第十六話 ベルガの復讐
翌日の早朝。
「じゃあ、ファナ。気をつけて帰りなさい」
「分かりました。お爺さんも元気でね」
「ああ元気にするとも」
ファナがリゾレッタを出立する時が来た。
「では僕達も途中まで見送っていきます」
見送りのリーダーはホークだった。
「……シージャにもついて行かせたかったのじゃが、レナール殿の事で朝早く領主の所に使いに出してしもうた。エルフとエルフィンの事をわしの中だけでおさめるわけにもいかんのでな」
「そうですね。大切なことですからね」
「申し訳ありません。最初から最後までお騒がせして……」
「なに。レナール殿のせいではない。気になさらないことじゃ。それよりファナのことを頼みますぞ」
「はい。命に換えても」
「命に換えてもですか……。まあなるべく命は大切になさい。軽軽しく引き換えにするものでもないでしょう」
「はっ。これは失言でした。大切に御連れします」
レナールが言い直したのに、リジャ神父はうなずいた。
「ではホーク達も頼むぞ。ファナ。元気でな。また会おう」
「うん! また会おうね! リジャお爺さん!」
ファナ達一行は、リゾレッタ教会を後にした。
教会を後にして暫く歩き、小川の近くの林まで来た。ここを通り抜けるのが、エルフィンに辿り着くのに一番近いようだ。
「ファナが赤ん坊の頃、来たんだよな……ここを。レナールさん。やはりこの道が一番近いんですか?」
「他にも道はないこともないんですが、ここまで来ようと思ったら、やはりこの林を通るようになります」
「分かりました。それでは林の途中まで送りましょう」
「歩きにくい所だけど、ファナのためならしょうがないか……」
「ごめんねゾルカス兄ちゃん」
見送りに付いて来たゾルカスはファナに謝られてかぶりを振った。ゾルカスの他にカイトとケルトも付いて来ている。
林は奥に進むとだんだん深くなってきた。土地勘か、独特の方向感覚がないと迷いそうになってくる。
「どうします? そろそろ別れましょうか?」
「いや。もう少し見送って行きます。ここら辺までなら、何回か来たことがあるので、帰るのに迷うことはありません」
「そうですか。ではもう少しお願いします」
レナールはそう言って幾らか歩を進めたが、不意に立ち止まった。
「……レナールさんも気付きましたか」
「ええ……。何者かが近付いて来ますね」
レナールが言う通り、前方から黒い大きな影が少しずつこちらに近付いて来た。
「久しぶりだな。お前ら。俺のことを覚えているか?」
「お前は……。確かベルガと呼ばれていたな」
「おうよ。よく覚えているじゃねえか。それなら当然七年前のことも覚えているだろうな? 忘れたと言っても俺のこの傷は覚えているぞ!」
そう言った後ベルガは自分の古傷をホーク達に見せた。右ひじから下がなかった。七年前、老剣士キルスに切り取られたからだ。
「七年前のこともよく覚えているさ。殺されかけたんだからな」
「ああそうだ。殺すつもりだった。で、今日待ち伏せしていたのも、この傷の恨みを晴らすためだ。お前らを殺しなおさせてもらう」
「……よく今日ここを通ると分かったな」
「なに。何日か前そこのエルフの男がこの林を通ったのを見て、日数を張ってただけだ」
「むう。気付きませんでした。不覚……」
リゾレッタに向かう時、ベルガの気配に気付かなかったことをレナールは悔やみ、唇を噛み締めた。
「昔の俺なら、また村に乗り込んでいただろうが、さすがに俺も馬鹿ではない。乗り込んだ所で、あの忌々しい神父や剣士に返り討ちにされるだけだからな。そこで、待ち伏せしていたわけよ」
「ふーん。で、僕達だけならお前でも殺せると思って出てきたということだよな。お前の話からすると」
