第二十八話 初陣
夏期休暇も終わり、ホークとカイトはオストガルドに戻って来た。
本国へ帰還後、二人は、他の候補生達と一緒に真面目に講義や演習に取り組んでいた。
そうして、鍛錬を重ねていく内に瞬く間に時が過ぎ、春期休暇を挟んで春になった。
ホーク達も十六歳になっていた。
「おはよう。ホークさん。もう朝ですよ」
ホークは寄宿先を変えず、小風亭でいまだに寝泊りと食事の世話をしてもらっている。この日のホークは疲れていて、珍しくエレナが起こしにくるまで起きれなかったようだった。
「……ん、ああ……おはよう。起きる時間か……」
「お疲れのようですね……。講義や演習で忙しいんでしょう? 無理をなさってないか心配です……」
ホークはゆっくり起き上がって、心配そうな顔をしているエレナに言った。
「少し疲れが出ただけだよ。大丈夫。御免ね心配かけて。ご迷惑をかけます」
「全然、迷惑何かじゃないです。ただ、ホークさんはあまり体力がないでしょう。あまり無理はなさらないで下さいね」
「有難う。よし。今日も朝御飯を食べて行くか」
「用意は出来てますよ。しっかり召し上がって下さい」
朝食をとり、身支度を済ませたホークはいつものように士官学校の校舎に向かった。
街には春の風が吹いていた。風の香りも春らしい。登校しながらホークは、
(士官学校に通うのも今年で終わりなんだな……カイトを助けて任官を受けるか、リゾレッタに帰った方がいいのか……)
そんな葛藤を浮かべていた。
校舎に着くと、既にカイトとシェラが居た。始業にはまだ時間があるため、二人は雑談をして楽しんでいるようだった。カイトがホークに気付いて、声をかけてきた。
「おはようホーク。……何か疲れているみたいだな。大丈夫か?」
「なあに。何日か経てば大丈夫さ。確かにちょっと疲れているけどな」
「無理するなよ。お前は成績がいいんだから、ニ、三日休んでも卒業に影響はないはずだからな。思い切って休むのも手だぞ」
「今まで皆勤だからな。どうせなら皆勤賞をもらうまで頑張るさ」
「真面目だなあ、相変わらずお前は」
そんなことをカイト達と話している内に始業時間になった。教官が入って来たようだ。皆、席に着いて講義を聞く準備をし始めた。
「皆さんおはよう御座います。講義に入る前に皆さんにお知らせがあります。実戦訓練のお知らせです」
実戦という言葉が教官の口から出たことで候補生達はざわついた。ホークも例外ではなかった。
(実戦か……その日がとうとう来るか)
不安と少しばかりの興奮など、ホークの中には色々な感情が入り混じったようだった。
「実戦と言っても、ごく小規模な作戦です。端よっていえば、賊の退治です。ただ……少々数が多いといえば多いのですが……」
教官はそこまで言って、黒板に書きものをし始めた。
「概要を説明します。実戦を行う場所は、ここから西南西に少し行ったレッドケープという地域です。この地域は伝統的に治安が悪く、オストガルド軍も度々そこに派遣されています」
教官は黒板を指し示しながら説明をした。大体の概要は候補生にはつかめたようだった。
「今回、諸君の中でレッドケープに向かって頂くのは成績上位者十名です。これから名前を呼びます」
教官は名前を呼び始めた。その中には、ホーク、シェラ、アベル、そしてカイトの名前も含まれていた。
「出発は三日後です。呼ばれた方々には学んできた兵科に従って、実際に兵を指揮して頂きます。三日間で準備を整えておいて下さい。なお、その方々には出発までの期間、特別休暇を与えます。説明は以上です」
教官は教本を開いて通常の講義を始めようとした。
「では講義を始めます。先ほど呼ばれた方々は退席して休養と準備をお願いします。命令ですので……」
ホーク達はその言葉に従って退席した。
レッドケープへの出発の当日になった。
ホーク達はオストガルド郊外のかなり広い馬場に来ていた。この馬場はおおよそ五万人ほど収容できる。兵士、指揮官の集合や調練などに使われている。既に、レッドケープへ賊の征伐に赴く兵士達は整列していた。
「久しぶりですな、ホーク君」
指揮官の一人に老剣士キルスがいた。
「キルスさんが来てくれるんですか。それは心強い」
ホークがそう言うと先に来ていたカイトが話に加わってきた。
「爺が率いる軽装歩兵の剣士隊はオストガルドで一番強いんだ。今回の賊の征伐くらいなら爺がいれば負けることはないだろう」
「油断はなりませぬぞ王子。あなたも今回は指揮官の一人なのですから」
「全くだ。気をつけよう」
そう言うと三人で笑った。戦いの前だというのに良いムードだった。
「それはそうとホーク。なんでお前は馬に乗ってないんだ? 乗り方なら習ったんだから乗れないわけじゃないだろう?」
「ああそれか。兵士さん達は歩いていくだろう。……まあ騎馬隊は違うが、歩きながら兵士さん達の話を聞いておこうと思ってね」
「流石、ホーク君ですな。兵士のことにまで考えが及んだ候補生はホーク君が初めてです。感服しました。私も降りて歩いて行こうか……」
「いや、カイトとキルスさんは馬で移動した方が良いでしょう。カイトは立場上、これから先頭に立って戦にしろ国政にしろ国を引っ張っていかなければいけないから。キルスさんはここまで国を守ってきた実績がある。逆に馬から降りて、徒歩で行軍したら兵が動揺すると思います」
ホークの献策に、カイトとキルスは深くうなずいた。
「やはり、ホーク君にオストガルドに来てもらって良かった。私の目に狂いはなかったようだ。これからも王子をそのような献策で支えてあげて下さい」
キルスが深々と頭を下げるのに、ホークは恐縮して慌てた。
「僕はまだ十六で若造もいい所です。たったそれだけの献策で頭を下げられても困ります」
「いや。お前の言う事はいつも的を射ている。これからも頼む」
「カイトまで、やめてくれ。とにかく、僕は兵士達に混じって行軍し、話を聞いてきます。じゃあいったん別れます。レッドケープでな、カイト」
「分かった。後でな」
今回、賊の征伐のために集められた兵は三千人ほどだった。軍の規模としては、それ程大きくはなかったが、精鋭揃いだ。ホークはその中に紛れ込んで移動し始めた。




