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【Another Page】マティアス・ローデン ―副隊長の交渉―

これは、『醜いあひるのお姫様~誰にも選ばれない私を、氷の騎士だけが見つけてくれました~』に登場する、黒騎士三番隊副隊長マティアス・ローデンの視点から描くお話です。

本編より少し前。

ジェフリーたちがエステリアに滞在していた頃、サルヴィア王都では、遠征に向けたもうひとつの準備が進んでいました。

本編では描かれていない、副隊長の一頁をお楽しみください。

セドリック・ノールがサルヴィアの王都に戻ってきたのは、エステリアを発って五日目の夕暮れだった。


黒い馬は、汗で白く濡れていた。

セドリック自身も、外套の裾まで街道の土埃をかぶっている。


宿舎の門をくぐると、馬を厩番に預けるより先に、まっすぐ三番隊の詰め所へ向かった。


詰め所の奥の机で、副隊長のマティアス・ローデンが帳簿をめくっていた。


銀灰色の短い髪の大男が、セドリックの顔を見るなり、帳簿を閉じた。


「戻ったか。……その顔は、ただの報告じゃないな」


セドリックは、黙って懐から一通の封書を取り出し、机の上に置いた。


ジェフリーの筆跡で、宛名が書かれていた。


黒騎士二番隊隊長 コンラート・ヴァイス殿。


マティアスは宛名を見て、太い眉を片方だけ上げた。


「……コンラート隊長に? うちの隊長が、手紙を?」


「サルヴィアに残る者たちのことで、です」


セドリックは、立ったまま報告を始めた。


「龍の涙の探索に出る黒騎士が、当初の十名から十五名に増えました。隊長と、アルベルトと、俺を除く十二名を、三番隊から選ぶよう言われています。手配は俺が任されました」


「十二名か」


「はい。エステリアの王宮の前庭で、隊長がヴィクター殿の物資の目録を確認しているときに、五名の追加が決まりました。ヴィクター殿が手配に向かったあと、十二名の人選について、隊長から俺とアルベルトに指示がありました。その十二名のうち、ひとりは副隊長です」


