第十九話 対照的な父と母
三人はオストガルドに向かう前にシクロスに寄ることになった。
伯父のオウルに挨拶に行くためだ。
リゾレッタから少し距離はあったが、早足で歩いたので、昼過ぎには着いた。
「ホークじゃないか! 久しぶりだな! カイト君も大きくなったな」
「お久しぶりです。ご無沙汰しています」
「マスエルは今出ているんだ。いれば喜んだだろうが……」
「そうですか。ちょっと残念ですね」
オウルはキルスに目を移した。
「この御仁は?」
「私はキルスという、オストガルド本国に士官している老剣士です。国王よりカイト王子に帰還命令が出されたので、王子をお迎えにあがりました」
それを聞いてオウルは少し驚いたようだった。
「ほう、そうでしたか。オストガルド本国から。カイト君は王子様だったんですね。で、カイト君だけでなくホークもいるということは……」
「カイト王子の側近になってもらうため、ホーク君にもついて来てもらうことになっています。それでこちらにご挨拶に来ました」
再びオウルは驚いた。
「ホークが仕官する気になるとは思わなかった。どういう風の吹き回しだ?」
「カイトに頭を下げられたんです。断りきれませんでした」
ホークの言葉を聞いてオウルはうなずいた。
「何にしろ私はそれは素晴らしいことだと思うぞ。そうかそうか……少し待っていなさい」
オウルはそう言うと少し奥に入り、使用人と何か話をして、何かを取りに行くように指示した。
暫くして、使用人が袋に入った包を持って来た。
「オストガルドで使いなさい」
オウルは袋を開けて中身を見せてくれた。多額の金だった。
ホークは少し戸惑って答えた。
「路用の金と生活費は両親とキルスさんからすでに貰っています。これを頂くわけには……」
「まあそう言うな。私にも援助させてくれ、ささやかだがな。生活費とは別にして、この金を使ってオストガルドで遊んで来なさい。何、身内の金だ。気にすることはない」
側で聞いていたカイトが口を挟んだ。
「貰っておけよホーク。貰わなかったら返って失礼になるぞ」
ホークはふーっと息をついて、差し出された金を受け取った。
「それでは、有難く使わせて頂きます」
「ああ。どんどん使ってくれ。足りなくなったら、便りをここによこしなさい。また送ろう」
金を受け取ってくれたホークに対して、オウルは安堵の表情を浮かべた。
シクロスで伯父のオウルへの挨拶を済ませたホーク達は、オストガルド本国へ向い始めた。
リゾレッタからの道程とはやや遠回りになるが、街道はシクロスからの方が整備されている。
途中までは移動が楽だったが、シクロスから遠ざかるにつれて、道が悪くなってきた。勾配がある所も通らないといけない。
「……少しきつくなりましたな。街道の宿舎までは今日の内に着いておきたいのですが……」
先頭に立っているキルスは二人にそう言いながら、先を急いだ。
「……? 爺。」
カイトは何かの気配に気付いたようで、キルスに呼びかけた。
「爺。気付いているか?」
「曲者ですな」
二人の会話を聞きながらホークは無言で歩いていたが、もちろんホークも気付いている。
カイトとキルスはホークを中心に道の左と右に散開した。剣技の弱いホークを守るためだ。
道の左右には木々や岩があり、賊が挟撃してくるにはもってこいの場所だった。
「ホーク! お前は何もしないでいい! 道の真中に居ろ!」
カイトがホークへそう大声で言うと同時に四人の賊が挟撃してきた。
「ふんっ!」
キルスは抜き打ちざま、瞬く間に二人を倒した。
「たあっ!」
カイトの方も一人はすぐに倒した。が、二人目に与えた攻撃は薄かった。
「うあああっ!」
致命傷を受けなかった賊が、ホークに向って行った。
「しっ!」
事前にホークの所まで来て構えていたキルスは賊の急所を的確に捉え、ホークを守った。
事なきを得た。
「大分技量は上がりましたが、まだまだですな王子」
「まだ爺のレベルには追いつけないよ」
「助かったよ。二人共」
三人はそれぞれそう言うと安堵の笑いを交えながら剣をしまった。
賊との戦いの後は何事もなかった。
途中街道の宿屋に一泊し、そこからオストガルド本国へ歩を急いだ。
早朝に出発したこともあり、昼頃には着いた。
