↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/47

第十三話 連れ去られる



 仲間が、敵になった。


 昨日まで蓮司へ頭を下げていた男が、刃物を向けてくる。



「久世ぇ!」



 黒き獣が飛びかかった。



「待て!」



 蓮司が止める。


 獣の牙が、男の喉元寸前で止まった。


 男は震えている。



「……お前」



 蓮司は男を見る。



「どっちだ」


「何がだよ!」


「お前の意思でやってんのか」


「そうだよ!」



 本当に?


 分からない。


 《支配》されているのか。


 本心なのか。


 そもそも。


 今まで自分の側にいたこと自体が、本心だったのか。


 疑い始めると、何も信じられなくなった。



「もう誰も信用できねぇって顔してんな」



 悠真だけは笑った。



「お前は?」



 蓮司が聞く。



「俺?」


「榊原に何かされてねぇの」


「されてたらどうする?」


「殴る」


「確認方法が昭和すぎるだろ!」



 悠真が声を上げて笑った。


 いつもの笑い方だった。



「……お前だけは裏切んなよ」



 口にした瞬間。


 蓮司自身が少し驚いた。


 悠真も一瞬だけ黙った。


 それから。


 蓮司の肩へ軽く拳を当てた。



「何言ってんの」



 笑う。




「俺、右腕なんでしょ?」



 その言葉だけは。


 蓮司は疑わなかった。







 ー数日後。




 朝倉直人は、塾からの帰り道を一人で歩いていた。


 受験を目前に控え、いつもより遅くまで自習室に残っていた。


 冬の夜は早い。


 商店街を抜ける頃には店のシャッターもほとんど下り、街灯の少ない裏道だけが妙に暗く見えた。


 直人は昔から夜道が嫌いだった。


 見えてはいけないものを、時々感じるからだ。


 だからいつも通り足元を見て、余計なものを視界へ入れないよう歩いていた。





 そのとき。



「離せって!」



 声がした。



 直人は反射的に顔を上げた。


 知っている声だった。


 路地の奥に数人の男がいる。


 その中央にいたのは。



「相馬……くん?」



 悠真だった。


 左右から腕を押さえられている。


 ただの喧嘩ではない。


 悠真は抵抗した。


 一人を蹴り飛ばす。


 もう一人の腕を振り払う。


 普通なら、それだけで抜けられたはずだった。


 けれど。


 悠真の動きが突然鈍った。


 何もない場所を見る。


 直人にも分かった。


 そこに何かがいる。


 黒く。


 粘つくような気配。


 見たくない。


 直人は反射的に目を逸らした。



 その直後。


 鈍い音がした。


 悠真が腹を押さえ、膝をつく。


 数人の男が一斉に押さえ込む。



「やめ……」



 直人は口を塞いだ。


 声を出せなかった。


 怖かった。


 見つかったら。


 自分まで捕まったら。


 足が動かない。


 そのとき。


 悠真が顔を上げた。


 一瞬だけ。


 目が合った。


 直人の心臓が止まりそうになった。


 見つかった。


 そう思った。



 けれど悠真は、助けを求めなかった。


 ほんのわずかに。


 首を横へ振った。




 ――来るな。



 そう言われた気がした。


 悠真は車へ押し込まれた。


 ドアが閉まる。


 車が走り去る。




 直人は、しばらく動けなかった。


 助けられなかった。


 何もできなかった。



 警察。



 管理局。



 誰か。



 何をすればいい。



 震える頭で考えた。



 そして一人だけ、思い浮かんだ。





 久世蓮司。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。