マティアスは、目を瞬いた。


「俺も、か」


セドリックは、小さく頷いた。


それから、ほんの少しだけ口を閉ざした。


何かを言いかけて、やめたような沈黙だった。


「理由は、隊長から直接聞いてください。……俺の口から言うことじゃない」


マティアスは、セドリックの顔を見た。


斥候の得意な男だった。

見たもの、聞いたものを、正確に持ち帰る。

言うべきことは、何ひとつ取りこぼさない。


そのセドリックが、理由については口を閉ざした。


隊長が、自分をエステリアへ呼ぶ。


何か理由があるのだろう。


それ以上は、今ここで考えてもわからない。


マティアスは、何も聞かなかった。


かわりに、机の上の封書を指で叩いた。


「で、残る十五名を、コンラート隊長に預けろと」


「はい。団長には、隊長が直接、手紙を出しています。コンラート隊長には、この依頼状を」


「……あのコンラート隊長が、素直に引き受けると思うか」


セドリックは、表情を変えなかった。


「隊長も、そう思っていました」


「だろうな」


「ですから、渋られたときのことも、言いつかってきました」


マティアスは、椅子の背にもたれた。


「聞こう」


「十五名を預かっていただくあいだ、二番隊の騎士全員に手当を上乗せできないか、隊長が財務大臣である父君に直接掛け合うそうです」


マティアスが、片方の眉を上げた。


「そこまで出すか」


「それでも首を縦に振らなければ、もうひとつあります」


「まだあるのか」


「エルヴェラ館に、コンラート隊長がずっと会いたがっている女性がいるそうです。その方に、隊長のほうから話を通す、と。上等な酒も一本添えるそうです」


マティアスは、黙った。


しばらく、天井を見上げた。


それから、腹の底から笑いだした。


詰め所の窓硝子が震えるほどの、大きな笑い声だった。


「……隊長は、それを、どんな顔で言った」


「いつもの顔でした。アルベルトが、コンラート隊長が素直に引き受けるかどうかと言ったら、小さく息をついて。……それで、その話を」


「アルベルトにまで、渋ると思われてるわけか」


マティアスは、また笑った。


エルヴェラ館の、あの女。


三番隊の誰もが知っていた。


去年の秋、二番隊の隊長が、隊長同士の懇親と偽って、うちの隊長をエルヴェラ館へ連れていったこと。


そこにいた王都一の売れっ子が、うちの隊長にしか目を向けなかったこと。


それ以来、二番隊の隊長が、髭の形を変え、絹のシャツを新調し、季節外れの百合を買い漁っては、館の扉の前で追い返され続けていたこと。


そして、うちの隊長が、そのどれにも、まったく興味のなさそうな顔をしていたこと。


「興味なさそうな顔をして、全部見てたってわけだ」


セドリックが、珍しく、口の端をわずかに上げて言った。


「コンラート隊長には恩を売れる。あの方が、うちの隊長に言い寄る理由も、ひとつ減る。……あの場で聞いたとき、アルベルトと二人で、しばらく口がきけませんでした」


「だろうな」


マティアスは、ひとしきり笑ってから、真顔に戻った。


机の上の封書を、懐にしまう。


「よし。交渉は俺がやる。おまえは、隊長からの言いつけどおり、十二名の手配を進めろ。……と言っても、今の三番隊の様子は、ずっとこっちにいた俺のほうがわかってる。選抜は二人でやろう」


「お願いします」


セドリックは、ようやく肩の力を抜いた。



* * * * * *



選抜は、その夜のうちに終わった。


マティアスは、三番隊の名簿を机に広げ、セドリックと二人で、一人ずつ名前を指でたどっていった。


北の峠の警備で、雪崩をかいくぐって戻ってきた者。

南の国境で、夜襲を三度しのいだ者。

斥候に長けた者。

重い荷を運べる者。

傷の手当てに心得のある者。


マティアスは、迷いなく名前に印をつけていった。


十二名目の印をつけ終えると、名簿を見下ろしたまま、少しだけ考えこんだ。


印をつけた十二名は、三番隊の中でも、場数を踏んだ者ばかりだった。


残る十五名には、そのぶん、若い者や、まだ実戦の少ない者が多くなる。


「……これで、二番隊に残りを預けるわけだ」


「残るほうは、若い者が多くなりますね」


セドリックが、ぽつりと言った。


マティアスは、太い指で名簿の端を叩いた。


「仕方ない。伝説を探しに行く旅だ。何が出てくるかわからん。連れていくのは、腕の立つ者でなきゃならん。……隊長も、実戦経験を優先しろと言ってる。そこは譲れんな」


セドリックは、黙って頷いた。


マティアスは、十二名の名前を、新しい紙に清書した。


それから、その紙と、隊長の依頼状を懐に入れて立ち上がった。


「さて」


外套を羽織りながら、マティアスは大きな肩を回した。


「赤髭の大将を、口説きに行くか」



* * * * * *



二番隊の執務室の扉を叩くと、中から、入れ、と不機嫌な声がした。


コンラートは、机に両足を投げ出し、片手に茶の杯を持っていた。


自慢の赤い髭は、去年の秋に流行りの形に刈りこんだのが、だいぶ伸びて、元の形に戻りかけていた。


「三番隊の副隊長が、何の用だ」


「ハルセリン隊長から、ヴァイス隊長への手紙を預かってきました」


マティアスは、封書を机の上に置いた。


コンラートは、足を下ろしもせずに封書を眺めた。


「ジェフリーから? 南の花の国で、のんびり花見でもしとるのか」


「花見ではありません」


「わかっとる、わかっとる」


コンラートは、ようやく足を下ろして、封を切った。


読み進めるうちに、赤い眉がだんだん寄っていった。


最後まで読み終えると、手紙を机の上へ放り出した。


「断る」


マティアスは、表情を変えなかった。


「理由を、うかがっても」


「理由? 山ほどあるわ」


コンラートは、椅子の背にふんぞり返った。


「三番隊の十五名を預かれだと。二番隊は、三番隊の留守番ではない。北の峠の補給のときも、ジェフリーはさんざん、二番隊に荷運びをさせようとした。今度は子守りか。冗談ではない」


