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【完結】GAME.信長を裏切った俺、明智光秀は天下を無視して東北を目指す。  作者: 山田 ソラ


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第六十三章 本願寺の裏切りと、怒りの全軍出撃

 一五六八年、十月。


 因幡から京に戻って、二ヶ月が過ぎていた。


 毛利からの使者との交渉が、少しずつ進んでいた。


 毛利は一色と山名が撫で斬りにされたことを見て、明智と直接ぶつかることを避けようとしていた。


 交渉は難しいが、戦にはならない方向で動いていた。


 俺は京で内政に専念していた。

 一色と山名の旧領の統治を始めた。

 民への年貢を軽くした。

 死者を弔う寺を建てることを命じた。


 撫で斬りにしたことへの、俺なりのけじめだった。


 秋の空が高かった。


 書類を片付けながら、俺は少し穏やかな気持ちでいた。


 毛利との交渉が進んでいる。

 東北からの報告は平和だ。


 信玄との雪の約束に、また少し近づいた気がしていた。


 そこに半蔵が来た。走っていた。また走っていた。


 俺はその瞬間、書類を置いた。


「何があった」と俺は言った。


 半蔵が俺の前で止まった。


 息を整えた。


「申し上げます」


「言ってくれ」


「本願寺から、手切りの通達が来ました」


 俺は、固まった。


 本願寺。

 石山本願寺。

 顕如上人。

 信長への抵抗を続けていた宗教勢力。


 越後の謙信と戦ったとき、共に戦ってくれた仲間だ。


 “南無阿弥陀仏”の旗を高く掲げて、俺たちの隣に立ってくれた。


「何故だ」と俺は言った。声が、思ったより低かった。


「詳細を申し上げます」半蔵が続けた。


「本願寺は、明智殿が一色氏と山名氏を撫で斬りにしたことを、仏の道に反すると判断したようです。また、明智殿の勢力拡大が、本願寺への脅威になると考えているようです」


「それだけか」


「毛利との交渉が進んでいることも、本願寺は把握しています。毛利と明智が繋がれば、本願寺が孤立すると判断した可能性があります」


 利三が静かに入ってきた。「十兵衛様、本願寺の件は」


「聞いた」


「どうなさいますか」


 俺は立ち上がった。

 地図を広げた。

 石山本願寺の位置を確認した。

 摂津の南、大坂にある。


「顕如上人は文を出したのか」と俺は聞いた。


「はい」半蔵が答えた。「手切りの通達と共に、短い文が来ています」


「読んでくれ」


 半蔵が文を読み上げた。


「明智光秀殿。一色氏と山名氏への撫で斬りは、仏の慈悲に反する行いです。われらはその行いを認めることができません。よって、これまでの同盟を解消します。顕如」


 俺は文を聞いた。もう一度、聞いた。広間が静まり返った。


 怒りが来た。

 静かに、確実に、怒りが来た。

 撫で斬りは、俺もやりたくなかった。

 嫌々やった。

 それは利三が覚えていると言った。


 毛利という四万の脅威があったから、憂いを残さないためにやった。


 その判断を、本願寺に断罪された。


 本願寺は、信長への抵抗の中で多くの一向一揆の命を使っていた。


 戦の中で、多くの命が失われていた。


 仏の慈悲と言いながら、本願寺自身も戦の中にいた。


 その本願寺が、俺の撫で斬りだけを断罪する。


「いい加減にしてくれ」と俺は言った。


 今度は、独り言ではなかった。はっきりと、声に出した。


 利三が俺を見た。

 半蔵が静かに待っていた。


「全兵力を本願寺に向ける」と俺は言った。


 広間が、また静まり返った。


「全兵力をですか」と利三が静かに確認した。


「そうだ。全兵力を石山本願寺に向ける」


 利三が少し間を置いた。


「十兵衛様、少し落ち着いてください」


「落ち着いている」


「落ち着いていません」利三が静かに、はっきりと言った。「今の十兵衛様の顔は、落ち着いていません」


 俺は自分の顔が今どんな顔をしているか、分からなかった。


 利三にそう言われると、少し立ち止まった。


「利三」


「はい」


「俺は怒っているか」


「非常に怒っておられます」利三が静かに言った。「三河で初めてお目にかかってから、今日が一番怒っておられます」


 信玄が入ってきた。

 顔を見て、状況を察した。


「本願寺か」信玄が静かに言った。


「ああ」


「手切りか」


「ああ」


「明智殿、全兵力を動かすつもりか」


「そうだ」


 信玄が少し間を置いた。


「怒る気持ちは分かる」信玄が静かに言った。「全兵力を動かせば、毛利への対応が手薄になる。交渉中の毛利が動く可能性がある」


「動いたら動いたときだ」


「明智殿」信玄が俺の目を見た。「今のお主は、判断が荒れている」


 俺は信玄を見た。

 信玄が真剣な目をしていた。


「荒れているか」


「荒れている」信玄が静かに言った。「伊賀を無理矢理攻めたときより、荒れている。あのときも俺は説教の文を送った。今回はどうする」


 幸村が入ってきた。「本願寺の件、聞いた」


「お前はどう思う」と俺は聞いた。


「怒る気持ちは分かる」幸村が静かに言った。「全兵力は多すぎる。石山本願寺は要塞だ。信長公が何年かけても落とせなかった城だ。全兵力を向けても、時間がかかる。その間に毛利が動けば」


