第二十三話 王女ファナと女王アリサ
モリスがエルフィンに出発してから三日後……。
ようやくエルフィンに着いたモリスはドワーフが守っている関所で通行許可を貰おうとしていた。
「グランドパレスからの使いか……。珍しいが、あの国は侵略戦争ばかりやっていると聞く。俺はあまり好きではないな」
関所の責任者にあたるドワーフが正直にそう答えたのを聞いて、モリスは苦笑した。
「やはり評判が悪いなあ。分からないこともないが……。しかし、今回、エルフィンへ来たのは親善のためで、他意はありません」
最終的な目的は浄石を譲ってもらうことだが、あえてモリスはそのことには触れなかった。
「まあいい。あんたの国は嫌いだが、あんたの人柄は信頼できそうだ。通行許可を出そう。この券を持っていけ。無くすなよ」
ドワーフはそう言うと通行許可証をモリスに渡した。
「有難う恩にきるよ」
エルフィン内での行動許可を貰った、モリスと従者は城下町を目指して先を急いだ。
程なく城下町に着いた。
「美しい町だな……。ここがエルフィンか……」
水と緑と建物の調和が素晴らしい町の光景にモリスは感動していた。
「見とれてばかりもいかんな、城を目指すか」
モリスと従者は城に向って行った。
通行許可証のおかげで城には簡単に入れた。
城内に入ると、エルフの女の子がいて、不思議そうにモリスの方を見た。その女の子を見たモリスは苦笑した。
(エルフやドワーフばかりの国だから、俺は浮いているな)
内心そういうことをモリスは考えていたが口には出さなかった。モリスは先に進もうとしたが、意外にも、その女の子が近寄って来た。
「おじちゃんは人間? どこから来たの?」
話し掛けてくれると思っていなかったモリスは少しうろたえたが、もちなおして答えた。
「グランドパレスという所さ。この国に用があって来たんだ」
「どこにあるの? そのお国?」
「ここからかなり北の方だよ。お嬢ちゃんはこの城のエルフなのかな?」
「うん。そうだよ」
(エルフは人間を嫌っていると思っていたが……)
こんなに気軽に話し掛けてくれる、エルフがいることが未だにモリスには信じられなかった。
「どうしたのおじちゃん?」
女の子はあどけなかった。
「いや、何でもないんだ。実はこの国の女王様に会いに来たんだけど、簡単には会えないだろう?誰に断りをもらったら会えるのかな?」
「それならファナが言ってきてあげる。おじちゃん良い人そうだし」
「えっ。お嬢ちゃんが? 大丈夫なのかい?」
「大丈夫! ちょっと待ってて」
ファナはそう言うと城の奥の方へ走って行った。
(なんなんだろう、あの子は……)
そんなことを思いながらモリスは待っていた。暫く待っていると、ファナが戻ってきた。
「いいって! こっちに来て」
モリスはファナに連れて行かれるように、女王の間に入って行った。
「グランドパレスから来られたのですね。よくいらっしゃいました。この国の女王のアリサといいます」
玉間には女王アリサと側近が二名いるだけだった。モリスはアリサの挨拶に答えた。
「恐縮です。私はグランドパレスの文官、モリスというものです。お目通り有難うございます」
女王アリサもファナと同じく、モリスの態度に好感を持ったようだった。
「グランドパレスは私達にとってはあまり好感の持てる国ではありません。ただ、その国から来たあなたは信頼できそうです。ご用件を伺いましょう」
アリサから話を切り出してくれたので、モリスはほっとした。
「それでは用件をお伝えします。私は両国の親善のためにエルフィンに訪れました。こちらが心ばかりの手土産になります」
モリスはそう言うと、従者にチェスの道具一式を持って来させた。
「女王様はこの遊具をご存知ですか?」
「名前だけは聞いたことがあります。チェスというテーブルゲームに使う道具ですよね」
「はい。その通りです。我が国の国王クーガーは無類のチェス好きです。この遊具を通して、エルフィンとの文化交流を進めたいと考えられています」
一緒に玉間に入っていたファナは、もの珍しかったのだろうチェスの駒を触って遊んでいた。それを見てアリサは微笑みながら、ファナに諭した。
「こらこら。お客様が持ってきてくれた物を勝手に触るのではないのですよ」
「は~い。ごめんなさい」
ファナはそう謝って、アリサの側に駆け寄った。
「娘が失礼いたしました。」
「娘……? 姫君でしたか! そうとは知らずこちらこそ失礼しました!」
恐縮したモリスを見てアリサは笑った。
「いえ。気になさらないで下さい。年を取ってからやっと授かった子で私もあまり強くはしつけられないのです。こちらの方こそ失礼があったのではないかと恐縮です」
「いえいえ。姫君から話しかけていただいたので私としても助かりました。子供としても、とても良い子だと思います」
アリサは駆け寄って来たファナの頭をいとおしそうに撫でていた。
「この子は最近まで、オストガルドで人間と一緒に暮らしていたのです。あなたを恐がらずに話しかけられたのも、そのためでしょう」
「はい。門前払いも覚悟していましたが、助かりました。姫君は育った環境が良かったのでしょう」
「ええ。とても善い方ばかりに育てられたようです。特にホークという男の子のことが頭から離れられないのでしょう。数え切れないくらい、その子のことを繰り返して喋ります」
「ホーク? どこかで聞いたことがある名ですね」
「……まあ雑談はこれくらいにしましょう。贈り物は有難く受け取り、皆にチェスの文化を広めることにします。また私からクーガー王に親書を書きましょう。遠方からご苦労さまでした」
「有難う御座います。来た甲斐がありました。それでは失礼します」
下がろうとするモリスをアリサは止めた。
「お待ち下さい。宿を手配しましょう。少し城内で待っていて下さい」
「宿まで手配して下さいますか……。お気遣い痛みいります」
モリスは暫く城内で待つことにした。
城内のロビーでモリスが待っていると、またファナが近寄って来た。
「これは姫君。先ほどは失礼しました」
「ファナでいいよ。さっきみたいに話してよ」
(本当に良い育てられ方をしておられるな)
モリスはそう思いながら言葉を続けた。
「じゃあ、ファナちゃんと呼ぼうか。どうしたんだい?」
「おじちゃんがこの国に来たのはもしかしてこれが目的じゃない?」
ファナはそう言うと左手に握っていた、光沢を持ち言いようがないほど美しい石をモリスに見せた。モリスはそれを見て非常に驚いた。
「もしかしてこれは……」
「浄石だよ。ファナ、これを作るの得意なんだ~。これが欲しかったんじゃないの?」
「欲しい。本当に正直に言うと」
モリスの正直さにファナは微笑んだ。
「じゃあ一つだけあげるね。おじちゃん善い人だから特別だよ」
「有難う。本当に有難う」
モリスは嬉しさに涙がこぼれ落ちそうだった。




