第一話 相馬悠真という男
相馬悠真と出会ったのは、小学校に入って間もない頃だった。
「お前さ」
昼休み。
一人で校舎裏に座っていた蓮司の前へ、突然一人の少年が立った。
「いつも何見てんの?」
「……は?」
「右見たり左見たりするじゃん。誰もいないのに」
蓮司は黙った。
こういうときは何も言わない。
説明しても仕方がない。変な奴だと思われれば、そのうち向こうから離れていく。
「なんかいるんだろ?」
ところが悠真は、離れるどころか目を輝かせた。
「幽霊?」
「違う」
「妖怪?」
「違う」
「守護霊?」
「違う」
「じゃあ何?」
「うるせぇ」
「えー」
それで終わると思った。
翌日。
「蓮司、昼飯食おうぜ」
また来た。
「何で」
「一人で食うより二人のほうがよくね?」
「別に」
「俺は二人のほうがいい」
勝手に隣へ座った。
その翌日も来た。
次の日も。
蓮司が無視しても喋る。昼飯を食べていれば隣に座る。管理局の職員が迎えに来れば「あの人誰?」と聞く。
「秘密組織の人?」
「違う」
「じゃあ蓮司、改造人間?」
「違う」
「実験とかされてる?」
「されてねぇ」
「なんだ」
「何を期待してんだよ」
気づけば、蓮司は悠真の質問にいちいち答えるようになっていた。
ある日の帰り道。
黒き獣が悠真の横を通った。
見えていないはずなのに、悠真は妙なタイミングで身体を横へずらした。
蓮司は足を止める。
「お前」
「ん?」
「今、避けただろ」
「何を?」
「……こいつ」
黒き獣を指差す。
悠真はその方向を見る。当然、視線は獣の身体を通り抜けた。
「なんかいた?」
「いたから聞いてんだよ」
「じゃあ俺、すごくない?」
「何が」
「見えないのに避けた」
「馬鹿か」
「それ褒めてる?」
「褒めてねぇ」
悠真は笑った。
蓮司は呆れて歩き出す。
その後ろを悠真がついてくる。
さらにその後ろを、顔のない巨人と黒き獣が歩いていた。
それがいつの間にか、蓮司にとっての日常になった。




