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【Another Page】コンラート・ヴァイス ―赤髭の恋―

これは、『醜いあひるのお姫様~誰にも選ばれない私を、氷の騎士だけが見つけてくれました~』第18章に登場する、黒騎士二番隊隊長コンラート・ヴァイスにまつわるお話です。

本編より少し前。

ジェフリーがエステリアへ旅立つ前の、サルヴィア王都での出来事です。


本編では描かれていない、コンラートの一頁をお楽しみください。

ナディアがその騎士を見たのは、秋の雨が降る午後だった。


サルヴィアの王都の、大通り。


エルヴェラ館の馬車がぬかるみに車輪を取られ、道の真ん中で立ち往生していた。御者が馬をなだめながら何度も手綱を引いているが、車輪は泥の中で空回りするばかりだった。


そのうち、通りすがりの男たちが集まってきた。


彼らが見ているものを、ナディアは知っていた。


馬車ではない。


窓から顔を出した、自分だった。


慣れていた。


王都でも名の知れた高級娼館、エルヴェラ館。その中でも、ナディアを目当てに訪れる客は多い。


黒い巻き毛に、琥珀色の瞳。白い首筋と、胸もとの開いた紅いドレス。


男たちの目が、自分の顔より先にどこへ行くのか、ナディアはとうに知っていた。


馬車の様子を確かめようと窓から身を乗り出したとき、手にしていた扇が滑り落ちた。


泥の中へ落ちた。


誰も拾わなかった。


男たちは扇ではなく、身を乗り出したナディアの胸もとを見ていた。


そのとき、人垣の向こうで、一頭の黒馬が止まった。


馬から騎士が降りた。


黒い外套は雨を吸い、淡い金の髪が額に張りついていた。


騎士は集まった男たちのあいだを抜けると、ぬかるみに屈みこんだ。


泥の中から扇を拾う。


外套の裏側の、比較的汚れていないところで、ついた泥をていねいに拭った。


馬車の窓の下まで歩いてきて、差し出す。


「落とされました」


それだけだった。


ナディアは扇を受け取りながら、騎士の顔を見下ろした。


息を呑むほど整った顔だった。


青い目が一度、ナディアの顔を見た。


けれど、周囲の男たちのように、その視線が首筋や胸もとへ落ちることはなかった。


扇が確かにナディアの手へ渡ったことを確かめると、騎士は軽く頭を下げた。


もう用は済んだというように、背を向けた。


御者のところへ行き、ぬかるみにはまった車輪の前へ屈みこむ。


道端から板切れを拾って車輪の下へ差しこみ、御者に馬を進ませるよう声をかけた。自分は泥の中に靴を踏み入れ、車輪へ肩を当てる。


馬車が、がたりと大きく揺れた。


泥から車輪が抜けた。


騎士の外套も肩も、すっかり汚れていた。


それを気にする様子もなく、黒馬へ戻っていく。


跨ると、そのまま大通りを走り去った。


一度も、振り返らなかった。


ナディアは、扇を握ったまま、その黒い背中が雨の向こうへ消えるまで見送っていた。


娼婦だからでもなかった。


男を喜ばせる女だからでもなかった。


ただ、扇を落として、馬車が動かなくなって困っていた、ひとりの女。


あの騎士は、そういうふうに自分を扱った。


それが、ナディアには不思議だった。



その夜。


ナディアは館の主人に尋ねた。


「黒い外套に、金の刺繍の騎士。あれは、どなた?」


主人は目を丸くした。


「黒騎士だね。……金髪で、絵みたいな顔だったなら、ハルセリン卿だろう。三番隊の隊長だよ。侯爵様のご嫡男だとか」


「ハルセリン卿」


ナディアは、その名前を小さく口の中で繰り返した。


「どうしたら、この館にお連れできるかしら」


館の主人は肩をすくめた。


「そいつは難しいだろうね。あの人、この手の場所にはひとっつも寄りつかないことで有名だから」



