第二十二話 新たな仲間とグランドパレスの動向
兵科の選択は無事に済んだ。後の講義は、どういった教育を士官学校で行うかなどといった、説明が主だった。
「また時間が余ったな」
大半の候補生は講義が終わったあとも、学内に残っていた。ホーク達もそうしていた。
「僕以外に二人、魔法を使える人がいるんだな。今年度は」
「そうらしいな。誰か気になるが……」
カイトがそう言うと一人の候補生が近くに寄ってきた。
「魔法が何とか、とか言ってたね?もしかして魔道兵を選んだ?」
ホークに話しかけているようだった。
「うん。それを取ったよ。もしかして君も?」
「ああ。俺もそうさ。遅れたけど、俺はシェラという名前さ。宜しく」
シェラと名乗った候補生が、握手を求める手をホーク達に伸ばしてきた。
「ホークです。宜しく」
「カイトと言います。宜しく」
握手を交わした後、三人は適当な所に腰を落とした。そして、適当な話をし始めた。シェラは気さくな少年で三人ともすぐに打ち解けた。
「へえ。リゾレッタからかい。あそこから候補生になるのは、滅多にないんだけどね。君たちは優秀なんだなあ」
「優秀なのはホークだけだよ。俺はおまけで入っているようなもんさ」
シェラはカイトのことを知らないようなので、カイトは身分を隠していた。
「おまけで入れるような所じゃないんだけどなあ。謙遜するんだな」
シェラがそう言った後、一時、間があった。その間を取って、ホークがシェラに尋ねた。
「シェラはどんな魔法が得意? 僕は火炎系なら多少使える」
「俺には火炎はちょっと無理だな……。俺の得意な魔法は一言で言えば撹乱さ」
ホークは興味を持った。
「かなり特殊なのを使うんだな。何となく想像がつくけど……」
「見てみないと分からないだろうな。そうだな……じゃあ少し披露しようか」
そういうとシェラは移動の目配せをした。それに従って、二人はシェラについて行った。
ホーク達がシェラに連れられて来たのは、郊外の広場のような所だった。人気はほとんどない。
「ここなら気兼ねなく魔法を見せられる。じゃあやってみようか」
シェラは集中し始めた。集中はすぐに終わり、言葉を発した。
「ダミー・レベル2!」
その言葉と共に、シェラの手から紫色の光が無数に、伸びそれが二十体ほどの動く人影に変化した。
「凄い……」
ホークとカイトは驚かざるを得なかった。
「まだ、もう二、三種類の撹乱用の魔法を使えるんだが、一番代表的なものを見せたよ」
「この人影はもっと増やせるようになるのか?」
「ああ。修行を積めば幾らでも増やせるようになるよ。でも、今の俺には五十体が限度だな」
「これは僕も覚えたいな。こんな魔法があるとは思いもしなかった」
ホークに誉められたシェラは照れていた。
「そうか、そんなに気にいったのなら教えてやるよ。俺と友達になってくれるんならな」
「? もう友達だろう」
ホークがきょとんとしてそう言うとカイトとシェラは声をあげて笑った。
「面白いだろ? こういうやつなんだよホークって」
三人は改めて握手を交わした。
所が変わってグランドパレス……
「フェジーナ」
「はい」
戦王クーガーはここ数年は侵略戦争は控えて内政面における国力の充実を図っていた。後の側近になるフェジーナの成長を待っていた面もある。そのフェジーナにクーガーは意見を求めていた。
「今のわが国の国力でどの位、戦を続けられるか答えてみてくれ」
「ざっと考えますが……」
フェジーナは頭の中で暗算のイメージを作った。
「三年は大丈夫でしょう。ただ五年、戦を続けると物資が底を尽きます」
「三年か……それでも三年はもつか。暫く内政に力を注いだ甲斐があったな」
そう言うとクーガーはフェジーナに城下の巡察に行こうと持ちかけた。
グランドパレスの城下町は流石に本国だけあって、北国でも活気がある。クーガーはこの町の巡察が楽しみの一つだった。
「もう少し土壌が良ければ、まだまだ豊かになると思いますが……」
「私もそれはずっと考えていた。良い土壌があれば、労働力や傭兵の国外への派遣も大幅に減らせる」
「必然的にそうなれば、本国の人口も増えますからね」
「そうだな……何か手があれば」
クーガー達がそう話しながら歩いていると、足元に幾つかのビー球が転がってきた。
「キラキラー。キラキラー」
あどけない幼児がクーガー達の前に出て来た。ビー球を追ってきたのだろう。その子を顔色を変えて追ってきた母親が、クーガーに対して平謝りに謝った。
「申し訳御座いません! クーガー様! 何とぞお許しを!」
「いや、謝ることはない。かわいい子だな」
側らに居たフェジーナが、幼児が追ってきたビー球を拾ってその幼児に渡した。
「気をつけるんだよ。お母さんともっと広い所で遊んでおいで」
「有難うお兄ちゃん」
「いやいや。どういたしまして」
その子の母親は我が子を抱きかかえ、深く礼をした後で、その場を急いで立ち去った。
「ビー球で思い出しましたが……」
「何を思い出した?」
「土地を浄化する石のことです」
「浄石のことだな?」
「はい。エルフィンの王族にしか作れない物だと聞き及んでいます」
クーガーはフェジーナの言葉の後、少し間を置いて考えた。
「使いを出してみるか……」
「よいお考えだと思います。ただ、我々はエルフィンに嫌われています。恐らく国王の思われている以上に」
「争いを嫌う種族が暮らしている国だからな。かと言って、何もしない手はなかろう?」
「おっしゃる通りです。では使いを出されますか?」
「うむ。モリスを呼んでくれ。我が国で外交となるとモリスしかおらん」
「かしこまりました」
巡察後、クーガーは自国における外交の要であるモリスを呼び出した。
彼は温厚な性格で数多くの他国間での外交実績がある。クーガーの信任も厚く、フェジーナもモリスのことを尊敬していた。
「来てくれたかモリス。遠方ですまんが、エルフィンに向ってもらいたい。最終的な目的は浄石を分けてもらうことだが、今回は親善を深めることができれば上出来だろう」
「かしこまりました。では早速……」
モリスはすぐに出発しようとした。それを見て、クーガーは苦笑しながら止めた。
「待て待て。手ぶらで行っても仕方がなかろう。これを従者に持たせておけ」
クーガーはそう言うと側近の家臣に手土産と親書を持って来させた。手土産はチェスの駒と台だった。
「親書は分かりますが、チェスですか……」
「エルフィンは娯楽の少ない国だと聞く。我が国もお世辞にも娯楽が多いとは言えないが、戯曲やテーブルゲームくらいはあるからな」
モリスはチェスの道具一式を改めて見て微笑んだ。
「国王はチェスがお好きでしたね。この手土産は効果があるかも知れません」
「モリスがそう言ってくれるなら心強い。では頼む。気をつけて行ってきてくれ」
「かしこまりました。では、用意が整い次第出発します」




