第十三話 戦王からの贈り物
翌日になった。
「ラーク殿、ホーク世話になったな」
朝食を済ませ遠征の用意を整えたクーガーはホーク一家に礼を言った。
「礼にはおよびません。私達は最初、あなたは侵略戦争ばかりする暴君だと思っていましたが、昨日の話でそれが間違いであることに気付きました。陛下と話せてよかったと思います」
ラークはクーガーの礼に返答した。クーガーは深くうなずいた。
「今からわしは出立する。できればオストガルドの領内を遠征路に使いたくなかったのだが、リゾレッタを通るのが一番近く安全なのだ。そこで、オストガルド国王宛に領内通過の許可を貰うための親書を書き送った」
「筋を通していますね。流石です」
「うむ。驚いたことにリゾレッタの通過だけでなく、休息の許しも出た。こんな対応をしてくれた国は今までなかった」
クーガーは肥沃なリゾレッタの風景を眺めて言った。
「この国は間違いなく強国になる。敵に回したくないものだ」
クーガーが眺めた先から、迎えに来た側近の姿が見える。その側近達はクーガーの所まで来るとひざまずいた。
「陛下。お迎えに上がりました。軍も休息を十分に取り、いつでも出立できます」
「うむ。分かった。それではホーク達、また会おう。遠征が成功すれば、帰り道もここを通るはずだ。今度は何か土産でも持って来よう」
「御武運をお祈りしております。また会いましょう」
「有難う。では者ども、出立するぞ」
クーガーがそう言って、フェジーナ達と一緒に自軍に戻って行った。
「噂とは違ってたね」
「ああ。仁君と呼べるだろうな。グランドパレスが強国になるはずだ」
ホークとラークは戦王クーガーを見送りながらそう言った。ただカイトだけはクーガーに対する思いは違っていた。それが見送りの表情に表われていた。
クーガーがリゾレッタを去ってから一月程経った。
ホークはいつものようにリジャ神父の助手として年少の子供達の勉強を見ていた。
「ホーク。これなんて読むか教えて」
ファナも七歳になっていたので、一、二年前から読み書き計算を習っていた。しかし、まだつたない。
「どれ見せてごらん。ああこれはほしぞらと読むんだよ」
「ほしぞら? おほしさまがいっぱい広がってる空のこと?」
「そうさ。晴れた日の夜の空なんかファナは好きなんじゃないかな。いっぱい星が見えるから」
「うん! ファナお星様大好き!」
ファナがそう言うとホークは笑ってファナの頭を撫でた。
「よし。今日はここまでじゃ。皆気をつけて帰りなさい」
「有難うございました」
子供達はリジャ神父に礼を言うと皆帰り支度をし始めた。
「ホーク。今日、あなたの家に遊びに行っていい? ファナちゃんと一緒にね」
「ファナも行っていいの? ホーク一緒に遊ぼう?」
女の子二人に誘われているホークを側らで見ていたシージャは声を出して笑った。
「ホーク。お前もてるなあ」
「そ、そんなんじゃないわよ。私は今日の授業で分からなかった所があるから家で教えてもらおうとしただけよ!」
「レンお姉ちゃん顔が赤くなってるよ。ファナはホークのこと大好きだよ」
「えっ! ファナちゃん?」
赤くなったレンと正直なファナを見て、シージャはまた笑った。ただ二人に言い寄られたホーク自体は平然としていた。
「今日は時間があるから、分からない所があるんならいくらでも見てやるよ。ファナもお姉ちゃんと一緒においで。家の母さんがホットケーキ焼いてくれると思うよ」
「わーい! ホットケーキ大好き!」
レンは正直に感情を表すファナを見て、羨ましく思ってしまう自分がもどかしかった。
ホークは自分の家に帰った。レンとファナもついて来ている。カイトも、もちろんいる。
家に戻ると食卓の椅子に座っていたラークがホークを待っていた。
「ホーク。お帰り。ああレンちゃんとファナちゃんも遊びに来てくれたんだね。ゆっくりしていきなさい」
「有難うラークおじさん」
「ありがとうございます」
ファナもレンに習って礼を言った。
「何かの手紙を読んでるみたいだね。誰から?」
「クーガー王が遠征で勝利し、またリゾレッタを通るという内容の手紙だ」
「やっぱり戦王と呼ばれるだけはあるね」
「うん。本題に戻すがクーガー陛下はまた私達の家に泊まりたいと言ってきたようだ」
「そりゃいいや。フェジーナ君にも会えるからね」
