第五話 それぞれの道
中学三年の冬。
進路が決まり始めた頃。
三人で帰る機会は少しずつ減っていった。
受験。
塾。
進路。
それぞれが、それぞれの未来へ向かい始める。
「高校行ったら、こうやって三人で帰ることもなくなるのか」
帰り道。
悠真が言った。
「みたいだね」
直人が答える。
「寂しくなるねぇ」
「お前が言うと嘘くせぇ」
「何で!?」
「高校行ったら三日で友達百人作ってそう」
「百人は無理だわ。八十人くらい」
「大差ねぇよ」
直人が笑った。
蓮司と悠真が進む高校は、少なくとも品行方正な生徒が集まることで知られた学校ではなかった。
むしろ逆だ。
街では少し有名な学校だった。
「久世くんたち、本当にその学校行くんだ」
「悪い?」
「悪いとは言ってないよ」
「直人、めっちゃ顔に出てる」
「出てない!」
「『やっぱり』って顔してた」
「してないって!」
「朝倉」
「何?」
「別に無理して関わんなくていいからな」
直人が黙った。
「高校違ったら、会うことも減るだろ」
蓮司にとっては、それだけの話だった。
環境が変われば、人間関係も変わる。
離れる人間を追わない。
昔からそうしてきた。
「何それ」
悠真が言った。
「別に学校違うだけじゃん」
「だから?」
「住んでる街一緒だし。会ったら喋ればいいじゃん」
あまりにも当然のように言う。
「中学の奴らと遊ぶときも会うだろうし。直人も来るよな?」
「え」
突然振られた直人が固まる。
「いや……」
「来るよな?」
「圧かけないでよ」
「じゃあ来る?」
「……予定合えば」
「ほら」
何が「ほら」なのか。
蓮司には分からなかった。
ただ。
悠真は本当に、高校へ進んでも変わらなかった。
通学途中で直人を見つければ、
「直人ー!」
遠くから呼ぶ。
直人は最初、周囲を確認する。
蓮司と悠真の制服を見る。
少し嫌そうな顔をする。
「大声で呼ばないでよ……」
「何で?」
「何でも!」
「一緒に帰ろうぜ」
「僕、塾あるから」
「じゃあ駅まで」
「……まあ、それくらいなら」
結局、並んで歩く。
直人から蓮司へ話しかけることは、ほとんどなかった。
街で有名な学校の制服。
その中でも、少しずつ名前が知られ始めている久世蓮司。
昔から知っているとはいえ、直人が自分から近づいていくには少し怖い。
けれど。
悠真が間にいれば。
「蓮司、直人がさ」
「何で僕が話したこと勝手に言うの!?」
「別によくね?」
「よくない!」
「で、何」
「久世くんも聞かなくていいから!」
昔と同じように話せた。
高校が分かれても。
それぞれ別の生活が始まっても。
三人の縁は、完全には切れなかった。
それはきっと。
相馬悠真という人間が。
何も考えず。
当たり前のように。
二人の間に立ち続けていたからだった。
そのことを。
当時の二人は。
まだ知らなかった。