「十五名の大半は、北の峠の警備も、南の国境の夜番もこなしてきた者たちです。子守りの手は、かかりません」


「手がかかるかどうかの話ではない。……あの若造に、貸しを作られるのが気に食わんのだ」


コンラートは、茶をひと口飲んだ。


マティアスは、少しだけ間を置いた。


それから、机の上で太い指を組んだ。


「ひとつ、ハルセリン隊長から、言いつかってきたことがあります」


「なんだ」


「三番隊の十五名を預かっていただくあいだ、二番隊の騎士全員の給金に手当を上乗せできるよう、隊長が財務大臣に直接掛け合うそうです」


コンラートの手が、茶の杯を持ったまま止まった。


赤い眉が、ぴくりと動く。


財務大臣。

ハルセリン侯爵。

ジェフリーの父親だ。


息子の頼みとはいえ、財務大臣が自ら判を押した手当となれば、二番隊の騎士たちは、間違いなく大喜びする。


コンラートは、杯を手にしたまま、しばらく黙っていた。


マティアスは、その顔を見ていた。


迷っている。


給金の話は、悪くない。

むしろ、二番隊にとって断る理由のない話だった。


やがて、コンラートは杯を机に戻した。


「……足りんな」


マティアスは、目の前の赤髭を見た。


どうやら、まだ意地を張るらしい。


ゆっくりと息を吐く。


隊長が王宮の前庭で口にしたという、もうひとつの切り札。


出せば、たぶん、この交渉は終わる。


それでもマティアスは、もう少しだけ、目の前の男の顔を見ていたかった。


「ヴァイス隊長」


「なんだ」


「去年の秋、隊長同士の懇親とおっしゃって、うちの隊長をエルヴェラ館へお連れになったそうですね」


コンラートの顔が、髭と同じくらい赤くなった。


「な、何の話だ」


「三番隊では、有名な話でして」


コンラートは、茶の杯を、がちゃりと机に置いた。


「……それが、どうした。今は関係なかろう」


「ハルセリン隊長から、もうひとつ、言づてがあります」


マティアスは、表情ひとつ変えずに言った。


「それでも首を縦に振らないようなら、エルヴェラ館の、ヴァイス隊長がずっと会えずにいるあの方に、ハルセリン隊長が自ら取り次ぐ、と」


執務室の中が、静まりかえった。


コンラートは、口を半分あけたまま固まっていた。


マティアスは、とどめを刺すように付け加えた。


「とびきりの酒も、一本添えるそうです」


コンラートの赤い髭が、小刻みに震えはじめた。


怒っているのか。

照れているのか。

それとも、あまりのことに言葉が出ないのか。


たぶん、その全部だった。


「……あの、若造」


ようやく、絞り出すような声が出た。


「あの若造、あの夜、水を一杯飲んで、さっさと帰ったくせに」


「見ていたようですね」


「見ていたのか」


「髭の形が変わったことも、絹のシャツのことも。たぶん、百合のことも」


コンラートは、両手で顔を覆った。


その指のあいだから、赤い髭がはみ出していた。


マティアスは、黙って待った。


長い沈黙だった。


やがて、コンラートが、顔を覆ったまま、くぐもった声で言った。


「……ナディアは、本当に、会うと言うのか」


「ハルセリン隊長が頼めば、まず間違いなく」


「……あの娘は、ジェフリーの頼みなら断らんだろうからな」


コンラートは、ようやく手を下ろした。


その顔は、悔しそうで、情けなさそうで、それでいて、どうしようもなく嬉しそうだった。


咳払いをひとつする。


それから胸を張って、髭を撫でた。


「……よかろう。三番隊の十五名、二番隊が預かってやる」


「感謝します」


「勘違いするなよ。給金に手当がつくからだ。二番隊の騎士たちのためだ。決して、その、酒のためではない」


「承知しております」


「ナディアのためでも、ないからな」


「承知しております」


マティアスは、表情を変えずに、深く頭を下げた。


頭を下げたまま、口の端がどうしても持ち上がってしまうのを、なんとかこらえた。



* * * * * *



執務室を出ようとしたマティアスを、コンラートが呼び止めた。


「待て。エステリアへ連れていく十二名の名簿は、もうできているのか」


「はい。こちらに」


マティアスは、清書した名簿を差し出した。


コンラートは、それを受け取って、ざっと目を通した。


実戦経験のある者ばかりだった。

北の峠も、南の国境も知っている者たち。


コンラートの指が、名簿の下のほうで止まった。


「……ずいぶん、いいところを持っていくな」


「伝説を探しに行く旅ですから。何が待っているか、わかりません」


「わかっとる」


コンラートは、名簿を指先でとんとんと叩いた。


それから顔を上げた。


「この名簿は、団長に出すんだろう」


「はい。明朝にでも」


「なら、俺から出しておいてやる」


マティアスは、少しだけ眉を上げた。


「よろしいので」


「三番隊の留守を預かるのは、二番隊だ。残る者と出る者の名簿は、まとめて俺から団長に出すのが筋だろう。……お前は、エステリアへ発つ支度でもしておけ。荷も、馬も、揃えなきゃならんのだろう」


