第三話 見えるもの
夜風に当たりたくなって、二人で外へ出た。
美月が空を見上げる。
「星、綺麗」
「……うん」
「ここ来てから、ちゃんと空見たことなかったね」
直人もつられて顔を上げた。
星がある。
月がある。
何の変哲もない夜空だった。
なのに、何かがおかしい。
「…………」
「直人?」
直人は昔から、他人には見えないものが見えたり、感じるはずのないものを感じたりすることがあった。
けれど、それを誰かに話したことはほとんどない。
おかしなことを言えば、おかしな人間だと思われる。
それが怖くて、いつしか自分の感覚そのものを疑うようになった。
何かを見ても、見なかったことにする。
感じても、気のせいだと思う。
そうすれば普通でいられた。
今回も、反射的に視線を逸らしかけた。
けれど。
「……いや」
直人はもう一度、空を見た。
「見えてる」
「何が?」
星の向こう。
夜空の、さらに外側。
そこに確かに〝何か〟がある。
あまりにも巨大だったから、異能として認識できていなかった。
村へ来てからずっと目の前にあったというのに、直人は地面ばかりを見ていた。
痩せた村人を見た。
実らない土地を見た。
カボチャを見た。
美月を見た。
けれど、一度もその外側を見ようとはしなかった。
「空だ……」
「え?」
「違う」
直人は震える指を夜空へ向けた。
「あれは、空じゃない」
村全体を覆う巨大な何かが、
そこにいた。