* * * * * *



黒騎士二番隊隊長、コンラート・ヴァイスは、その年の秋、ひどく機嫌が悪かった。


理由は、二つあった。


ひとつは、今年の新人の配属だった。


黒騎士に上がったばかりの者たちは、配属の希望を聞かれると、揃いも揃って三番隊の名を書く。


三番隊はここ数年、目覚ましい成果を挙げていた。


隊長は黒騎士の中でも若く、戦場での判断も早い。部下の扱いも悪くないらしい。


そのうえ、絵から抜け出してきたような顔までしている。


二番隊を希望した新人は、今年も数えるほどしかいなかった。


長年黒騎士を務め、二番隊を預かり、王都でいちばん立派だと自負している赤い髭を蓄えたコンラートとしては、面白いはずがなかった。


あの若造のどこがそんなにいい。


腕なら負けていない。


経験なら自分のほうが上だ。


部下を生きて連れ帰った数だって、三番隊に引けを取るつもりはない。


なのに新人は、みんな三番隊だ。


もうひとつの理由は、エルヴェラ館だった。


あの館に、ナディアという女がいる。


コンラートは、この半年ほど、その女に会うため、給金の日が来るたびにエルヴェラ館の扉を叩いていた。


そして、そのたびに断られていた。


今宵はあいにく、先約がございまして。

今宵はあいにく、体調がすぐれませんで。

今宵はあいにく、湯浴みの最中でございまして。


館の主人は、毎回申し訳なさそうな顔で、毎回違う理由を並べた。


黒騎士の隊長が、娼婦ひとりに半年も袖にされ続けている。


部下に知られたら、示しがつかない。


もっとも、二番隊の古株の何人かには、とっくに知られていた。


そのナディアから伝言が届いたのは、秋も深まったころだった。


届けてきたのは、二番隊の古株三人。


全員、エルヴェラ館の常連である。


そして三人とも、ナディアには一度も相手にされたことがなかった。


「隊長。ナディアから、言(こと)づてです」


ひとりが、もったいぶって咳払いをした。


「黒騎士の隊長様が、ハルセリン卿をお連れくださるなら、その夜は喜んでお相手いたします、と」


コンラートは、赤い髭を撫でる手を止めた。


「……ジェフリーを?」


「はい」


「娼館に」


「はい」


「なぜ、あの若造の名前が出てくる」


三人は顔を見合わせた。


「あの娘、ここのところ、ハルセリン隊長の話しかしないんですよ。俺たちが黒騎士だとわかると、ハルセリン卿はお元気、次はいつ館の前を通るのって、そればっかりで」


コンラートの赤い髭が、ぴくりと動いた。


新人だけではなかったのだ。


あの若造は、王都でも指折りの娼婦まで持っていくのか。



* * * * * *



「隊長同士の懇親だ」


隊長会議が終わったあとの回廊で、コンラートはジェフリーを呼び止めた。


ジェフリーは、書類の束を抱えたまま振り返った。


「懇親?」


「隊長同士、たまには酒を酌み交わすのも務めのうちだろう。今夜、付き合え」


ジェフリーは、コンラートの顔を見た。


つい先ほどまで、その会議室で、遠征の分担をめぐって言い合っていたばかりだった。


三番隊は北の峠へ入る。


そこまでの補給路を、地理に詳しい二番隊に受け持ってほしい。


ジェフリーがそう提案するたび、コンラートは、二番隊は三番隊の荷運びではないと突っぱねた。


その相手が、会議が終わった途端に懇親だという。


「……どこで」


「どこでもいいだろう。来ればわかる」


ジェフリーは、小さく息を吐いた。


断る理由を探しているような顔だった。


それでも、「隊長同士の務め」と言われれば、この真面目な若造は無下にできない。


そこまで、コンラートは読んでいた。


「一杯だけだ」


案の定、ジェフリーはそう答えた。



* * * * * *



エルヴェラ館の、金の装飾をほどこした扉の前で、ジェフリーは足を止めた。


