第二十話 行方
昼を過ぎても。
蓮司はまだ認めなかった。
異能だ。
榊原が何かした。
記憶を書き換えた。
写真まで弄った。
そういうことなら、まだ説明できる。
学校を出て、携帯を開いた。
悠真へ電話をかける。
連絡先を探す。
「……ない」
もう一度。
相馬。
ない。
悠真。
ない。
通話履歴。
ない。
メッセージ。
ない。
SNSを開く。
アカウント。
ない。
共通の友人の投稿。
いない。
フォロー欄。
いない。
過去のやり取り。
どこにも。
いない。
学校の記録も確認した。
生徒名簿。
ない。
入学時の記録。
ない。
以前通っていた中学校。
そこにも。
ない。
小学校。
ない。
それでも。
家へ行けば。
本人がいる。
そう思った。
住所は覚えている。
何度行ったか分からない。
小学生の頃。
中学生の頃。
高校へ入ってからだって。
角を曲がる。
見慣れた家があった。
建物があることだけで。
少しだけ息ができた。
いる。
絶対に。
悠真はいる。
蓮司はインターホンを押した。
「はい」
知らない女が出た。
「……相馬、いますか」
「相馬さん?」
「悠真です」
「……どちら様ですか?」
「久世です。悠真の友達の」
「すみません」
相手の声が困惑する。
「お宅、間違えてません?」
「ここ、相馬の家ですよね」
「違いますけど」
「……前は」
「前?」
「前から相馬がここに……」
「うちはずっとここですよ」
蓮司の声が止まった。
「……ずっと?」
「はい。何年も」
「子ども……」
「え?」
「相馬悠真って」
「知りません」
扉は。
開かなかった。
蓮司はしばらく、その家の前に立っていた。
ここへ来れば分かると思っていた。
記憶が消されただけなら。
本人はいる。
蓮司と出会わなかった世界なら。
どこか別の場所で。
相馬悠真という人間は生きている。
そう思いたかった。
違った。
学校にいない。
記録にいない。
写真にいない。
電話にも。
ネットにも。
家族にも。
いない。
相馬悠真という人間は。
蓮司と出会わなかったのではない。
最初から。
この世界に。
存在していなかった。




