第六十八章 大内氏滅亡、そして、九州への上陸
東北への道を進んでいたとき、半蔵が追いついてきた。
「明智殿」半蔵が言った。「急報です」
俺は嫌な予感がした。「言ってくれ」
「周防の大内氏が、石見に向けて攻撃を仕掛けています」
俺は固まった。
信玄が静かに、しかし、強い声で言った。「石見は取ったばかりだ。それを攻めるのか」
「はい」半蔵が続けた。「大内義隆が、毛利の混乱に乗じて石見を奪おうとしているようです」
俺は怒りを感じた。
しかし、今度は、伊賀のときのように暴走する怒りではなかった。冷静な、しかし確かな怒りだった。
「降伏勧告を出す」と俺は言った。「兵力差を考えれば、戦う必要がない相手だ。降伏すれば、双方とも兵を失わずに済む」
信玄が頷いた。「儂も同意する。先に話す機会を作るべきだ」
俺は文を書いた。
「大内義隆殿へ。石見への攻撃を確認しました。兵力差を考えれば、勝敗は明らかです。降伏すれば、大内氏の領地と民は守られます。戦いは避けたい。明智光秀」
使者を周防に送った。
三日後、返事が来た。半蔵が文を読み上げた。
「大内義隆殿より。石見は周防の影響圏である。明智殿の支配は認めない。石見を取り戻す」
俺は文の内容を聞いて、静かに目を閉じた。
「無視されたか」
「はい」半蔵が答えた。
信玄が静かに言った。「降伏勧告を無視されたなら、容赦する理由もない」
「石見の守りはどうなっている」
「信繁殿と昌景殿が守っています。大内の攻撃に対応中です」
俺は決断した。
「石見の防衛を固めながら、周防を攻める。大内氏の本拠地を直接叩く」
「兵力は」と信玄が聞いた。
「西国の兵力を使う。政宗と家康に協力を求める」
伝令を飛ばした。政宗からの返事が来た。
「了解。西国の兵を動かす。大内など、瞬殺だ」
石見では、信繁と昌景が大内の攻撃を受け止めていた。大内の兵力は一万二千。信繁と昌景の守備兵は一万五千。数の上で上回っており、防衛は安定していた。
同時に、周防への攻撃が始まった。政宗と家康が率いる四万が、大内氏の本拠地に向かった。大内氏の周防守備兵は八千。四万対八千。兵力差は、圧倒的だった。
戦いは、二日で終わった。
「大内氏の主要城、全て制圧しました」と半蔵が報告した。
「義隆は」
「城内で切腹したとの報告です」
大内氏が、滅亡した。
石見の防衛も成功した。信繁と昌景が大内の攻撃部隊を撃退し、石見は守られた。
俺は周防に入って、《GAME》の〔マップ〕を確認した。周防が明智の色に染まっていた。大内のマーカーが、消えていた。
一五七〇年、七月。
俺は周防の城で、地図を見ていた。
西国の大半が、明智の色になっていた。残るは、九州だ。
俺は心の底から、もう疲れていた。
帰りたかった。本当に、本当に帰りたかった。
信玄も、同じ顔をしていた。
「九州にも降伏勧告を出す」と俺は言った。「これで戦わずに済むなら、それが一番いい」
俺は文を書いた。肥前の大友宗麟へ。薩摩の島津へ。肥後の各豪族へ。全て、同じ内容だった。
「明智光秀は天下を狙っていません。九州への侵攻も望んでいません。同盟、あるいは現状維持での関係を求めます。返事を頂きたい」
使者を九州各地に送った。
一週間後、返事が戻ってきた。半蔵が、一通一通、内容を確認した。
「大友宗麟殿からの返事はありません」
「島津殿からの返事もありません」
「肥後の豪族からも、返事はありません」
全て、無視された。
俺は天井を見た。
しばらく、何も言わなかった。
「いい加減に、東北に帰りたい」俺は静かに言った。
信玄が静かに言った。「儂も、いい加減に雪を見たい」
「全部無視されたな」
「全部無視された」
俺たちは、しばらく黙っていた。
利三が静かに入ってきた。「十兵衛様、九州の状況は」
「全部無視された」
「そうですか」利三が静かに言った。「では」
「攻める」俺は言った。「降伏勧告を出した。それで十分だ。返事がないなら、戦うしかない」
軍議を開いた。
「九州攻略を行う」と俺は告げた。「肥前の大友宗麟を最初の目標にする」
「兵力は」と政宗が聞いた。
「西国に集結している兵力を使う」俺は答えた。「現在、西国全体で十万近い兵力がある。その一部を九州に送る。五万だ」
信玄が静かに言った。「明智殿、九州を取った後はどうするつもりだ」
「取った後は」俺は少し考えた。「西国の統治と同じだ。民を大切にする。年貢を軽くする。死者を弔う。それだけだ」
「東北には帰るのか」
「九州が片付いたら帰る」
「またその言葉か」信玄が静かに言った。
「十三回目だ」
「十三回目か」
「数えている」
俺は信玄を見た。「信玄殿、今回は一緒に来てくれるか」
「行く」信玄が即答した。「終わるまで、儂は明智殿の隣にいる」
五万の兵が、九州に向けて動き始めた。海路を使う。安東愛季の船団が、九州への渡海を手配した。
九州への上陸は、特に問題なく進んだ。肥前の海岸に、五万の兵が降り立った。大友宗麟の防衛兵は、海岸での迎撃を準備していなかった。半蔵の事前調査が、上陸地点を正確に把握していた。
「大友宗麟の兵力は」と俺は聞いた。
「肥前を中心に、二万五千です」半蔵が答えた。
「五万対二万五千か」
「数の上では、こちらが圧倒的に優位です」
肥前への侵攻が始まった。大友の防衛部隊は、上陸を許してしまった時点で、対応が後手になっていた。信玄が地形を読みながら、主要城を次々と落としていった。
二週間後、肥前が明智軍に制圧された。
大友宗麟は、降伏した。
「明智殿」宗麟が静かに言った。「九州を統一する野心はないと文に書いてあった。それを今、信じる」
「信じてくれてありがとう」と俺は言った。「肥前の民を、丁寧に扱う」
俺は肥前の城に本陣を構えた。
《GAME》の〔マップ〕を確認した。肥前が、明智の色に染まっていた。
しかし、九州には、まだ薩摩の島津、肥後の豪族、その他の勢力が残っている。
「九州全土を片付ける」と俺は言った。
信玄が静かに頷いた。「分かっている。終わったら、東北だ」
「終わったら、東北だ」俺は繰り返した。
窓から外を見た。肥前の夏の空が広がっていた。
東北は、まだ遠い。
しかし、確実に近づいている。
信玄との約束が、もう一度、未来に向けて延びた。




