第十八話 王都オストガルドへの旅立ち
ファナと別れてから一年が過ぎた。ホーク達は十五歳になっていた。
十三の時にリゾレッタ教会で学業を終えたホークはいまだに畑で土いじりなどをしていた。
「お前は相変わらずだな。お前らしいよ」
「他にいじるものがないから、親父が耕した畑をいじってるんだよ」
「楽しいか?」
「楽しい。気晴らしになるからな」
「なら、オストガルド本国に来てみないか? もっと広い畑があるぞ? リゾレッタよりも」
「お前、僕の幼馴染だから分かってるだろう? 僕にはこのくらいの広さの畑が丁度いいんだ」
「お前、昔から体力がなかったよな。百姓っていうのは辛そうだけど、畑があるんなら向いてるのかもな?」
「それに……。本国に帰ったら、カイト王子と呼ばなきゃいけなくなるぞ? いやだぞ」
「もちろん、俺も嫌だ」
「まあ、カイトの言う通り、完全に百姓になるのはやめとくよ。これはただの土いじりさ」
「そうか。安心したよ」
適当な所で畑仕事を止めたホークは、側で見ていたカイトと家に帰ることにした。
畑はホークの家のすぐ側にある、広さはそれほど広くはない。ホーク達、家族四人(カイトも含めて)が食べていけるだけの広さの畑だ。
歩いてすぐ、ホーク達は自宅に戻った。
「戻ったかホーク」
ラークは一通の手紙をじっと眺めながら、ホークにむかってそう言った。
「どうしたの? 父さん?」
「オストガルド本国から手紙が来ている」
「誰から?」
「キルスさんからだ」
ラークはテーブルの前に置いてあったメイシャが入れてくれた紅茶を一口飲み、続けてこう言った。
「カイト君を迎えに来るようだ」
側らにいたカイトは驚いたようだった。
「そうですか……リゾレッタともお別れになりますね……」
側に居たホークもうつむき加減だった。
「楽しかったけどな。お前と遊んでいた時は」
「俺もファナと一緒だよ。本国には帰りたくない」
ホークは少し考えてこう言った。
「お前は責任がある立場だ。そういうわけにもいかないだろう?」
「そうだけど……」
カイトは涙ぐんでいた。
「お前も一緒にオストガルドへ来てくれないか?」
「いや。僕はリゾレッタに残る」
「残ってどうするんだ?」
「土いじりさ」
「お前以上の才能を持った奴はいないんだ! 俺は馬鹿だが、人を見る目はある。頼む! 一緒に来てくれ!」
「他にも秀才は居るだろう。僕なんか全然駄目だ」
「お前は自分の才能に気付いてないだけなんだ! お前がいなければ俺は何もできない!」
ラークは二人の会話をじっと聞いていたが、静かに口を開いた。
「一緒にいってやれホーク」
それを聞いてホークはじっと考えた。
「母さんと父さんだけになっちゃうよ? 僕は家にいた方がいいんじゃない?」
「……まあそうなんだが、カイト君にはお前が必要なんだ」
「その通りです」
カイトは真剣な表情で言った。
「……二、三日考えさせてくれ」
「分かった。すぐにとは言わないよ。待っている」
その後、ホークとカイトは一緒に畑の土をいじっていた。しかし、二人とも終始無言だった。
二日経った。
「お久しぶりです。王子。暫く見ない間に立派になられましたな」
「……」
カイトは浮かない顔をして無言だった。無理もない。
「ホーク君も成長しましたね。秀才に磨きがかかったようですな」
「僕くらいの秀才なら何処にでもいますよ」
「……お前の代わりはいないと思うよ」
カイトはうつむいたままそう言った。
「で、手紙で伝えた通り、国王からオストガルド本国への帰還命令がありました。それでリゾレッタに来たのですが……」
「俺はリゾレッタにいたい!」
「あなたはオストガルドの王子です。リゾレッタに私が連れて来たのは、リジャ神父の下で学を修めさせるためだったのです。わがままは通りませんよ」
「ホークが一緒に来てくれるのなら、僕も本国に戻ろう」
「……」
今度はホークが黙ってしまった。
「行ってあげなさいホーク」
ラークは暫く沈黙を守った後そう言った。
「でも父さん!」
「カイト君にはお前が必要なんだ。絶対に」
その言葉の後に間をおかずホークにカイトは土下座をした。
「頼むホーク! お前がいないと俺は駄目なんだ一緒に来てくれ!」
「……リゾレッタにずっといようと思っていたんだがな。分かった、僕も行くよ」
「本当か! 有難うホーク!」
カイトは飛び上がらんばかりに喜んだ。
「ホーク君はとても賢い。色々な経験を積めば、カイト王子の唯一無二の参謀になるでしょう。仕官を決断して頂き有難う」
キルスは深々と頭を下げた。それを見て、ホークは慌てて制したが、キルスは頭を下げたままだった。
キルスはリゾレッタに数日滞在した。
ホークとカイトがオストガルドへの出発の準備を整えるためだ。
滞在している間、キルスはレンの家に泊まっていた。その間、レンは終始悲しい顔をしていた。
出発の日……
「今までお世話になりました。ラークさん」
「寂しくなるが、君は責任がある立場だ。国王をよく補佐して下さい」
カイトとラークは握手を交わした。
「名残惜しいけど、そこまでカイトに必要とされてるんなら仕方ないよな」
ホークはそんな調子だった。
「本当にお前らしいよ」
側らにいたカイトはそう言って笑った。
「……」
レンは黙っていた。目に涙を溜めている。
「……」
それを見たホークは黙ってレンに近寄った。
「泣く所じゃないよレン」
「だって……」
「しばらく会えなくなるだけだよ。別に今生の別れになるわけじゃない」
側らにいたキルスもレンを慰めようとしてこう言った。
「王子もホーク君も、オストガルド士官学校に二年程在籍してもらいます。長期休暇もかなりあるので、リゾレッタに帰省できないことはありません。大丈夫ですよ」
それを聞いてレンは顔を上げた。
「本当ですか」
「嘘を言っても仕方ありません」
レンに近付いていたホークはまた少し距離を置いてよそを見ながら語りかけた。
「なあに。会える回数が減るだけだよ。休みになったら帰ってくるよ。僕もリゾレッタが好きだし」
その言葉を聞いてカイトは苦笑していた。
「そういうことです。レンさんは少し寂しくなるでしょうが、まあこらえて下さい」
キルスはそう言って、ホークとカイトに目で出発を促した。
三人とも荷物を持った。
「待って!」
「……なんだいレン?」
ホークはレンが手に何かを握りしめていることに気付いた。
「これ……作ったの。持って行って」
ホークに渡したそれは、丁寧に刺繍を施した、お守りだった。
「無事に帰って来てね」
「大丈夫だよ」
そうホークは言って、レンの手を軽く握った。




