第二十四話 士官学校の夏期休暇
オストガルド士官学校……。
ホーク達が入校してから二ヶ月が経った。既にホーク達は本格的な講義を受けていた。
ホークは魔道兵の兵科を選択しており、同期の魔法の素養がある二人も同じく選択していた。一人はシェラ。もう一人は今日まで交友がなかった。
「では講義を始めます」
魔道兵を扱えるということは、国軍の中でもエリート中のエリートということになる。そのため少人数でも特別な教室をその講義のためにあてがわれている。
「魔道兵部隊というのは一言で言えば、軽装歩兵と訓練によって魔法を身につけた兵士、それに皆さんのように、生まれつき強い魔力を持った指揮官による混成部隊です」
教官は黒板に概要を書きながら説明していた。ホーク達は熱心にメモをノートに取っている。
「軽装歩兵と魔法を身につけた兵士……略して魔兵と呼びますが、混成部隊における割合は7対3です。これは基本的な割合で若干変わることもあります」
教官はそこまで黒板にまとめた後、ホーク達の方を向き直してこう言った。
「何にしろ、魔道兵の強さは指揮官の魔力の高さで決まります。ですから、鍵を握るのは皆さん次第です。机上の講義だけではイメージしにくいでしょうから、外で少し演習をしてみましょう」
そう教官は言うとホーク達に演習場に来るように指示した。
「あら。おはようホーク君」
演習場にはこの間、知り合った先輩のサリアがいた。また、そこには演習のために招集された兵士が何十名かいた。
「おはようございますサリアさん。久しぶりに会いますね」
「ふふっ。そうね、あの時は有難う。助かったよ」
「いえ全然。で、サリアさんはなぜここに?」
「一応あなた達の先輩だからね。演習の見本を見せにきたの。教官の指示が出たら私が魔道兵の扱い方の基本を見せるようになっているわ」
「それは楽しみですね。じっくり見させてもらいます」
二人が少し雑談をしている間に教官も用意を整えたようだった。
「皆さん見ての通り、演習のために数十名の兵士に集まってもらっています。いきなり魔道兵を扱えと言っても無理があると思いますので、今日は二期生のサリアさんに見本を見せてもらうことにします」
教官はそう言うとサリアに後を委ねた。
「初めましての人もいますね。二期生のサリアです。私は氷結系の魔法が得意なのでそれ中心に演習をお見せしようと思います。じゃ、早速……」
そう言うとサリアは指揮官用の台にあがった。あがると顔つきが変わっていた。
「軽装歩兵隊! 前進用意!」
サリアの号令と共に最前列の軽装歩兵隊は全員前進するために身構えた。
「魔兵隊! 補助魔法詠唱用意! 詠唱種別パワー・レベル1!」
十名程の魔兵隊は補助魔法の詠唱を始めた。ことごとく行動が揃っていた。
「私もパワー・レベル2の詠唱を開始する! 私の詠唱終了時に軽装歩兵隊は目標に突撃せよ!」
サリアはそう言うと集中を始めた。
ホーク達はその迫力に驚いていた。興奮を抑えながら見ていた。
サリアは集中を終えた。
「パワー・レベル2!」
「パワー・レベル1!」
サリアの詠唱と魔兵隊のそれがほぼ同時に終了し、赤い光の帯が軽装歩兵隊を包んだ。
光の帯に包まれた軽装歩兵は強さと士気が格段に向上していた。
「うおおおおっ!」
軽装歩兵隊は掛け声と共に目標となる木でできた小的に向って突撃した。突撃と共に、的は一瞬で粉々になった。残ったのは奥にある大的だけになった。
「軽装歩兵隊! 左右に散開後待機! 魔兵隊、攻撃魔法詠唱開始! 詠唱種別アイシングサーモ・レベル1!」
魔兵隊は再び魔法の詠唱を開始した。
「私もアイシングサーモ・レベル3の詠唱を開始する。私の詠唱終了に合わせよ!」
サリアも再び集中を開始した。程なく集中は終わり、言葉を発した。
「アイシングサーモ・レベル3!」
「アイシングサーモ・レベル1!」
魔兵とサリアの手から無数の氷塊が発生し、目標の大的に向って氷塊の群れが高速で飛んで行った。大的は一瞬で粉々に砕け散った。
「目標撃破! 軽装歩兵隊! 元の陣形へ整列!」
サリアの号令で、軽装歩兵は陣に戻ってきた。非常に鮮やかな手並みだった。
「サリアさん有難う御座います。演習は以上で終了です。お疲れ様でした」
教官がそう言うと、サリアも緊張を解き指揮官の台から降りた。表情は優しいものに戻っていた。
「どう? 参考になった?」
サリアはホークに話し掛けてきた。
「ええ。有難う御座います。お手並みに感服しました。凄かったです」