理屈は通っていた。


それに、ここでまたコンラートの機嫌を損ねたくもない。


ようやく首を縦に振らせたところなのだ。


「では、お願いします」


マティアスは一礼して、執務室を出た。



* * * * * *



扉が閉まってから、コンラートは、もう一度名簿を広げた。


十二の名前。


どれも、三番隊の中で実戦の場数を踏んだ者たちだった。


残る十五名は、二番隊が預かる。


腕の立つ者をこれだけ連れていかれて、残った者の面倒だけを見ろというのだ。


コンラートは、髭を撫でた。


それから、自分の隊の名簿を引き出しから取り出した。


二番隊の名簿の下のほうに、今年配属されたばかりの新人の名前が、二つ並んでいた。


エミール・レーン。

テオ・ヴァルト。


十七の新人だった。

黒騎士になって、まだ一年も経っていない。


一人は、言われてもいない素振りを延々と続けて、加減というものを知らない。

もう一人は、訓練中でもあちらこちらに目をやって、少しも身が入らない。


おまけに、二人そろってよくしゃべる。


今年、二番隊を希望して入ってきた、数少ない新人だった。


コンラートは、もう一度、十二名の名簿を見た。


その中に、経験の長い三番隊の騎士が二人いる。


三番隊の留守を預かるなら、こういう者が手元にいてくれたほうが、ずっと楽になる。


コンラートは、羽根ペンを手に取った。


「……新人にも、たまには遠出をさせてやらんとな」


誰に言うでもなく、そう呟いた。


羽根ペンの先が、二つの名前を、すっと横切った。


その下に、新しく二つの名前が書き加えられた。


エミール・レーン。

テオ・ヴァルト。


伝説の宝探しなど、花の国での物見遊山のようなものだ。


どうせ、龍の涙など見つかりはしない。


エステリアの花の都で、ジェフリーの尻について、うろうろしているだけで終わるに決まっている。


それなら、腕の立つ者は王都に残しておいたほうがいい。


新人には、外の空気を吸わせてやればいい。


コンラートは、満足げに頷いて、名簿を折りたたんだ。


それから、冷めかけた茶を飲み干して、ふと窓の外を見た。


夕暮れの王都。


石畳の坂の向こうに、エルヴェラ館の金色の屋根が、かすかに光っていた。


コンラートは、髭を念入りに撫でつけた。


明日、床屋へ行こう。


そう思った。



* * * * * *



翌朝。


コンラートは、三番隊の残留名簿と遠征隊の名簿を持って、騎士団長の執務室を訪れた。


団長は、机の向こうで二枚の名簿を順に見比べていた。


やがて、遠征隊の名簿の下で指が止まった。


「……ヴァイス」


「はい」


「この二人は、二番隊の新人だな」


エミール・レーン。

テオ・ヴァルト。


二つの名前の上に、団長の指が置かれていた。


「そうです」


「なぜ、三番隊の遠征に二番隊の新人が混じっている」


コンラートは、赤い髭を撫でた。


「三番隊の古株をまとめて抜けば、王都に残るほうが薄くなります。留守を預かるのは、こちらですから」


「だから、二人を入れ替えたと」


「こいつらだって、もう黒騎士です。見習いを放りこんだわけではありません」


「新人には違いない」


「ほかは場数を踏んだ連中です。それに、隊を率いるのはハルセリンです」


団長は、しばらくコンラートを見ていた。


「……お前、三番隊の古株を手元に残したかっただけじゃないだろうな」


