第十話 赤い空
「……赤い」
美月が呟いた。
直人は空を見上げた。
夕焼けだった。
燃えるような赤。
何百年もの間、この村から隠されていた、本当の空。
その色を見て、直人は畑のトマトを思い出した。
一周目。
美月が育てた赤い実が、村人たちの間を繋いだ。
二周目。
その同じ赤が、祭りの食卓に並んだ。
そして今。
空まで同じ色に染まっている。
「綺麗だね」
美月が言った。
「……うん」
一周目には見ることのできなかった景色。
今度は、目を逸らさなかった。
◇
翌朝。
畑はまだ痩せていた。
呪いが消えたからといって、何百年も傷んだ土地が一晩で豊かになるわけではない。
「……何も変わってねぇな」
村人の一人が呟いた。
「そりゃそうですよ」
直人は笑った。
「ここからです」
「直人」
少し離れたところで、美月がしゃがみ込んでいた。
「見て」
呼ばれて隣へ行く。
土から、小さな緑が顔を出していた。
新芽だった。
直人もしゃがみ込む。
その向こうに、小さな従者がいた。
今度は少しだけ、その姿がはっきり見えた気がした。
「……いたんだね」
直人が呟く。
小さな従者が首を傾げる。
ずっといた。
直人が見ようとしなかっただけで。
直人は顔を上げた。
どこまでも続く、普通の青空。
この村は、まだ何も終わっていない。
痩せた土地を戻さなければならない。
村の外とも繋がっていかなければならない。
これから先、きっと別の問題だって起こる。
それでも、もう誰か一人がすべてを背負う必要はない。
この村は。
ようやく、始まったばかりなのだ。