「君なら一年も経てばあれくらいできるようになるわよ。間違いなく私より軍才があるから。女と男だと、どうしても軍事に関しては差がでちゃうのよね。大抵の男には負けないんだけど」
「女性は根が優しいからでしょう。僕のように男の方が戦いの時に非情になれると思います」
ホークの返事にふふっとサリアは笑った。
「君はそんなに非情かなあ? 優しい面しか見えないんだけど? まあ自分で言ってるのならそうなのかも知れないわね」
「非情な面も自分ではあると思うんですが……何にしろ参考になりました。有難う御座いました」
「うん。またね。今度は一緒にご飯でも食べよう」
サリアはそう言うと手を振って、演習場を後にした。ホーク達も手を振り返した。
「ホーク。お前凄い先輩知ってるんだな」
サリアとホークのやり取りをずっと見ていたシェラがホークに話し掛けてきた。
「ああ。入校したばかりの時にちょっとな」
「凄い……僕もあんなふうになれるんだろうか……」
今まで黙っていたもう一人の同期の候補生が初めて口を開いた。
「やっと喋ったね君。名前聞いていいかい? 僕はホーク。得意な魔法は火炎系だよ」
「僕はアベル。電撃系の魔法が多少使える」
夏期休暇前のある日。
候補生達は皆真面目に講義や演習に励んでいた。ただやはり皆、長期休暇前になると嬉しいのかそわそわしてくるようだった。
(もう何日かしたら久しぶりにリゾレッタに帰れるな)
ホークも例外ではなかった。
「もう少しで長期休暇だな。やっぱりリゾレッタに帰るのか?」
「ああ。もちろん帰るよ。実家が好きだからな僕は」
「一月半まるまる実家にいるつもりか? もしかして?」
「? そのつもりだけど」
ホークの返答にカイトはやれやれといった顔をした。
「あのなあ。普通の候補生は一週間位実家に帰って、後の休暇はオストガルドで彼女でも作って繁華街で遊ぶもんなんだぞ。行きがけにオウルさんから、かなりの金を貰っただろう。少しは遊べよ」
「今でも十分遊んでいるつもりなんだがな」
「……堅物だよなお前は。本当にちゃんと女の子に興味があるんだろうな? 心配になってきた」
「女の子はちゃんと好きだから心配なく。帰ったらレンと遊ぶから」
それを聞いてカイトは安心して笑みを浮かべた。
「そういうことか。良かった。それなら安心だ。レンも喜ぶだろうな。俺も皆に会いたくなったな」
「それこそお前も一、ニ週間、リゾレッタに来たらどうだ? 故郷みたいなもんだろう? お前にとっても?」
「いいのか?」
「当たり前だろう。何年一緒に暮らしてきたんだ?」
それを聞いたカイトは照れくさそうに笑った。
ホークは夏期休暇が始まるとすぐにリゾレッタに帰省した。
道中でエレナが用意してくれた二食分の弁当を食べたが、食べるたびにエレナの泣き顔が浮かんだ。
(レンもオストガルドに出発する時に泣いてたよな…ちょっと会えないだけなのに、なんで泣くんだろうな女の子って、よく分からん)
途中から、小走りに急いだので一日でリゾレッタに着いた。村に着いて懐かしい感傷に暫くかられたが、気を取り直して実家に向かった。
「おお! ホーク! 帰ったか!」
畑仕事をしていたラークがまず出迎えてくれた。
「久しぶりだね父さん。元気?」
「ああ、ピンピンしてるぞ。よし今日はご馳走にするか。母さんに挨拶がてらそう言っておいてくれ」
「そうしようか。母さんに会うのも久しぶりだなあ」
「……お前がオストガルドに行ってから寂しそうにしていたぞ。早く行ってあげなさい」
「分かった」
ホークは実家の玄関へ急いだ。
「おかえりホーク、ちゃんと食べてたかい?具合が悪くなったりしなかったかい?」
「ああ、大丈夫だよ。城の方で世話をしてくれるから元気だよ」
「それならいいけど……しんどかったら辞めて帰ってきてもいいんだよ」
「自分で決めたことだからね。少なくとも卒業までは頑張るさ」
「お前は頑張りだすと歯止めが効かないからねえ……心配だよ」
メイシャは子を思う母親らしくホークを心配した。
「それはそうとカイト君はこっちに来るの?」
「後になってくると思うよ。あいつは一、二週間しか、こっちに来ないって言ってた」
「あの子は王子様だからねえ。本国に戻ったら、あまりあっちこっちに行けないんだろうねえ」
それもそうだなと、ホークは思った。
「忘れてたけど、今日はご馳走にしたいって父さんが言ってたよ」
「よし! お前が帰ってきたんだ。腕によりをかけてご馳走を作るよ~!」
久しぶりに息子のホークを見たメイシャは、張り切っていた。