「今回はホークが喜ぶ土産を用意しているとも書いてあるぞ。何を持って来られるのか……」
「土産かあ。何をくれるんだろう」
「ちょっと見当がつかんな。手紙の話を続けよう。もう今日の夕方頃にはリゾレッタに着くとも書いてある」
「あら! それじゃあ急いでご飯を作らないと!」
メイシャは台所に戻って、大急ぎで料理をし始めた。
ホークがレンやファナに勉強を教えていると、既に大分日が傾いてきたのが部屋の中でも感じ取れた。
「夕方になったからそろそろかな」
ホークはクーガーの軍隊が侵略先から帰って来るのを外で待った。外に出てみると、遠目に、クーガーの巨大な軍が徐々にリゾレッタの村の中に入って来るのが見れた。
「レン。もう少ししたらクーガー王が来られるよ」
「私、会うのが怖い。戦争ばっかりやっている王様なんでしょう?」
「僕もそう思っていたんだけど、会って話してみると考えていた印象と全然違ったよ」
「そうなの? ホークがそう思ったんならそうなのかも知れないわね。会ってみようかな」
「ファナも会うよ」
「ああいいよ。クーガー王なら、ファナは可愛がってもらえるよ」
ホーク達は家で待つことにした。
程なくして、クーガーの軍は到着し、予告通りホークの家にクーガーとフェジーナが来た。
「会いたかったぞ、ホーク。おお。ガールフレンドも一緒か」
「レンとファナのことですね。村ではどっちも元気な女の子ということで有名なんですよ」
「それはおてんばと言いたいわけホーク?」
「いや。明るい性格だと誉めているんだよ」
二人のやり取りを聞いて、クーガーは哄笑した。
「いや、仲が良いな。結構なことだ。話は変わるが、本国で急用ができたため、リゾレッタで休息を取る暇がなくなったのだ」
「それでは、今晩はここで泊まれないということですか」
ホークがそう問うとクーガーはゆっくりうなずいた。
「私も楽しみにしていたがな。残念じゃ。ただ、今、一宿の恩を返そうと思ってこういう物を持ってきた」
クーガーはフェジーナが持っていた布に包まれた棒状の物を受け取り、ホークに差し出した。
「これは?」
「まあ、布を取ってみよ」
ホークが布を取り外すと、中から使い込まれた跡がある立派なワンドが出てきた。ホークはそのワンドからかなりの魔力を感じた。その様子は周りにも見てとれた。
「ほう。流石だなそのワンドと共鳴するとは、お主もかなりの魔力を持っておるな。寝床で話をした時に、お主が魔法を使えると言っていたことを思い出してな。手土産に遠征先の国で手に入れたのだ」
「手荒な方法で手に入れたのですか?」
ホークの問いにクーガーは哄笑した。
「お前は本当に正直で面白い奴だ。まあ侵略先から奪ってきたから手荒と言えば手荒だがな。だが、その国自体を屈服させた方法は一番手荒でない方法を取ったはずだと自分も我が側近も思っているんだがな」
「どう攻めました?」
「知りたいか? なら教えよう。何、簡単なことだ。計略を使って拠点の兵糧庫の守備を薄くして奪い取ったのだ。後は、最終拠点の城を囲んだら相手は戦意を喪失した。あっちもこっちも含めてほとんど死人が出ない戦だった」
「流石ですね。で、このワンドはどう手に入れました?」
「戦の相手国のへっぽこなマジシャンが持っていたのを取り上げたのだ。格好ばかりの奴だったが、そのワンドだけは立派だったのでな」
「そういうことなら有難く頂きます。そのへっぽこマジシャンには悪いですが……」
「何。お前がそれを持っていた方がそのワンドもどれだけ喜ぶか知れん。それを使えば、魔力も上がるし、魔法を使った時の疲労もかなり軽減されるはずだ。こき使えばそのワンドも喜ぶだろう」
「有難う御座います。こき使います」
正直に返すホークにまたクーガーは哄笑した。
「まあ大事にしてくれ。名残惜しいが、そろそろ立ち去らねばならぬ。また会うこともあろう。ラーク殿。一宿の恩忘れぬぞ。世話になった」
「私も陛下がお泊りになって頂けるのを楽しみにしていたのですが残念です。また会う機会があればいいですね」
ラークがそう言うとクーガーはうなずいた。
「ではさらばだ。者ども! 本国に帰るぞ!」
クーガー王が大きな声でそういうと、軍は整然と動き出した。
「英雄の声だな……」
今まで黙っていたカイトがそう言った。
「ああそうだな」
とホークは返した。
側らでファナは無邪気に蝶を追いかけていた。