「分かっている」


「分かっているなら、少し考えてくれ」


 政宗が入ってきた。


「全兵力を本願寺に向けると聞いた」政宗が静かに言った。「俺も反対だ」


「理由は」


「怒りから動く戦は、必ず無理が出る」政宗が続けた。「信玄殿の説教文に書いてあった言葉だ。恐怖から動くな。怒りから動くのも同じだ」


 俺は全員を見た。

 信玄、幸村、政宗、利三。

 全員が反対している。

 俺の怒りは収まらなかった。


「全兵力を向ける」俺は繰り返した。「本願寺を潰す。あの城を落とす。顕如上人に会って、直接話をする」


「それは全兵力でなくてもできます」と利三が静かに言った。


「全兵力でなければ、石山本願寺は落とせない」


「信長公も落とせなかった」と幸村が続けた。


「俺は信長様じゃない。別の方法がある」


 信玄が静かに言った。「別の方法とは」


「全兵力で包囲する。攻めるのではなく、包囲する。補給を断つ。そうすれば顕如上人が出てくる」


 広間が静まり返った。


「包囲、か」信玄が少し考えた。「それは全兵力でなくてもできる」


「全兵力でやれば、早く終わる」


「毛利への備えが」信玄の言葉を遮る様に語る。


「毛利との交渉が進んでいる。今すぐ動く可能性は低い」


 信玄がしばらく俺を見た。「……怒りから動いているのは変わらない」信玄が静かに言った。「包囲という方法は、撫で斬りより明智殿らしい」


「撫で斬りはもうしたくない」


「それは分かった」信玄が続けた。「分かった。全兵力を動かすことには反対だ。本願寺への対応が必要なことは認める。どの程度の兵力で動くか、相談させてくれ」


 俺は少し間を置いた。

 怒りがまだあった。


 信玄の言葉が、少しだけ俺を落ち着かせていた。


「相談する。だが素早く動く。それだけは変えない」


「それで構わない」信玄が頷いた。「主君が動くと決めたなら、俺が支える。しかし無理のない形で動く。それだけだ」


 軍議が始まった。


 少し時間を置いて、俺の頭が少し冷えていた。


 それでも怒りは残っていた。

 全兵力という言葉が、少し薄れていた。


「本願寺への対応を決める」と俺は言った。


「包囲戦でいくということですか」と家康が確認した。


「そうだ。石山本願寺を包囲して、補給を断つ。顕如上人が出てくるまで待つ」


「兵力は」


「四万だ」俺は答えた。「全兵力ではなく、四万で包囲する。残りで毛利への備えを維持する」


 信玄が静かに頷いた。「四万なら石山本願寺の包囲は十分できる。毛利への備えも保てる。それで行こう」


 幸村が続いた。「俺は先鋒に立つ。石山本願寺の外堀から固めていく」


 政宗が静かに言った。「海路からの補給も断つ。安東殿に頼んで、海上を封鎖する」


 安東愛季が頷いた。「海路は任せてください」


 出発の前夜。

 俺は一人でいた。


 利三が入ってきた。「十兵衛様、少し落ち着きましたか」


「少しだけ」と俺は正直に答えた。


「全兵力ではなく、四万になりましたな」


「信玄殿たちに止められた」


「それが仲間というものです」利三が静かに言った。


「利三、正直に聞く」俺は言った。「俺は今回、怒りから動こうとしていたか」


「はい」利三が即座に答えた。「非常に明確に、怒りから動こうとしていました」

「それは正しくなかったか」


「正しくはありませんでした」利三が続けた。「本願寺への怒りは、正当な怒りだと思います。あれだけ一緒に戦ってきて、手切りにされた。怒るのは当然です」


「正当な怒りでも、全兵力を動かすのは違うということか」


「はい。怒りの方向は正しい。量が多すぎました」


 俺は苦笑いした。「量が多すぎた、か。うまい表現だ」


「ありがとうございます」利三が静かに笑った。


 翌朝、四万の兵が京を出発した。

 大坂に向かって。

 石山本願寺に向かって。


 俺は馬上で《GAME》の〔マップ〕を確認した。


 石山本願寺のマーカーが、大坂で光っている。


 顕如上人がいる。

 撫で斬りを批判した人がいる。

 俺も、撫で斬りをやりたくなかった。

 その気持ちは同じだ。


「顕如上人」と俺は心の中で言った。「会って話す。直接話す。それだけだ」


 幸村が馬を並べてきた。「明智殿、今の気持ちは」


「まだ怒っている」と俺は正直に言った。


「それでいい」幸村が静かに言った。「怒りを持ちながら、暴走しない。それが明智殿らしい戦い方だ」


「四万に抑えたのは、暴走しなかったということか」


「そうだ」幸村が短く言った。「信玄殿と俺たちが止めた部分もあるが、最終的に明智殿が自分で判断した。それが大事だ」


 大坂の空が見えてきた。

 石山本願寺が、その先にある。

 難攻不落と言われた要塞。


 信長様が何年かけても落とせなかった城。


 俺は四万でその城を包囲しに行く。

 怒りはある。だが撫で斬りはしない。


 包囲して、補給を断って、顕如上人が出てくるまで待つ。


 それが今の俺の答えだ。

 《GAME》の〔マップ〕を確認した。


 石山本願寺のマーカーが、大坂で静かに光っていた。




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