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第一話 変えられない未来




確認すれば、署名はすでに終わっていた。




 《運命》が直人を戻したのは、蓮司から書類を渡された日ではない。


 国家異能管理局の人間が迎えに来る、その日の朝だったのだ。



 どうして。



 直人は何度も考えた。


 願いを聞き間違えたのか。


 それとも、戻せる時間には何らかの制約があるのか。



 答えは出なかった。



 ただ一つ確かなのは、村へ行く未来は消えていなかったということだけだった。


 ならば。


 せめて、美月だけでも。


 今度は一人で行く。


 何を言われても。


 どんなことが起きても。


 美月だけは、あの村へ近づけない。


 それだけでいい。


 そう思っていた。





「遅い」



村へ到着した直人は、その声を聞いた瞬間に足を止めた。


「…………なんで」


 美月がいた。


 当然のように。


 あの日と同じように。


「何が?」


「なんで……いるの」


「来るって言ったでしょ」


「言ってない」


「言ったじゃん」


「言ってない!」


 美月が眉をひそめる。


「何怒ってんの?」


「……帰って」


「は?」


「お願いだから、帰ってくれ」


 直人はそのとき初めて、美月が傷ついた顔をしたことに気づいた。



 それでも構わないと思った。



 嫌われてもいい。



 生きていてくれるなら、それでいい。




       ◇




 そこからの直人は、必死だった。


 美月が村人と関わろうとすれば止めた。


 畑へ行こうとすれば、理由も告げずに引き留めた。


「ここ、せっかく畑があるんだし。トマトでも育ててみようかな」


「やめよう」


「……なんで?」


「いいから」


 村人が美月を「よそ者」と呼べば、直人は彼らを遠ざけた。


 カボチャが呪いを一時的に抑えると知るより先に、その在庫を確認した。


 まだ会っていない村人の名前を知っていた。


 初めて歩くはずの道を知っていた。


 この先で何が起きるのかを知っていた。


 一周目と違うことをする。


 それだけを考えた。





 なのに。



「直人! 見て!」


 美月の弾んだ声に、胸の奥が冷えた。


「……芽、出た!」


 トマトだった。


 止めたはずだった。


 畑へ行かせなかった。


 それでも別の場所で、別のきっかけで、美月はまた土に触れた。


 痩せた土地を耕し、水を運び、誰に頼まれたわけでもなく世話を続けた。


 そして何も育たなかったはずの土地から、またトマトが芽吹いた。


 直人は怖くなった。


 変えようとすればするほど、形を変えながら同じ場所へ戻っていく。


 美月はまた土に触れる。


 また村人たちと関わる。


 また、少しずつ彼らの中へ入っていく。




 まるで世界そのものが、




 ここへ来い。


 そう言っているようだった。




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