第17話 魔法少女と、デート
それからの冬花は、本当に楽しそうだった。
立ち寄る店は、普段着や日用品を取り揃えているだけの、なんてことのない店ばかりだった。
けれど、そんな一つ一つを選ぶ冬花はやけに真剣で、それでいて、どこか弾むように嬉しそうだった。
本屋に立ち寄った時は、おれの欲しい本だけではなく、冬花自身も欲しいと思った小説や文房具を買っていた。
文房具はシャープペンシルで、ペンの頭のほうに、やたらと目つきの悪い、ガラの悪そうな黒猫のマスコットがついている。二頭身くらいにデフォルメされているが、なんだか前科三犯とかついていそうな顔の猫だ。
思わず、
「そんな変な顔の黒猫じゃなくて、もっとこっちの白いうさぎとか、可愛いやつのほうが良かったんじゃないか?」
と聞きかけたが、冬花が嬉しそうに、
「この猫さん、アキトくんにお顔が似てるの。明日から学校に持っていくんだ」
と、るんるんで言っているのを見て、なんとも言えなくなった。
前科三犯顔の猫、おれに似てるか……そっか……
なんだか複雑な気持ちになりつつも、本屋を出たところで、今度は冬花がなにかを思い出したように声を上げた。
「あっ。アキトくんの普段着は買ったけれど、まだパジャマは買ってなかったね」
「パジャマ? さっき買ったスウェットがそのつもりだったけど」
「パジャマはちゃんとしたのを買わないとだめなんだよ。おねえちゃんも、睡眠の効率に関わるから、そういうものこそちゃんとしたのを選びなさいって言ってたもの」
「そういうもんか? じゃあ買いに行くか」
「えっと……アキトくんはなにか希望がある?」
「別になんでもいいかな。そういうの、こだわったことなかったし」
むしろ異世界に十年いた時は、冒険の最中に寝巻きに着替えるなんてことすらなかったからなぁ……
ちょっといい宿に泊まった時は、そういうのを貸してもらえたこともあったけれど。
そんなことを考えていたら、冬花が期待するような目でおれを見上げてきた。
「じゃ、じゃあアキトくんがなんでもいいなら、私が選んでもいい……? 私もちょうど新しいの買おうと思ってたから……」
「もちろんいいよ。じゃあ行こうか」
おれがそう言うと、冬花はとても嬉しそうに「うん」と頷いた。
それから、さっきより少しだけ積極的に、そして離れたくないと言うように、おれの腕に自分の腕を絡ませてくる。
冬花に案内された店に向かって再び歩き出しながら、おれはふと、あることを思いついた。
そうだ。冬花がパジャマを欲しがっているなら、それくらいおれが買ってプレゼントしてあげようかな。
金なら、さっきライフタグ代わりのスマホにもチャージできたし。
さっきの文房具の時は、おれが本を見繕っている間に、冬花が自分で買ってきてしまったのだ。
これからティトと二人で彼女の家に居候するわけだから、パジャマ一着くらいじゃ全然お礼にはならないだろうけれど……まあ、気持ちの問題だ。
そうして、冬花と並んで歩くことしばらく――
「あ、アキトくん。このお店だよ」
だが、冬花が足を止めたのは、おれが想像していたような量販店ではなかった。
なんか……全体的にピンク色!
そしてモコモコしてる!
店先には淡い色のルームウェアが並び、棚の上にはぬいぐるみのようなスリッパや、ふわふわしたブランケットがきれいに飾られている。店内からは、甘い香りまでするような気がした。
掲げられた看板には、これまた可愛らしい字体で『ジェラシーピケ』と書かれている。
おれは慌てて周囲を見回した。だが、冬花が嬉しそうにおれの腕を引いてくるので、仕方なく店内に入らざるを得なかった。
う、うわぁ……! め、めっちゃ緊張する!
例えるなら、パーティー全員で魔王城に乗り込んだ時と同じくらい緊張してるかもしれない。
「アキトくん、このパジャマどうかな……変かな?」
店内を見回していた冬花が、ふと真っ白いもこもこしたパジャマを手に取った。
フードがついていて、そのフードには真っ白なうさぎの耳がある。尻尾までついていて、ショートパンツもふわふわのもこもこだ。
冬花はそれを胸元に当てると、少し恥ずかしそうに、おれの反応をうかがってきた。
「おっ、可愛いな。冬花によく似合うと思うぞ」
「本当? じゃあこれにしようかな。これ、男女でお揃いになってて、男の子のほうは黒になるみたいなんだけど、アキトくんは黒いうさぎさんでも大丈夫?」
「大丈夫ではないな!」
「そっか……そうだよね。やっぱり、アキトくんも白いうさぎさんがいいよね……」
「そうじゃないよ! おれが白うさぎのふわもこパジャマじゃないと嫌だって主張するタイプの男に見えるか!?」
もしかして冬花、おれと二人でお揃いのパジャマにしようとしてんのか?
マジかよ。おれにはない概念すぎて、今の今までその可能性に思い当たらなかったわ。
というかこの店……一応、男向けの服やグッズも売ってるんだな。
店に到着した時のインパクトがすごすぎて今まで気づかなかったが、よく見ると店内には男客はおれだけではなく、中には男性一人で来ている客もいた。
彼らの存在にちょっとほっとしつつ、おれは再び冬花に目を向ける。
幸いにも冬花が今度手に取ったのは、レーヨン素材と思われるパジャマだった。
さっきのと比べると、ふわふわもこもこしていない。
「さっきのうさぎさん、可愛かったけれど……これから暑くなったら、あまり着られなさそうかな。アキトくん、こっちのクマさんはどうかな?」
冬花が出してきたのは、やはり男女お揃いの半袖半ズボンのパジャマだった。
生地自体はさらりとしていて、肌触りもよさそうだ。
問題は、シャツの胸元に、パラソルの下でグラサンをかけてくつろぐテディベアが、どでかく鎮座していることである。しかも半ズボンのほうにも、同じテディベアが何匹もプリントされていた。男女ともに柄は同じだ。
まあ、確かに着心地はよさそうだが……親を人質に取られない限り、おれは自分から手に取ろうとは思わない絵柄だな。
とはいえ、さっきのふわふわもこもこウサギパジャマを見た直後だと、かなりマシに見える。
それに、冬花はそのパジャマを大事そうに抱えたまま、ちらちらとおれを見上げている。
どうやら、かなり気に入ったみたいだ。
なら、これにするか。
「いいな、それ。じゃあ、買ってくるから冬花は待ってて」
「え? わ、私が払うよ! だって、このお店にアキトくんを連れてきたのは私のわがままだし……!」
「もっとわがまま言ってもいいって、冬花に言っただろ? それにこれは、今日の買い物に付き合ってもらったお礼だからさ。な?」
「アキトくん……ありがとう」
嬉しそうに微笑む冬花を見て、おれも少し嬉しくなる。
そうだ。ついでに、さっきの白うさぎのふわもこパジャマも単品で売っているみたいだから、それも買ってプレゼントしてみよう。
そうしておれは、三着のパジャマを抱えてレジへ向かった。
「お買い上げありがとうございます! 合計で3万6610円となります!」
って、高っ!?




