第二十一話 先輩サリアと兵科選択
入校式を終え辞令も貰ったホークとカイトは、時間が余ったので城下町を散策することにした。
「あのエレナって娘はどうだ?」
「しつこいなお前も」
ホークの言い様に、カイトは哄笑した。
「お前が堅物すぎるから言いたくなるんだ。俺たちも女の子に興味を持つ年頃だろう?」
「堅物かも知れないが、心配しなくても僕は普通に女の子は好きだ」
「そうか。珍しいことを言うから、ちょっと驚いたな。じゃあ例えば誰が?」
カイトの言い様に、ホークは煙たがった。
「しつこいな本当に」
「これだけ訊いたら終わるよ」
仕方ないといった感じでホークは答えた、ホークにとってはその問いは考えるまでもなかった。
「レンとファナだよ」
「だろうなあ。そう言うと思ったよ。会える機会が多い、レンが一歩リードだな」
「茶化すな」
思春期の少年らしい会話を二人がしていると、突然大きな怒声のようなものが聞こえてきた。二人のかなり前方から聞こえてきたようだった。
「喧嘩か?」
ホークとカイトは示し合わせて、怒声がした方へ走り出した。程なくその現場に着いた。
「女の子が……」
「囲まれているな」
一人のホーク達と年が近い女の子に数人の男が囲んでいた。
「もういっぺん言ってみろ! このガキ!」
「何度でも言ってあげる。昼間からお酒を飲んでヘラヘラしてるあんたらなんか、相手にする女なんていないわ」
その女の子は真っ当なことを言っているようだったが、挑発的だった。
「このガキ! 言わせておけば!」
酒に酔った男達は挑発されてその少女に手をあげようとした。
「やめとけ」
近付いていたカイトは止めに入った。
「なんだ? こっちもガキか! 俺たちは今、機嫌が悪いんだ! てめえもぐだぐだ言ってると殴っちまうぞ」
「殴っても構わんが……俺たちは士官候補生だ。それでも殴るか?」
そう言うとカイトは辞令と共に渡された学生証をならず者の男達に見せた。それを見て男達は恐れ驚いたが、まだ威勢はよかった。
「……エリートさんか、へっ……へへっ。お前らが恐くて昼間から酒が飲めるか!」
「恐いだけで済めばいいが、お前ら黒焦げになるぞ?」
「は?」
カイトは何も言わず後ろを示した。後ろではホークはいつでも火炎魔法が使えるように集中していた。既に炎の力場がホークを中心にできていた。
「魔法使い(マジシャン)か!」
「逃げろ!」
ならず者達はホークに恐れをなして、一目散に逃げ出した。
ホークは集中を止めた。
「お前本当に撃つつもりだったか?」
「撃たないと分からんだろう、ああいう連中は」
「容赦ないよなあ、お前は」
ならず者達の囲みから開放された女の子は、ホーク達に近寄って来た。
「有難うね、助けてくれて。でも多分、私だけでもなんとかなったと思うわ」
ホークとカイトは顔を見合わせて不思議そうな顔をして、また、その女の子を見た。
「? どう考えても力じゃ敵わないだろう。さっきの連中には?」
「私も魔法使いなの。あなたと正反対の属性の魔法が得意なんだけどね」
「それと……」
女の子は携帯していた小型のバッグから何かを取り出した。
「ほら! 私はあなた達の先輩なのよ」
ホーク達に見せたのは士官学校の学生証だった。名前はサリアと書いてある。
「おはよう。ホークさん」
入校式と先輩のサリアとの出会いのあくる日…。今日もエレナが起こしに来た。
「ああ。おはようエレナ」
早起きが習慣のホークは既に起きており。これもまた習慣になっている読書をしていた。
「本が好きなんですね、ホークさんは」
「子供の頃から好きだからね」
エレナは本を読んでいるホークに近付いて来た。
「ちょっと見せてもらっていいですか?」
「ああ、いいよ。この本は世界の地理、歴史のことが書いてあるんだ」
ホークはそういいながらエレナに自分が読んでいた本を渡した。エレナは何ページか読んでみたが、諦めたようだった。
「読めない文字ばっかり……ホークさんはこんな難しい本をすらすら読んでいるんですね。私には無理です」
「そんなに難しいかなあ。そうでもないと思うけど……」
「頭がいいからそう思うんですよ。普通の人には難しすぎます」
エレナはそう言ってホークに本を返した。
「まあ、役に立たないこともないけど、こんなこと知らなくても生活はできるからね。ただ僕がマニアックなだけかも知れないね」
「いえ。こういった地理や歴史にも詳しいなんて立派です。マニアックとは違います」
エレナがそうフォローしてくれて、ホークは声をあげて笑った。
「そう言ってもらうと有難いよ。じゃあ朝御飯を頂こうか」
朝食を済ませたホークは、オストガルド士官学校に向った。今日から講義が始まる。
初日は学ぶ兵科を決める日になっている。
「おはよう、ホーク」
「カイトか。来ていたか」
兵科選択のガイダンス(案内)が始まるまではまだ時間がある。二人ともかなり早めに来ていたが、すでに教室内にはかなりの候補生がいた。
「カイトは学ぶ兵科を決めてきたか」
「ああ」
「どれとどれだ」
学ぶ兵科は二つ選択できる。
「もちろん、歩兵と騎兵だ」
「まあそれしかないよな」
「で、お前は。まあ……訊かなくても分かるが」
「歩兵と魔道兵」
「選択の余地がないよな。それしか」
「弓兵にも興味があったんだが、まあしょうがない」
「三つも学んでる暇はないからな。そろそろ教官が来る頃だな」
カイトがそう言うと程なく始業のチャイムと共に兵科を決める案内役の教官が入って来た。
「おはよう御座います、皆さん」
「おはよう御座います」
候補生に欠席者は一人もいなかった。
「今日はあなた方が、オストガルド士官学校に入校した初日です。まず、今日はあなた方が学ぶ兵科をそれぞれ決めてもらいます」
そう教官は言うと、後ろの黒板に何かを書き始めた。書き終えるとこう言った。
「ここで学べる兵科は、歩兵、騎兵、弓兵、それに魔道兵です。大雑把に言えばこの四つの兵科になります」
教官はここで言葉を切って、魔道兵と書かれた文字を指し示しこう付け加えた。
「四つの兵科の内、魔道兵だけが、かなり特殊な兵科になります。生まれつき魔法の素養がある人間しか、この兵科は選択できません。魔道兵を専攻できるかどうかは事前にチェックしています。今年度の候補生の中で、この兵科を選択できるのは三人です」
教官は教室の皆を見渡した。
「名前は公表しませんが、この三人には是非、魔道兵の兵科を選択して頂きたい」
そう言うと、教官は様式が書かれた用紙を持った。
「では、兵科を選択して頂きます。様式に従って書いて下さい。名前などの記入漏れがないようにお願いします」