「そういうことだ。お前らも只のガキじゃなかったことは知っているが、あの神父や剣士ほどではあるまい」
ここまで、ホークがほとんど受け答えしていたが、ここでカイトが口を挟んだ。
「まあ、まだ俺たちも子供だが、あれから七年も経っているんだ。お前、成長することを考えてなかったか?」
「少しは考えたが、七年経ってもまだガキだろう。御託はもういい。今度はそこのエルフのガキも殺してやる。もう浄石があっても大して意味がないからな」
「そういうわけにはいかない。勝負だ!」
ホークの鋭い声と共に、ファナ以外の皆は護身用の武具を構え、遠巻きにベルガを囲んだ。
「おお。怖いねえ。だが、あの結界を張れる小僧もおるまい。不利な結界内で戦わないで済むのなら、何とかなろう。まずは……」
ベルガはもの凄い顔でレナールの方を見た。
「お前からだ!」
ベルガはグオオオッという魔物独特の雄叫びと共に、レナールの方に突進して来た。その速度は巨体からは想像もつかないほど速かった。
一気に間合いを詰めたベルガは、レナール目掛けて、丸太のような太い左腕を振り下ろした。
「クッ……化け物め!」
レナールはギリギリで身をかわした。ベルガが振り下ろした腕と手は地面に当たり、大穴が開いた。
「今度はこっちの番だ!」
レナールは自身の小剣でベルガを刺した。が、表面に刺さっただけで、ほとんどかすり傷だった。
「がはははは。やはり非力だなエルフという奴は。大剣を扱えないのなら、お前には俺に傷を負わすことはできんぞ」
「くっ! 魔法は唱えるのに時間がかかるから間合いを置かないと……」
「そうはさせんよ。そら二撃目だ!」
ベルガはそう言うと今度は横に左腕をなぎ払った。
「ぐはっ!」
今度はレナールも避けきれず、勢いよく、近くの林の木まで吹き飛ばされた。
「レナールさん!」
「ぐっ……。何とか大丈夫です……。でももう二、三発くらうとまずいかも……」
「仕留め損なったか。ならもう一度だ!」
ベルガは再びレナールに突進をかけようとした。
「間合いを詰めてるぞ! お前の好きにさせるか!」
突進をかけようとしたベルガに、既に自分の間合いまで詰めていたカイトが剣で斜め後ろから振りかぶって切りつけた。
「ぐああっ!」
ベルガは身をひねったが、剣は左後ろの肩から背中にかけて命中した。が、身をひねった分、手ごたえは浅かった。
「こしゃくなガキめ! 死にたいならお前から殺してくれるわ!」
ベルガはカイトの方を振り返り、左手の鋭いクローを使い突き刺してきた。
「ぐっ!」
カイトは剣で何とか受けたが、その力で吹き飛ばされた。
「カイト!」
「大丈夫……。だけど、こいつに右手があったらやばかったな……」
「片腕でも軽く片付けられると踏んだが……。小僧ども中々やるじゃねえか。だが、あの聖の力の結界がないのなら俺に深手を負わすのは難しいぞ」
「あいつの言う通りかも知れない。どうするホーク?いい考えがあるか?」
ホークの横にいたケルトが思い余ってホークに訊いてきた。
「ちょっとないな。今のところコツコツ攻めるしかないだろう」
「そうか……。じゃあ俺も頑張って見るか。あいつの腕力は怖いけど」
「ケルト。おいらと一緒に攻めてみるかい?」
ゾルカスがケルトに話し掛けてきた。
「いいかもな。ケルトのスピードとゾルカスのパワーがあればこちらの攻めも成功するかも知れない」
「よし! やってみよう。で、ホークは?」
「僕は……」
ホークは昔、クーガー王からもらったワンドを持ち直して見せた。
「魔法を使ってみる。ただ少し時間がかかる」
「とっておきだもんな。よし、少なくとも時間は稼いでくるよ! 行こうゾルカス!」
「よし来た!」
ケルトとゾルカスは一緒にベルガに向かって行った。