「まさか」


コンラートは、少しも悪びれずに答えた。


団長の目が、もう一度名簿へ落ちた。


しばらくして、その指が、二人の新人の名前を軽く叩いた。


「もうひとつ、確認しておく」


「なんでしょう」


「お前の隊の者を、ハルセリンの指揮下で遠征させるんだ。戻ってきたあと、ハルセリンがこの二人を三番隊に欲しいと言いだしても、文句はないな」


コンラートは、一度だけ目を瞬いた。


それから、あっさり肩をすくめた。


「構いませんよ」


「……ずいぶん、あっさりだな」


「向こうでハルセリンが気に入ったなら、そのまま三番隊で面倒を見てもらえばいいでしょう」


団長は、何とも言えない顔でコンラートを見た。


コンラートは、平然と髭を撫でている。


団長は、もう一度だけ名簿に目を通した。


二人とも、正式な黒騎士ではある。


隊長はハルセリン。

副隊長のローデンも加わる。

ほかの者も、実戦を知る者ばかりだった。


やがて、小さく息を吐いた。


「……まあ、いいか」


判が、名簿の下へ押された。



* * * * * *



マティアスが名簿の書き換えに気づいたのは、出立の前の晩だった。


厩舎で、荷の最後の確認をしていたとき、選抜した十二名のうち、二人が来なかった。


かわりに、見慣れない、まだ少年の面影の残る二人が、黒騎士の旅装に身を包んで、きょろきょろしながら厩舎の前に立っていた。


マティアスは、荷袋を持ったまま二人を見た。


「……お前たちは?」


二人が、揃って背筋を伸ばした。


「二番隊の、エミール・レーンです」


「テオ・ヴァルトです」


「エステリアへの遠征に加わるよう、コンラート隊長から命じられました」


「新人にも外の世界を見せてやれ、とのことで」


マティアスは、しばらく黙っていた。


それから、天を仰いだ。


あの赤髭。


名簿を、自分から団長へ出しておくと言ったこと。


三番隊の留守を預かる以上、残る者と出る者の名簿は、まとめて自分から出すのが筋だと言ったこと。


そして、十二名の顔ぶれを見て、


――ずいぶん、いいところを持っていくな。


そう言ったこと。


ようやく、全部がつながった。


マティアスは、大きく、長いため息をついた。


名簿は、もう団長に受理されている。

今から組み直せば、馬も、荷も、隊列も、すべてやり直しになる。


エステリアでは、隊長が待っている。


マティアスは、二人の新人を見下ろした。


緊張しているのか、浮かれているのか。

二人とも、頬が赤かった。


新人が、いきなり伝説の宝探しの旅に加わることになったのだ。


宿舎の仲間には、さぞ自慢してきたのだろう。


「……荷をまとめろ。夜明け前に発つ」


「はいっ!」


二人の声が、そろって弾んだ。


マティアスは、もう一度、厩舎の天井を見上げた。


さて。


エステリアに着けば、隊長には、起きたことをそのまま話すしかない。


選抜を任されたのは、自分だった。


名簿を書き換えたのが誰であろうと、最後まで確認できなかった責任まで消えるわけではない。


あの青い目が、二人の顔を見た瞬間に、何かがおかしいと気づくことだけは、間違いなかった。


マティアスは、もう一度、深いため息をついた。

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