「……コンラート」


「なんだ」


「ここで、懇親を?」


「懇親は懇親だ。どこで飲もうと変わらん」


ジェフリーは、館の扉を見上げた。


コンラートを見る。


何も言わなかった。


何も言わなかったが、その目があまりにもはっきりと帰りたいと言っていたので、コンラートは少しだけ気分がよくなった。


いい気味だ、と思った。


館の奥の広間へ通される。


長椅子の向こうに、ひとりの女が立っていた。


黒い巻き毛を片方の肩へ流し、細い金の鎖を白い首筋に垂らしている。深い紅色のドレスは、燭台の明かりを受けて、濡れたように艶めいていた。


ナディア。


半年間、扉の向こうにさえ通してくれなかった女だった。


コンラートは息を呑んだ。


噂には聞いていた。


それでも、これほどとは思わなかった。


赤い髭を撫でようとして、指がいつもより落ち着かないことに気づく。


コンラートは咳払いをひとつして、できる限り余裕のある顔を作った。


「黒騎士二番隊の隊長、コンラート・ヴァイスだ。今夜は――」


最後まで言えなかった。


ナディアの琥珀色の瞳は、コンラートの肩越しを見ていた。


後ろに所在なげに立っている、金髪の若造を。


「……ハルセリン様」


客を迎えるときに使う、艶を含んだ声ではなかった。


名前をひとつ呼ぶだけなのに、妙にぎこちない。


「ようこそ、いらしてくださいました。……雨の日に、扇を拾ってくださったこと、覚えていらっしゃいますか?」


ジェフリーは、少し考えた。


「……覚えていない」


正直すぎる答えだった。


コンラートは思わず横を向いた。


王都でも指折りの女が、頬を染めて話しかけているのだ。


もう少し何かあるだろう。


覚えていなくても、「あのときの方でしたか」とか。「お役に立てたなら何よりです」とか。

それくらいの気の利いたことも言えんのか、この若造は。


ところが、ナディアは傷ついた顔をしなかった。


むしろ頬を赤くして、ますます熱っぽい目でジェフリーを見ている。


コンラートには、まるで理解できなかった。


半年ぶんの言葉を飲みこんで、ひとりで長椅子へ腰を下ろした。



* * * * * *



その夜のことを、コンラートは、のちのちまで忘れられなかった。


ナディアはジェフリーの隣に座り、葡萄酒を注いで差し出した。


ジェフリーは、受け取らなかった。


「申し訳ないが、結構だ」


自分で水差しを取り、水を杯へ注いだ。


ナディアは目を丸くした。


すぐに、また嬉しそうな顔になる。


コンラートは、空になった自分の杯を、そっとナディアのほうへ寄せた。


気づかれなかった。


ナディアはジェフリーに果物を勧めていた。


ジェフリーは、それも断った。


ナディアは、なぜかますます嬉しそうだった。


コンラートは、自分で葡萄酒を注いだ。


ジェフリーは長椅子の端に背筋を伸ばして座り、ほとんど何もしゃべらなかった。


ナディアが話しかければ、必要なぶんだけ答える。


それ以上は続けない。


やがて、ジェフリーは手にしていた水を飲み干した。

空になった杯を卓へ戻すと、そのまま立ち上がった。


ジェフリーは立ち上がった。


「コンラート。一杯は、付き合った」


「水だったろうが」


「一杯は一杯だ」


ジェフリーは、ナディアへ軽く頭を下げた。


「失礼する」


それきり、振り返らずに出ていった。


ナディアは、ジェフリーの消えた扉を見つめていた。


コンラートは待った。


ようやく、二人きりである。


半年待った。

今日のために、あの若造を騙してまで連れてきたのだ。


ナディアが、ようやくコンラートを見た。


コンラートは身を乗り出した。


ナディアは、にっこりと微笑んだ。


