防御の人数が増えたことにより、今度は攻め側の方が劣勢になった。攻めているのはキルスの剣士隊だった。
(ここまではホーク君の予想通りだな……。あとは私が退却した後、砦の大将が誘いに乗ってくれるか……)
キルスはそう考えながら、手はず通り退却の合図を出した。しんがりはキルス自身が部隊を率いて行うようだ。
「何だ? 退き始めたか? よし! 今度はこっちから攻めるぞ! 俺に続け!」
砦の頭領は討って出た。ほとんどの賊兵が後に続いた。
しんがりのキルスは粘りながら退いていた。内心
(ホーク君の作戦通りだな。ここは勝った)
と思っていた。
キルスの部隊は、少し場所が開け平地になっている所まで退却できた。その平地の周りはやはり木々に囲まれている。
「ここなら皆、展開できるぞ。野郎ども広がって戦え!」
頭領はそう指示を賊兵達に出した。指示に従い、賊兵はキルスの部隊を囲むため展開した。十分に展開したその時!
「ライトニング・レベル2!」
「ライトニング・レベル1!」
森の中からアベルと魔兵が放った放射状の電撃が、賊兵達に覆いかぶさって来た!
「ぐあああっ!」
賊兵は六百人程度いたが、電撃の狙いが定まっていたため、その半数以上が感電した。
「感電している賊兵は放っておけ! 突っ込むぞ!」
森の中のニ個所と平地の後方に待機していた、カイトの騎馬隊が三方向から突撃した。
後はひとたまりもなく、賊は降伏した。オストガルド軍にも賊兵にも、犠牲はほとんどでなかった。アベルの電撃魔法も暫く感電させる程度に抑えていたからだ。
「ここまで上手くいくとは思わなかったな」
「ええ。六百の賊兵を丸々生け捕りに出来ました。軍師様々ですな」
「そうだな。やはりホークは凄い。よし! 爺、アベル、戻るとしようか」
「かしこまりました」
三人の指揮官はホークが待っている本陣に撤収した。




