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第九話 榊原龍堂



 榊原龍堂という名前を初めて聞いたのは、高校三年の夏だった。




「隣町で最近でかくなってる集団あるらしいっすよ」


 仲間の一人が言った。


「トップが榊原って奴で」


「知らん」


「久世さんとこ潰すとか言ってるらしいっす」


「勝手に言わせとけ」


「いやでも――」


「こっち来たら相手する。それでいいだろ」



 蓮司は興味を持たなかった。



 しかし。



 榊原の側は、蓮司に興味を持っていた。



 最初に顔を合わせたとき。


 榊原は拍子抜けするほど普通に見えた。


 細身。


 柔らかい声。


 一見すれば、不良集団の頭には見えない。



「君が久世蓮司?」


「そうだけど」


「へぇ」



 榊原は蓮司の背後を見る。


 顔のない巨人。


 黒き獣。


 見えている。



「面白いもの連れてるね」



 蓮司の目が細くなった。



「お前も異能持ちか」


「どうだろうね」



 榊原は笑った。


 その瞬間。


 蓮司の頭の奥へ、何かが触れた。




 ――従え。




「……っ」



 ほんの一瞬。


 膝が沈んだ。


 顔のない巨人が動く。


 巨大な腕が振るわれ。


 榊原の身体が後方へ飛んだ。



「へぇ」



 地面を転がりながら。


 それでも笑っている。



「効かないんだ」


「何しやがった」


「何も?」



 黒き獣が飛びかかる。


 榊原は避けた。


 しかし完全には間に合わず、肩口が裂けた。



「今日は帰るよ」



 榊原は立ち上がる。



「でも」



 蓮司を見る。



「君とは、また会いそうだ」


「次来たら潰す」


「怖いなぁ」




 榊原は笑った。




 その日。


 蓮司は初めて、《支配》という異能に触れた。


 そして。


 自分なら抵抗できる。


 そう知った。


 それが後に致命的な慢心になることを。


 まだ知らなかった。






 蓮司は一度、こちらから榊原の勢力を潰しに行った。


 徹底的に。


 少なくとも、本人はそのつもりだった。


 顔のない巨人が人垣を崩し。


 黒き獣が逃げる者を追う。


 榊原の周囲にいた人間を解放し、《支配》の影響を受けている者を管理局へ繋いだ。


 組織として動けないところまで追い込んだ。


「終わったな」


 悠真が言った。


「ああ」


 蓮司もそう思った。


 榊原本人を取り逃がしたことだけが、少し気になった。




 けれど。



 夏が終わった。


 秋になった。


 何も起きなかった。


 街には以前の馬鹿騒ぎが戻った。




 だから。


 蓮司は。


 勝ったのだと思った。








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