第二十話 看板娘エレナ
オストガルド城下町。
キルスと別れたホークとカイトは、ホークの寄宿舎に定められた小さなレストランに向っていた。
小風亭。という名前の店らしい。
キルスから渡された簡単な城下町の地図を頼りに探索すると、程なく目的の小風亭を見つけた。
「いらっしゃいませ~。有難うございます」
店先まで来るとホーク達と同い年くらいの看板娘の声が聞こえてきた。
「御免ください」
二人は店の戸をくぐった。
「いらっしゃいませ~。二名様ですか?」
「いや客じゃないんだ」
「冷やかしはご遠慮頂きます」
「いや、冷やかしでもないんだ」
「じゃあ何ですか」
割と融通が利かない娘だなと二人は思った。
「俺が訳を話そう。城からは連絡が行っているはずだから、俺が話した方が良いだろう」
「御免。頼むよ」
カイトは小風亭に来た理由を話した。
「そうだったんですか。失礼しました。私にまで話が来てなかったので知りませんでした。失礼しました」
そう詫びながら、看板娘は礼をした。
「いや、いいんだよ。いきなり来たら訳が分からなくなるもんだろうから」
カイトがそう取り成した。一時、間があった。
「で……」
カイトはホークに目配せした。その後にホークが言葉を続けた。
「ホークと言います。ここで暫く寄宿させて頂きます」
ホークの丁寧な言い方に少し看板娘は慌てた。が、悪い印象は持たなかったようだった。
「私はエレナと言います。今から女将さんと旦那さんに取り次いできますね。他人行儀ないい方をしてますが、私の両親です」
看板娘のエレナはそう言うと奥に下がって言った。
「最初は融通が利かんなと思ったけど、訳を話したら、物分かりのいい、良い娘になったな」
ホークが珍しく女の子を誉めたので、カイトは少し驚いた。冷やかしてみたくなった。
「好意を持ったのか? 確かに良い娘だよな。オストガルドでの彼女にするか?」
「僕がそういうことをすると思うか?」
「いや……そうだよな。すまなかった」
カイトは怒らせるとホークより恐い奴はいないと思っている。ただ、こう付け加えた。
「謝るけど、お前、真面目すぎるんだよ。昔っから」
程なく、女将と旦那がエレナと一緒に出て来た。そして、すぐにホークは部屋に案内された。それを見てカイトは城に帰った。
夕焼けが鮮やかな夕刻の頃だった。
ホークが小風亭で一晩泊まった翌日……
「おはよう。ホークさん」
エレナがノックしてホークの部屋に入ってきた。
「ああ。おはようエレナさん」
ホークは自室でリゾレッタから持参して来た本を読んでいた。
「さん、はやめて、エレナと呼んで下さい」
「その方がいいのかな。じゃあ今度からそう呼ぶよ」
ホークはそう言いながら本をしまった。
「ここでのホークさんの身の回りの御世話は、私がするようになっています。洗濯物など御座いませんか?」
「昨日来たばかりだから無いよ洗濯物は。それにご飯を食べさせてもらっているから、洗濯くらい自分でするよ」
エレナはその言葉を聞いて意外に思った。
「……ホークさんは他の士官候補生とかなり違うんですね。洗濯を自分でなさろうとする方は候補生の中ではいらっしゃらないです。エリートなのに」
それを聞いてホークはきょとんと不思議そうな顔をした。
「? 当たり前じゃない。自分の身の回りのことは自分でやるだろう?」
「いえ。いらっしゃいませんよ。そういう方は」
何でだろうとホークは腕を組んで考えた。
「僕は生まれがそんなによくないからかなあ。士官候補生は坊ちゃんばかりらしいから」
ホークの、のんきな返事を聞いてエレナはクスクスと笑い始めた。
「面白い方ですね、ホークさんは。自分で身の回りのことはなさりたいと思いますが、ここでは私に任せて下さい」
「じゃあ頼もうかな」
「はい。これから宜しくお願いします。朝食ができていますよ」
朝食をすませたホークは城に向った。オストガルド城で士官学校の入校辞令が出るからだ。
オストガルド士官学校は国営で入校すれば毎月幾らか給金が出る。だから金銭欲や物欲に頓着のないホークは、
(オウルさんから貰った金を使うことがあるかな?)
と考えていた。
「来たなホーク。待ってたぞ」
城に来るとカイトが出迎えてくれた。城の中にはかなりの人数の士官候補生がいた。
「見ての通り……」
「名家の坊ちゃんばかりだな」
「ああ。お前が一番育ちが悪いはずだ」
「この間までリゾレッタで一緒に暮らしていたんだから、お前も同じだろう」
「はははっ。その通りだ。王子の肩書きがあるだけだ」
二人がいる場所は他の候補生がいる場所とはやや離れているので、他の候補生には会話は聞こえていないようだった。
「……二年この学校にいないといけないんだよな。坊ちゃん方と打ち解けられるかなあ」
「大丈夫だろう。名家の出でも、気さくな人は結構いる。お前の性格なら俺以外にもすぐ友達ができるはずだ」
ホークは軽く笑ってうなずいた。
「皆さんお静かに! オストガルド国王が御見えになりました!」
とりまとめ役の側近がそう言うと周りに緊張感が走り、皆黙って整列し始めた。
「これより国王からオストガルド士官学校への入校辞令が渡されます。名前を呼ばれたら、前に進み出て受けとるように」
辞令を持った国王が候補生の前に立った。
「諸君はオストガルドの各地域から選抜されたエリートです。素養は皆十分にあります。ただ、士官学校での二年間は厳しいものになると思います。それを心するように」
そう言うと国王は辞令を持ち直した。
「では辞令を配ります。……君」
「はいっ……」