「どうすればいい? 爺?」
「まずは城へおもむき、国王へ帰還の挨拶をして頂きます。ホーク君も同席してもらいます」
「仕官するんだから、それは当然ですね。分かりました」
「まあ、城へ行きましょう。国王も首を長くしてお待ちのはずです」
三人は城下町内のメイン通りの広い道をまっすぐ行き、城へ入った。
「流石にオストガルド本国の城ですね……。リゾレッタの領主様のものとはわけが違う」
ホークは城内に入り、城の造りを見てしきりに感心した。
「オストガルドはまだ小国です。そのため本国の城は守りぬくため、非常に手の込んだ造りがしてあるのですよ。」
キルスがそう解説した。
「懐かしいな。父上は三階におられるのだろう? 行ってみよう」
ホーク達は国王のいる三階へ向った。
三階では国王が待っていた。カイトの母にあたる王妃も一緒だ。
二人は別々の場所にいた。国王は中央の吹き抜けから中庭を見ていた。王妃の方は、女性の使用人に、何かを指示していた。
上がってきたカイト達に気付いて国王は声をかけた。
「戻って来たようだなカイト。無事でなによりだった。大きくなったな」
「お久しぶりです父上。御懐かしい」
「……七歳の頃にリゾレッタに出したから、八年になるか。成長したな。心身共に」
「私も久しぶりに王子にお会いした時にびっくりしたものです。本当に良く成長なさいました」
そう言ったキルスに国王は会釈をしてこうねぎらった。
「ご苦労だったなキルス爺。何事もなく連れて帰ってくれて礼を言う」
「礼には及びません。恐縮です」
キルスは一瞬、賊に襲われた時のことが頭によぎったが、そのことは黙っておいた。
「で、カイト、キルス。この少年を紹介して欲しいのだが……」
国王は、ホークに興味を移していた。
「申し遅れておりました。彼はホークといいます。リゾレッタで一、二を争う秀才です。私の幼馴染になります。今回頼みこんで、仕官してもらいました」
ホークは国王の前に出て自己紹介をした。
「リゾレッタのラークの息子、ホークです。このたび、オストガルド本国で仕官させて頂くことになりました。宜しくお願いします」
国王はホークの丁寧な立ち居振舞いに、感心し、一目で気に入ったようだった。
「少年なのに、礼儀ができているな。リゾレッタで一、二を争う秀才か……。頼もしい。カイトをこれから助けてやってくれ」
「微力ながら力を尽くします」
ホークの言葉を聞いて、国王はうなずいた。
「……」
カイトは自分の母親である王妃がこちらを無視しているのが気になっていた。
カイトと王妃の仲は悪い。悪いというより、可愛がってもらった記憶がカイトにはないと言った方が良いだろう。
第一、第二王子ばかりを可愛がり、第三王子のカイトにはそっぽを向いていた。自分で腹を痛めて産んだ子供なのにだ。
リゾレッタに送られたのも、あまりに王妃と不仲だったということが理由として挙げられる。
「父上。母上に挨拶をしてこようと思います」
「む……。そうか。それではホーク君も一緒に挨拶をして行きなさい」
カイトとホークは王妃が座っている玉座の間に上がって行った。
「母上。ただいま戻りました」
「よく戻りました」
王妃はそれ以上言葉を続けようとしない。カイトは唇を噛み締めた。それを見たホークが王妃に対して口を開いた。
「僕はカイト王子がリゾレッタにいた頃に幼馴染になった、ホークといいます。カイト王子に供し、この度オストガルドに仕官させて頂くことになりました。どうぞ宜しくお願いいたします」
そう言ったホークに王妃は目を向けたが、その視線は冷たかった。
(なるほどな……)
ホークはカイトを一人で帰還させなくて良かったと思った。
「中々賢そうな少年ですね。カイトの供となると無げに扱うこともできないでしょう」
そう王妃は言うと再び使用人を呼び指図した。
「城下町の小さなレストランにあなたの住居を用意しておきました。暫くそこで寝泊りしなさい。気にいれば、士官学校の卒業までいても構いません。もちろん家賃は無料です」
王妃はそうホークに言った。
(冷たいが鬼ではないな)
「お気遣い有難う御座います」
「いえ。では私は自室へ下がります」
そう言うと、王妃は奥の自室に入って行った。
カイトは沈んだ顔をしている。




