表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】GAME.信長を裏切った俺、明智光秀は天下を無視して東北を目指す。  作者: 山田 ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/72

第五十六章 無理矢理の山城攻略と、信玄の文

 伊賀の本陣で、俺は夜通し《GAME》の〔マップ〕を見ていた。


 秀吉のマーカーが山城と摂津と丹波で光っている。


 六万三千。こちら八万三千。差は二万だ。兵力差では勝ってる。理性では分かっている。


 もう少し待てば、大和の兵力がさらに回復する。信玄が「もう一ヶ月くれれば六万以上まで戻せる」と言っていた。焦る必要はない。


 しかし、秀吉が怖かった。正直に言う。怖かった。信長とは違う種類の怖さだ。


 信長は天才だった。圧倒的な才能で俺を追い詰めた。その怖さは分かりやすかった。


 秀吉の怖さは、別物だ。この男は生き残りの天才だ。追い詰められても、逃げて、立て直して、また来る。何度削っても、何度押し返しても、消えない。


 本能寺の変の後、俺を山崎で討ったのは秀吉だ。前世の記憶がそう言っている。


 この時代では違う結果になっているが、それでも秀吉という男への恐怖が、骨の髄まで染み込んでいる。


 もし秀吉が先に動いたら。こちらが回復を待っている間に、秀吉が兵力を増やしたら。


 西国の大名をさらに従えて、十万を超えてきたら。その可能性が、頭から離れなかった。


 夜明け前、俺は決断した。


「山城を攻める。今すぐ動く」


 朝の軍議で告げると、信繁が静かに聞いた。「今の兵力で動くのですか」


「そうだ」


「大和の回復を待てば」


「待てない」と俺は言った。「秀吉が先に動くかもしれない。待てば待つほど、秀吉が強くなる可能性がある。今動く」


 信繁が少し間を置いた。


「分かりました。信繁、従います」


 昌景が静かに頷いた。「山県昌景、前線に出ます」


 義重が言った。「鬼義重、先頭に立つ」


 大和の信玄への伝令を飛ばした。


「山城を攻める。大和から動ける兵を全て送ってくれ。一人でも多く」


 返事が来るより先に、俺は動き始めた。

伊賀の兵力を集めた。二万一千。大和から送られてきた兵、一万八千。


 合計三万九千。


 秀吉の山城の守備兵は二万五千と半蔵が報告していた。


 数では上回っている。しかし、余裕はない。薄氷の上を歩くような兵力差だ。


 出発の朝、義重が俺の隣に立った。


「明智殿、焦っているな」


 俺は少し驚いた。「分かるか」


「分かる」義重が静かに言った。「三年前の明智殿とは目が違う」


「秀吉が怖い」と俺は正直に言った。「待っていれば待っているほど、怖くなる。だから動く」


 義重が短く頷いた。


「正直に言える主君は、信頼できる」義重が続けた。「俺も一緒に怖がってやる。怖いまま、前に進む。それだけだ」


 三万九千が伊賀を出発した。

 山城に向かって、西に進む。


 山城への道は、信玄が設計した山道ルートを使った。


 半蔵の忍びが前を走って、秀吉の物見を排除し続けた。


 行軍しながら、俺は何度もマップを確認した。


 秀吉の山城守備部隊が、こちらに気づいて陣を固め始めていた。


 二日後、山城の国境に達した。

 秀吉の守備隊が、待ち構えていた。

 二万五千。整然とした陣形だ。


 指揮しているのは、秀吉の側近の将だ。秀吉本人は摂津にいるという半蔵の報告があった。


 義重が前に出た。「俺が先頭に立つ」


「頼む」


 義重の鬼義重スキルが展開した。


 恐怖を感じない男が、三万九千の先頭に立った。


 その姿だけで、秀吉の守備隊に動揺が走った。


 昌景が補給路を断った。

 信繁が側面に回り込んだ。

 俺が《欺瞞》を使った。


「秀吉本人が摂津から丹波に撤退している」という偽情報を守備隊に流した。


 本拠の大将が逃げているという情報が、兵の士気を一気に下げた。


 守備隊が崩れ始めた。


 三日間の戦いで、山城の主要城が次々と落ちた。


 消耗が大きかった。

 三万九千が三万一千まで削れた。

 しかし、山城を制圧した。


【山城 明智軍制圧】


 そして、俺は、京に入った。


 京の街並みが見えたとき、俺は馬の上で動けなくなった。


 京。この国の都。

 織田信長が夢を見た場所。

 羽柴秀吉が掌握しようとした場所。


 明智光秀が、本能寺で主君を討った場所。


 前世の記憶の中で、俺はこの街を知っていた。


 歴史の教科書の中で、何度も見た街だ。


 しかし、実際に目で見るのは、この体になって初めてだ。


 瓦屋根が続く街並み。鴨川の流れ。遠くに見える山。


 美しかった。


 利三が隣に来た。「十兵衛様、京に戻りましたな」


「ああ」と俺は言った。声が掠れていた。


「本能寺の変の後、信長様を討って逃げた。あのときから、長い旅でした」


「長かった」俺は繰り返した。


