第十七話 願い
※明日以降の更新はお昼のみとなります。
――《運命》。
『何を望みますか』
声が聞こえた。
耳からではない。
頭の中へ、直接響いてくる。
「……力を」
水の中で声など出せるはずがない。
それでも蓮司は叫んだ。
「力をくれ」
『あなたには、すでに力があります』
「足りねぇよ!」
何を言っている。
足りているわけがない。
「これのどこが足りてるっていうんだ!」
巨人がいて。
獣がいて。
自分自身も強くて。
それで。
何ができた。
「守れてねぇじゃねぇか!」
腕の中の悠真を、さらに強く抱く。
「こいつ一人守れねぇ力に、何の意味がある!」
返事はない。
「もっと……!」
欲しい。
力が。
どうしようもなく。
「もっと強い力をくれ!」
慢心していた。
自分ならできると思っていた。
その自信を粉々に砕かれた今もなお。
蓮司が縋ったものは。
結局。
力だった。
「誰にも負けない力を!」
榊原のように。
人の心へ入り込み。
意思を捻じ曲げ。
大切なものを奪う力を。
「支配を……断ち切れる力をくれ!」
もう二度と。
こんな思いをしないように。
「何でもいい……!」
願いというより。
懇願だった。
「だから……!」
助けてくれ。
強くしてくれ。
やり直させてくれ。
何だってする。
何を失っても――。
そこまで考えて。
蓮司は腕の中の悠真を抱き締めた。
違う。
こいつだけは。
「こいつを……」
声が震えた。
「悠真を、助けてくれ……」
初めてだった。
自分の力ではどうにもならない何かへ。
頭を下げるように願ったのは。
「頼む……」
もう一度。
「頼むから……!」
《運命》は蓮司を見ていた。
その視線が。
ゆっくりと。
蓮司の腕の中へ落ちる。
悠真へ。
そして。
再び蓮司を見た。
『――分かりました』
蓮司は顔を上げる。
『あなたたちの願いを、聞き入れます』
あなたたち。
その言葉の意味を。
考える余裕はなかった。
暗闇が迫ってくる。
意識が遠のく。
それでも最後まで。
悠真だけは離さなかった。
これで助かる。
そう思った。
悠真も。
自分も。
もう一度を信じた。
蓮司の意識は。
そこで。
途切れた。




