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GAME.信長を裏切った俺、明智光秀は天下を無視して東北を目指す。  作者: 山田 ソラ


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第八章 陸奥攻略と、謙信への賭け

 羽後の城で地図を広げながら、俺はマップの北端を眺めていた。


 羽前、羽後と制してきた。領地が二ヶ国になった。兵力も二万を超えた。安東愛季という有能な外交家も加わった。客観的に見れば、順調だ。


 しかし、順調だと思った瞬間が一番危ない。ゲーマーの経験則として、それだけは骨身に染みている。


 マップの北西に、一つのマーカーが光っていた。


【陸奥 津軽為信 兵力一万】


 陸奥。本州最北端に近い、雪と山と海の土地だ。


 前世の記憶を掘り起こす。津軽為信。南部氏の支配下から独立した、謀略と実力を兼ね備えた武将だ。津軽氏の実質的な創始者。決して侮れない相手だ。


 マップのパラメータを確認する。


【津軽為信 武力79 統率80 知略91 謀略92】


 知略と謀略が高い。


 そして、兵力は一万。こちらも現在の動員可能兵力は一万だ。


「真正面の殴り合いになる」と俺は呟いた。


 数が同じなら、質で勝るしかない。

 俺には忠勝と幸村がいる。

 軍議を開いた。


「津軽為信の陸奥へ向かう」と俺は言った。「兵力は互角だ。今回は策よりも力で押す」


 昌幸が少し心配そうな顔をした。「謀略が得意な相手に正面から行くのは、逆に策になりますな。相手は奇策を警戒して、正面からの戦いに引き込まれる可能性がある」


 さすがだ。俺が言いたかったことを先に言われた。


「その通りだ」と俺は頷いた。「為信は謀略が得意だからこそ、正面からの真剣勝負は想定の外になる。《欺瞞》も今回は温存する。純粋な兵力でぶつかる」


 忠勝が静かに槍を握り直した。「先陣は俺がやる」


 幸村が当然のように言った。「俺もやる」


 この二人が迷わず前に出ると言う。忠誠値が上がり続けているのを感じた。いつの間にか、この化け物二人が俺の軍の柱になっていた。


「頼む」と俺は言った。「ただし無茶はするな」


 忠勝がまた微妙な顔をした。


 津軽への進軍は、冷たい風の中で始まった。


 羽後を北上するにつれて、空気が変わった。南の遠江とは全く違う。山が険しく、風が刃のように冷たい。兵たちの息が白くなり始めていた。


 半蔵が先行して津軽の地形を調べ、安全なルートを示してくれた。この男の存在が、どれほど助かっているか言葉にできない。


 三日後、津軽の国境に差し掛かったとき、為信の軍が出てきた。


 待ち構えていた。


 マップを見ると、為信は地形を巧みに利用した陣形を組んでいた。山を背にして川を前に置き、正面突破を強制する配置だ。謀略の男らしく、地の利を最大限に活かしている。


「来ると思っていた」と為信の陣から声が届くような気がした。もちろん聞こえるはずはないが、マップ上の配置がそう語っていた。


 俺は地形を確認した。


 迂回路がない。山が深すぎる。正面からしか行けない。


「忠勝」と俺は呼んだ。


「分かっている」忠勝がすでに前を向いていた。「行ってくる」


 戦が始まった瞬間から、激しかった。


 津軽の兵は思った以上に強かった。寒さに慣れた身体と、土地を守る意地がある。川を渡ろうとする俺の前衛部隊に、矢と石が降り注いだ。


 それでも忠勝は止まらなかった。


 川を真っ先に渡り、矢を何本か受けながら、それでも前進した。この男は本当に人間なのか。マップ上の武力99が、戦場でそのまま体現されている。


 幸村が右側の山の斜面を登り始めた。険しい地形を、まるで平地のように駆け上がっていく。津軽の側面を押さえるためだ。


 中盤、為信が謀略を仕掛けてきた。


 俺の後方に密かに回り込んでいた少数の精鋭が、補給部隊を襲った。半蔵がそれを事前に察知していなければ、後方が崩れていた。


「やはり謀略が得意だ」と俺は唸った。


 しかし、半蔵がいる。俺の《GAME》スキルがある。為信の仕掛けは全てマップ上に浮かび上がってくる。謀略対謀略になれば、情報量で俺が勝る。


 為信の隠し兵が動くたびに、俺は先回りして対処した。


 正面では忠勝が押し続け、側面では幸村が山から降りてきた。


 挟撃だ。

 戦は二日かかった。

 一万対一万の真剣勝負は、長かった。

