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第二十三話 『これ』ではない

 




 それから。


 蓮司は榊原龍堂を探し続けた。


 理由は一つだった。


 もう一度、同じことを起こさせない。


 榊原本人がどこにいるのか。


 どれだけの人間に《支配》の痕跡が残っているのか。


 何をすれば完全に断ち切れるのか。


 以前の蓮司なら。


 見つけて。


 殴って。


 倒せば終わると思っただろう。


 一度目は実際にそうした。


 そして。


 失敗した。


 だから今度は違った。


 管理局へ情報を渡した。


 《支配》を受けている可能性のある者を、一人ずつ調べさせた。


 自分一人で片をつけようとすれば、また見落とすものがある。


 それを。


 悠真を失った代償として。


 嫌というほど知った。




 銀の騎士は常にそばにいた。


 《支配》の痕跡を見つけると、騎士は剣を抜いた。


 銀色の刃が振るわれる。


 人間の身体には傷一つつかない。


 ただ。


 心へ絡みついていた何かだけが。


 切れた。




「…………」



 初めてそれを見たとき。


 蓮司は言葉を失った。


 自分が海の底で願った力。


 人の心を捻じ曲げる支配を。


 断ち切る力。


 間違いなく。


 目の前にある。


 そして騎士は、蓮司が危険な場所へ行けば必ず前へ出た。


 攻撃が来れば盾になる。


 蓮司が一人で進もうとすれば。


 何も言わず隣へ立った。


 剣を持ち。


 盾となり。


 共に未来を切り開く。


 海の底で。


 誰かがそう願ったことなど。


 蓮司は知らない。


 それでも。


 銀の騎士を見るたび思ってしまう。


 違う。


 こいつは悠真じゃない。


 でも。


 完全に無関係でもない。




「お前」


『はい』


「俺のこと、どう思ってる」


『我が主です』


「それだけ?」


『それ以上とは』


「……何でもねぇ」



 悠真なら。


 きっと。



「れんじくんのだいじなだーいじな右腕です」


 くらい。


 ふざけて言う。




 銀の騎士は悠真ではない。


 それでも。


 そこにいる。


 答えを。


 誰も教えてはくれなかった。





 榊原の残したものを追ううちに。


 昔の仲間が少しずつ蓮司のそばへ戻ってきた。


 支配されていた者。


 自分の意思で離れた者。


 どちらなのか本人にすら分からなくなっている者もいた。


「久世さん」


「何」


「俺……あのとき」


「いい」


「でも」


「俺も間違えた」


 男が黙る。


「だからもういい」


 許したわけではない。


 忘れたわけでもない。


 ただ。


 全部を白黒に分けることを。


 やめた。


 人数が戻るにつれて。


 懐かしい空気も戻ってきた。




「やっぱ蓮司はこれだよな」



 誰かが笑った。


 周囲も笑う。


 昔みたいに。


 真ん中に蓮司がいて。


 その周囲に仲間がいて。


 三体の従者がいて。


 今の世界では、それらを皆が当たり前のように見ている。


 何かあれば蓮司が片をつける。




「…………」


「どうした?」


「別に」



 蓮司は答えた。



 ――やっぱ蓮司はこれだよな。



 以前なら。


 悪い気はしなかったかもしれない。


 けれど今は。


 違う。


 心の奥で。


 はっきりと。


 そう思った。


 これではない。




 そして。


 もしかすると。



 最初から。


 これではなかった。



 自分から人を集めたことなどない。


 誰かの頭になりたかったわけでもない。


 勝手に喧嘩を売られ。


 勝手に人がついてきた。



 そして。



 それを一つの集団として成立させていたのは。


「…………」


 無意識に。


 隣を見る。




 誰もいない。


 少し後ろには、銀の騎士がいる。



 でも。



 違う。




 ここではない。


 悠真はいつも。


 もっと。


 横にいた。





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