第二十五話 動きだす未来
その頃。
蓮司の知らない場所で。
一つの未来が動いていた。
高瀬咲希は。
最近、身体の調子が妙に悪いことに気づいていた。
朝。
気持ちが悪い。
食欲がない。
妙に眠い。
最初は。
卒業を控えた疲れだと思っていた。
けれど。
「……遅れてる」
カレンダーを見て。
ようやく。
別の可能性が頭をよぎった。
そんなはずない。
そう思った。
理由は。
自分でもよく分からない。
咲希には。
恋人はいなかった。
少なくとも。
記憶の中には。
病院で。
結果を告げられた。
「妊娠されています」
咲希は、しばらく何を言われたのか理解できなかった。
「……え?」
医師がもう一度、ゆっくり説明する。
「妊娠……?」
「はい」
咲希は自分のお腹を見る。
まだ何も変わっていない。
「……何で」
声が出た。
「相手の方には、もうお話を?」
咲希は医師を見る。
「相手……?」
「お父様になる方です」
頭が真っ白になった。
誰。
心当たり。
ない。
あるはずがない。
「……分かりません」
医師が僅かに表情を変える。
「分からない、というのは」
「分からないんです」
咲希自身にも。
意味が分からなかった。
そのはずなのに。
胸の奥が。
ひどく。
痛んだ。
誰もいない。
なのに。
誰かを。
忘れている気がする。
名前も。
顔も。
声も。
何一つ思い出せない。
それでも。
胸の中には。
誰か一人分。
綺麗にくり抜かれたような。
空白がある。