 最終的に、津軽の兵力が尽きた。


 しかし、勝利の使者を送ろうとした瞬間、マップ上の為信のマーカーが動いた。


 北へ。


「また逃げた」


 俺は静かに言った。もう驚かない。当主に逃げられるのは、俺の宿命なのかもしれない。


 利三が申し訳なさそうに報告した。「津軽為信様、少数の手勢と共に北方へ。追跡困難と思われます」


「追わない」と俺は即答した。「陸奥の地は手に入った。それで十分だ」


 幸村が横に来て、静かに言った。「為信は悪い男ではない。いつか戻ってくるかもしれん」


「そうなったら、ちゃんと話をする」と俺は答えた。


 陸奥を加えて、領地が三ヶ国になった。

 羽前、羽後、陸奥。


 マップの上で、自分の色に染まった国が三つ並んでいる。遠江から逃げ始めたあの夜には、想像すらできなかった光景だ。


 しかし、俺の胸の中に、安堵はなかった。むしろ、不安が大きくなっていた。


 三ヶ国を守るということは、守る場所が三倍になるということだ。秀吉はいつか必ず動く。上杉謙信の三万は、今も越後で光っている。武田信玄の三万も、甲斐で息を潜めている。


 二万の兵力では、足りない。

 圧倒的に、足りない。


 俺は夜中にマップを眺めながら、胃が痛くなっていた。


「安心が欲しい」と俺は呟いた。


 誰にともなく。ただ、本当にそう思った。


 翌朝、俺はある決断をした。

 上杉謙信に、同盟を申し込む。


 家臣たちに告げると、一瞬で広間が静まり返った。


 昌幸が口を開いた。「上杉謙信公は義の御仁でございます。三万の兵を持つ。並の交渉では首を縦に振りますまい」


「分かっている」


「明智様とは相性が……」昌幸が言葉を選んだ。「難しいかもしれませぬ」


 俺も分かっている。上杉謙信は義の将だ。謀略で主君を討った明智光秀を、心から認めるはずがない。


 しかし、謙信には謙信の価値観がある。


「金と宝だ」と俺は言った。


 全員が俺を見た。


「謙信は戦う理由を常に求めている。義のために戦う男だ。しかし義だけでは軍は動かせない。兵糧が要る、武具が要る、金が要る。それを大量に送る」


 家康が静かに口を開いた。「賄賂、ということですか」


「違う」と俺は言った。「誠意だ。こちらの本気を、物で示す。それと一緒に文を送る。天下を狙わないこと、民を守ろうとしていること、東北に安定した国を作りたいこと。全部正直に書く」


 幸村が腕を組んだ。「謙信公が信じるかどうか」


「信じなくてもいい。ただ、無視はできない量と誠意を送る」


 三日かけて、宝物を集めた。


 津軽で手に入れた金銀。安東愛季の交易路で集めた南蛮の品。上質な茶器、刀、反物。思い切りよく全部かき集めた。


 利三が青ざめた顔で言った。「これは……三ヶ国の蓄えの、かなりの部分に」


「いい」と俺は言った。「安心の方が高い」


 文は俺が自分で書いた。

 飾らなかった。


 主君を裏切ったこと、逃げ続けてきたこと、仲間を守りたいだけだということ、東北に民が安心して暮らせる場所を作りたいということ。全部書いた。


 書きながら、なんだか可笑しくなった。


 天下人を目指す文じゃない。ただの逃亡者の、必死の手紙だ。


 でも嘘は一行もない。


 使者に半蔵の部下の忍びを使った。越後まで確実に届けるためだ。


 宝物を満載した荷が、越後に向けて出発した日の夜、俺は城の高台から北の空を見ていた。


 忠勝が隣に来た。珍しく、自分から来た。


「謙信公が断ったら」


「その時はその時だ」と俺は答えた。「でも断らないと思う」


「根拠は」


「謙信は義の男だ。誠意に応えないのは、あの人の義に反する」


 忠勝が黙った。しばらくして、静かに言った。「……明智殿は、人を見る目がある」


 俺は少し驚いて忠勝を見た。この男にそう言われるのは、初めてだった。


「忠勝」と俺は言った。「三河から今まで、本当にありがとう」


 忠勝が無言で前を向いた。


 しかし、その横顔が、少し柔らかかった。


 マップを確認すると、忠誠値が上がっていた。


【本多忠勝 忠誠90】


 90……。


 俺は黙って空を見た。北の夜空が、澄み切っていた。


 越後からの返事が来るまで、しばらくかかるだろう。


 その間も、東北での日々は続く。

 安心は、まだ先だ。

 でも確かに、少しずつ近づいている。




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