幕間 ーいつかの帰り道ー
久世蓮司が「今度、飯くらい奢る」と言ったのは、エルデ村を離れる前だった。
あのときは、それどころではなかった。
長く村を覆っていた呪いが消えたばかりで。
土地はまだ痩せていて。
村人たちは、これからどうやって暮らしていくのかを考え始めたばかりだった。
朝倉直人自身も、目の前にいる美月が本当に生きているのだと、何度も確かめなければ信じられないような状態だった。
だから、その約束を覚えていたのは直人だけだと思っていた。
「久世くん、本当に奢ってくれるんだ」
「俺から言ったんだろ」
「覚えてたんだ」
「お前、俺を何だと思ってんだよ」
「約束したあと面倒になって、忘れたふりする人」
「帰るぞ」
食事が半分ほど進んだころ。
昔の話になった。
きっかけは何だったか。
「そういえば、昔も久世くんって急に変なこと押しつけてきたよね」
「俺が?」
「……いや、違うか。そういうのは……」
そこで直人が止まる。
「なんかさ。昔、よく一緒に帰ったよね」
「……ああ」
「僕と、久世くんと――」
言葉が出ない。おかしい。
二人だった。
そのはずなのに。
二人で歩いていた景色を思い出そうとすると、なぜか道幅だけが広すぎる。
誰かのために空けていたような場所が、二人の間にある。
直人自身も変な顔をする。
「……誰だっけ」
蓮司は黙る。
直人は笑って誤魔化す。
「変なの。二人だったっけ」
「…………」
「でも、二人じゃなかった気がするんだよな」
ここで蓮司が、銀の騎士を見る。
忘れたのではない。
忘れさせられたのだ。
それでも、十二年という時間は。
どうやら世界が思っているほど、綺麗には消えてくれないらしい。
――第四部 普通を知らなかった僕らへ
第三部までお読みいただき、誠にありがとうございます!
ここまでの蓮司と直人を中心とした物語、いかがでしたでしょうか?
少しでもお楽しみいただけていましたら幸いです。
さて、第四部の掲載まで少しばかりお休みをいただきます。
次回は、9月12日(土)より再開予定です。
第四部は、蓮司の過去編となります。
蓮司がこれまでどのような人生を歩んできたのか。
直人とは、どのようにして今の関係になったのか。
これまで語られてこなかった彼らの過去を、少しずつ紐解いていきます。
以前、名前の出た「あのお方」の出番もありますので、楽しみにお待ちいただけましたら幸いです。
それでは、今後とも『僕らは一度、救われてしまった』をよろしくお願いいたします!m(_ _)m




