第二十四話 願わない願い
榊原の影が薄くなり始めた頃。
蓮司は管理局の施設を一人で出た。
外は夕方だった。
住宅街を歩く。
どこかの家から、夕飯の匂いがする。
子どもの声。
食器の音。
幼い頃。
何度も見た景色だった。
父親がいて。
母親がいて。
子どもがいる。
明かりのついた家。
昔の自分は。
あれが何なのか分からなかった。
欲しいのかも。
寂しいのかも。
分からなかった。
今は。
分かる。
普通に誰かがいることは。
当たり前ではない。
昨日いた人間が。
明日もいる保証なんて。
どこにもない。
だからこそ。
誰かと飯を食って。
くだらない話をして。
また明日と言って別れる。
それだけのことが。
ひどく。
贅沢に見えた。
蓮司は。
初めて思った。
普通に生きたい。
強くなりたいではなく。
勝ちたいでもない。
誰かの上に立ちたいでもない。
普通に働いて。
普通に飯を食って。
普通に帰る場所があって。
朝になれば。
また。
昨日までいた人がいる。
そんな生活が。
欲しかった。
それが。
どれほど難しい願いなのかを。
知ってしまった後で。
《運命》へ。
もう一度願えば。
相馬悠真を人間に戻せるのだろうか。
何度も考えた。
銀の騎士を見るたび思った。
「…………」
『何か』
「いや」
戻したい。
声を聞きたい。
くだらない冗談を。
もう一度聞きたい。
咲希の隣へ。
あいつを戻してやりたい。
願いたい。
でも。
もし。
その代わりにまた誰かが消えたら。
銀の騎士が消えたら。
直人に僅かに残っている記憶までなくなったら。
今この世界で皆が共有しているものまで、また変わったら。
もっと。
何か。
自分が知らないものを失ったら。
蓮司は。
願わなかった。
それは諦めではなかった。
少なくとも。
本人はそう思いたかった。
今あるものを。
これ以上。
自分の願いで壊したくなかった。
その日から。
蓮司は《運命》を探すことも。
やめた。
明日は朝と夜の2話更新となります。
明後日のエピローグ更新で、第四部終了となります。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです!
(‘ω’* 三 *‘ω’)