 長かった。本当に長かった。


 京から東北まで逃げて、東北を統一して、関東を取って、越後を取って、西に向かって、信長を倒して。


 そしてついに、京に来た。

 感無量だった。

 この言葉しか出てこなかった。


 義重が静かに言った。「泣いているか、明智殿」


「泣いていない」と俺は言った。


 しかし、目が熱かった。


「泣いていないことにしておこう」義重が短く笑った。


 その夜、京の山城に本陣を構えた。

 俺は一人で執務室に残った。

 書類が積み上がっている。


 しかし、今夜は書類より先にやることがあった。


 窓を開けた。

 京の夜景が広がっていた。

 灯りが、街のあちこちで揺れている。

 民が、この街で生きている。


「ここまで来た」と俺は呟いた。


 誰にも聞こえない声で。


 信長への「死ね」の返事を思い出した。

「死ねと言われたが、死ななかった。京に来た」


 翌朝、信玄からの文が届いた。大和から急使が持ってきた。俺は文を開いた。信玄の文は、長かった。信玄にしては珍しく、長い文だった。


「明智殿へ。山城を取ったことは評価する。しかし、儂は怒っている。以下に理由を述べる。

第一。儂が三ヶ月待ってくれと言った。一ヶ月で勝手に動いた。約束を守れ。

第二。伝令より先に動き始めていた。儂への連絡が後手になっていた。主君が前線に出るなら、事前に全員に知らせよ。

第三。三万九千で二万五千と戦った。確かに数は上回っていた。しかし余裕がなさすぎる。薄氷の上を走るような兵力差だ。もし秀吉本人が山城にいたら、どうなっていた。

第四。焦っていただろう。秀吉が怖くなって、待てなくなっただろう。儂には分かる。儂も長年、謙信への恐怖と戦い続けた。しかし、恐怖から動いた戦いは、必ず無理が出る。今回は勝ったが次は負けるかもしれない。

以上四点が、儂が怒っている理由だ。

しかし、一つだけ認める。山城を取ったことで、秀吉への圧力が生まれた。京を取ったことで、明智殿の士気が上がった。それは事実だ。結果として正しかった部分もある。

だから怒りながらも、認める。

しかし、次からは相談しろ。儂は主君の暴走を止めるために大和にいるわけではない。しかし止める必要があるなら、止める。それが忠誠というものだ。

武田信玄」


 俺は文を読み終えた。

 もう一度、読んだ。

 そして静かに、文を机に置いた。


 利三が入ってきた。「十兵衛様、信玄殿からの文ですか」


「そうだ」


「内容は」


「説教だ」俺は正直に言った。「四項目にわたる、丁寧な説教だ」


 利三が少し目を丸くした。「信玄殿が説教を」


「正しいことが四つ書いてある。全部、正しい」


 俺は窓の外を見た。

 京の朝が始まっていた。

 街の人々が動き始めている。

 市が開き、子どもたちの声が聞こえる。


「信玄殿は怒りながら認めてくれた」と俺は言った。


「そうですか」利三が静かに言った。


「忠義の高い男が、俺を怒ってくれた。それが嬉しい。変な話だが、本当に嬉しい」


 利三が静かに笑った。「それは変な話ではありません。怒ってくれる人は、本当に心配してくれている人です」


 俺は返事を書いた。

 信玄への返事だ。


「信玄殿へ。説教を受け取りました。四点とも、正しい。反省します。特に第四点、恐怖から動いたという指摘は、核心を突いています。秀吉が怖かった。正直に認めます。次からは相談します。必ず。しかし一つだけ言わせてください。信玄殿の文が届いて、俺は京で一人笑いました。忠義の高い男に怒ってもらえることが、これほど心強いとは思いませんでした。ありがとうございます。明智光秀」


 文を封じた。

 使者に渡した。

 夕方、信玄からの返事が来た。

 今度は短かった。


「分かった。次は相談しろ。東北の雪を見るまでは、死ぬな。信玄」


 俺は文を読んで、小さく笑った。


 利三が「また笑っておられますな」と言った。


「信玄殿は最後に必ず東北の雪の話をする」俺は言った。


「約束を大切にしている証拠です」


「そうだな」


 その夜、俺は《GAME》の〔マップ〕を開いた。


 山城が明智の色に染まっている。

 京が、明智の色に染まっている。


 秀吉のマーカーが摂津と丹波で光っている。


 残り二国だ。


 摂津と丹波を取れば、秀吉の畿内の拠点が消える。


 しかし、今夜は、焦らないと決めた。

 信玄の説教が、まだ胸に残っていた。


 恐怖から動くな。相談しろ。待てるときは待て。


 俺は書類を開いた。京の内政を始めた。

街道の確認。市の再開。民への布告。

 

 やることは山積みだ。しかし、今夜は、それが嬉しかった。この街を守るための仕事だ。京の民が、俺を見ている。


 東北の星が、遠い北で輝いていた。


 信玄が大和にいる。忠勝が大和にいる。幸村が大和にいる。全員が動いている。


 秀吉との最後の戦いが、近づいていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