「ヴァイス様。今宵は、ハルセリン様をお連れくださって、本当にありがとうございました」


優雅に膝を折る。


「わたくし、今夜はもう、胸がいっぱいで。……お休みさせていただきますわね」


コンラートは、身を乗り出した格好のまま固まった。


絹の衣ずれの音を残し、ナディアは広間を出ていった。


燭台の明かりの下に、赤い髭の隊長がひとり残された。



* * * * * *



それからのコンラートは、自分でも呆れるほど努力した。


まず、髭を整えた。

王都で評判の床屋へ行き、自慢の赤い髭を、最近流行っている形に刈りこませた。


翌日、エルヴェラ館の扉を叩いた。


館の主人が、いつもの申し訳なさそうな顔で出てきた。


「ナディアが申しております。ハルセリン様は、ご一緒では、と」


次に、服を新調した。

王都でも腕のいい仕立て屋に、絹のシャツを作らせた。


館の主人は言った。


「ナディアが申しております。ハルセリン様は、ご一緒では、と」


次に、詩を覚えた。

古い恋の詩を三つ。


館には入れてもらえなかったので、紙に書いて主人に託した。


翌日、返事が届いた。


詩の紙の余白に、流麗な文字でひとこと書き添えてあった。


――ハルセリン様は、詩をお詠みになりますか。


次に、白い百合をひと抱え贈った。

季節外れの花を探して、王都じゅうの花屋を回った。


翌日、また返事が届いた。


――美しい百合を、ありがとうございます。ハルセリン様は、どんなお花がお好きなのかしら。


コンラートは、その紙を握りつぶした。


数秒後。

そっと広げた。


皺を一本ずつ指で伸ばし、机の引き出しへしまった。


ナディアの字だった。



* * * * * *



「ジェフリー。今夜、付き合え」


「断る」


隊長たちの執務室で、ジェフリーは書類から顔も上げずに言った。


「隊長同士の懇親だ」


「先月も、そう言われてついていった。懇親ではなかった」


「懇親だったろう。俺と、お前と、酒を――」


「俺は水を飲んでいた」


コンラートは、ジェフリーの机に両手をついた。


「頼む」


ジェフリーの羽根ペンは動いたままだった。


コンラートは、その金色の頭を睨んだ。


一度、口を閉じた。


それから。


「……ジェフリー。頼む」


羽根ペンが止まった。


ジェフリーが、ゆっくりと顔を上げた。


コンラートの顔を見る。


新しい形に刈りこまれた赤い髭。

外套の下から覗く、見慣れない絹のシャツの襟。


ジェフリーは、それらを順番に見た。


ようやく何かを理解したらしい。


「断る」


「ここまで頼んでるだろうが!」


「頼まれても、嫌なものは嫌だ」


「薄情者め!」


ジェフリーは再び書類へ目を落とした。


「俺は、あの手の場所は好かない。それに、北の峠の補給の件、まだ返事をもらっていない」


「おい」


「二番隊が引き受けるなら、考えなくもない」


コンラートの赤い髭が、ぴくりと動いた。


「……足もとを見る気か」


「懇親だと嘘をついて俺を連れていったのは、そっちだ」


羽根ペンは止まらない。


コンラートは机に手をついたまま、ジェフリーの金色の頭を睨みつけた。


「補給は引き受けん。二番隊は、三番隊の荷運びではない」


「そうか」


「そうか、じゃない」


「なら、この話は終わりだ」


コンラートは乱暴に背を向けた。


扉が大きな音を立てて閉まった。


ジェフリーは、一度だけ閉まった扉を見た。


小さく息を吐いて、書類の続きに目を戻した。


その日から、隊長会議でのコンラートは、ますますジェフリーの提案に反対するようになった。


三番隊が何を言いだしても、二番隊は簡単には首を縦に振らない。


二番隊の古株の騎士たちは、そんなコンラートを見て、「隊長、さすがに大人げないですよ」と陰で囁き合っていた。


