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第十話 『大事』にする



 冬休みに入ってすぐ。


 街はクリスマス一色だった。



「蓮司!」



 呼ばれて振り返る。


 悠真だった。


 隣には咲希がいる。



「何」


「一人?」


「悪い?」


「寂しい男だなぁ」


「殺すぞ」


「咲希、聞いた? クリスマスに一人で『殺すぞ』だって」


「悠真」


「何?」


「お前、恋人できてからウザさ三割増してる」


「妬いてる?」


「は?」



 悠真がにやにやする。



「恋人ちゃんに、れんじくんのだいじなだーいじな右腕くん取られて、妬いてるんじゃないの〜?」



 蓮司は無言で悠真の頭を叩いた。



「痛っ!」


「馬鹿」


「照れ隠し!」


「次言ったら殴る」


「今もう殴ったじゃん!」



 咲希が笑った。



「本当に仲いいね」


「だろ?」


「誰が」


「蓮司、素直じゃないから」


「帰れ」


「咲希、帰ろう。捨てられた」


「はいはい」



 二人が歩き出しかけたところで、蓮司が呼び止めた。



「高瀬」


「ん?」



 咲希が振り返る。


 蓮司は少し視線を逸らした。



「……こいつ、馬鹿だけど」


「おい」


「悪い奴じゃねぇから」



 咲希は一瞬目を丸くして、それから笑った。



「知ってる」


「……よろしくお願いします」



 悠真が固まる。



「え、何!? 急に何!?」



 咲希は少しだけ姿勢を正した。



「はい」



 悠真の腕を取る。



「大事にします」


「待って?」



 悠真が顔を上げる。



「何で俺が大事にされる側なの!?」


「お前はされる側だろ」


「蓮司!?」


「放っといたら何するか分かんねぇし」


「何で俺の保護者みたいになってんの!? 蓮司お父さんなの!?」


「誰がお父さんだ」


「じゃあ保護者?」


「黙れ」



 咲希が悠真の腕を叩く。



「あんた、せっかく久世くんが真面目に言ってるのに」


「だって急に俺の譲渡契約始まったんだもん!」


「返品しようかな」


「咲希ちゃん!?」



 三人で笑った。


 少しして。


 悠真も蓮司を見る。



「じゃあ蓮司」


「何」


「咲希のこと、よろしく」


「何で俺が」


「大事な人だから」



 咲希が少し照れたように悠真の腕を叩く。



「急に何言ってんの」


「本当じゃん」


「そういうの本人の前で言わないでよ」


「何で?」


「恥ずかしいから!」



 蓮司は呆れた。



「……お前が自分で大事にしろよ」



 悠真が一瞬目を丸くする。



「自分のことも。こいつのことも」



 少しの沈黙。


 それから。


 悠真は笑った。



「……うん」



 咲希の手を取る。



「大事にする」


「されるし?」


「もちろん」


「そこも言うんだ」


「大事だから」



 咲希が笑う。


 悠真も笑った。



「じゃ、またな。蓮司」


「ああ」



 二人が歩いていく。


 少し離れたところで咲希が何かを言った。


 悠真が笑う。


 咲希も笑う。


 街の明かりの中へ。


 二人の背中が遠ざかっていった。


 蓮司は。


 その光景を。


 何となく。


 最後まで見ていた。







 その夜。


 悠真と咲希は、二人で長い時間を過ごした。


 学校の話。


 卒業の話。


 春からの話。


 もっと先の話。



「卒業したらどうする?」


「働くかなぁ」


「ちゃんと考えてる?」


「失礼だな。考えてるよ」


「じゃあ何するの」


「それを考えてる」


「考えてないじゃん」



 咲希が笑う。


 悠真も笑った。



「咲希は?」


「私は――」






 二人で未来の話をした。


 何年後か。


 どこに住むか。


 仕事はどうするか。


 ずっと一緒にいるのか。


 そんな、高校生が話すには少し気の早い未来を。



「全部うまくいったらいいね」



 咲希が言った。



「いくでしょ」



 悠真は即答した。



「何その自信」


「なんとかするから」


「悠真が?」


「俺たちで」



 咲希が笑った。



「……うん」



 二人は。


 その先にも二人でいることを。


 疑わなかった。


 春が来ることも。


 卒業することも。


 また次のクリスマスが来ることも。


 当たり前だと思っていた。





 この頃。


 二人の未来が。


 誰にも知られない場所で、静かに動き始めていたことを。


 まだ。


 誰も知らなかった。





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