コンラートは、聞こえないふりをした。



* * * * * *



雪解けのころ、ジェフリーに国からの命令が下った。


エステリアへ赴き、龍の涙の手がかりを探れ。


サルヴィアの冬から春にかけて、多くの民の命を奪う高熱の病を終わらせるために。


出立は十日後だった。


いつ戻るのかは、誰にもわからない。


その知らせを聞いたとき、コンラートは思わず髭を撫でた。


撫でながら、口の端が勝手に持ち上がっていくのを止められなかった。


あの若造が、いなくなる。

いつ帰るかもわからない、遠い南の国へ。


その間に三番隊を希望する新人も、少しは二番隊へ流れてくるだろう。


何より、あの顔を見なくなれば、エルヴェラ館の女だって、そのうち目を覚ますに違いない。



出立の朝。


黒騎士の宿舎の門前に、遠征へ出る三番隊の黒馬が並んでいた。


ジェフリーは見送りの騎士たちに、ひととおり挨拶を済ませた。


最後に、コンラートの前で馬を止めた。


「留守のあいだ、三番隊の者たちに何かあれば、手を貸してやってほしい」


「気が向いたらな」


コンラートは胸を張り、にやりと笑った。


「ジェフリー。急がなくていいぞ。エステリアは暖かくて、花の多いところだと聞く。少し長い遠足だと思って、ゆっくりしてこい。一年でも、二年でも」


ジェフリーは、わずかに目を細めた。


「……遠足ではない」


「わかっとる、わかっとる」


コンラートは、ひらひらと手を振った。


ジェフリーは、馬上からコンラートを見下ろしていた。


刈りこまれた赤い髭。

外套の下の、絹のシャツの襟。


少し考えるような目をした。


何も言わず、手綱を引く。


黒馬が石畳を蹴り、南の門へ向かって走りだした。


コンラートは、その背中を見送りながら満足げに髭を撫でた。


これで、少しは自分にも運が向くかもしれない。



* * * * * *



その日の夕方。


コンラートは、白い百合をひと抱え抱えて、エルヴェラ館の扉を叩いた。


館の主人が、いつもの申し訳なさそうな顔で出てきた。


コンラートは言った。


「ハルセリンは、今朝エステリアへ発った。しばらく戻らん」


胸を張る。


「だから、今夜は俺が――」


「存じております」


館の主人は、ますます申し訳なさそうになった。


「ナディアは今朝から、ずっと二階の窓辺におりまして」


嫌な予感がした。


「南の門のほうを向いたまま、泣いておりまして。……今夜は、どなたにもお会いできないと」


コンラートは、百合を抱えたまま扉の前に立ちつくした。


ゆっくりと顔を上げる。


二階の窓に、黒い巻き毛が見えた。


ナディアだった。


窓辺に頬杖をつき、南の空をじっと見つめている。


こちらには気づいていない。


あの若造と同じだった。


どれだけこちらが見ていても、まるでこちらを見ない。


コンラートは、花束を館の主人の腕へ押しつけた。


「……あの娘に、渡しておけ」


「よろしいので?」


「いいから、渡しておけ」


背を向け、石畳の坂を下りはじめた。


春先の夕風が、刈りこんだ赤い髭を撫でていく。


「……ジェフリーめ」


誰にも聞こえない声で、ぼそりと呟いた。


少し歩いて、足を止めた。


あの若造が帰ってくるまで、一年か。二年か。


その間に、あの娘が一度くらいはこちらを向くこともあるだろうか。


コンラートは考えた。


「……ないな」


深いため息をひとつ落とし、また坂を下りはじめた。


もっとも。


遠い南の国へ向かったジェフリーが、刈りこまれた赤い髭と、見慣れない絹のシャツのことを、案外しっかり覚えていたことを、コンラートは、まだ知らなかった。

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