第五十五章 大和の傷と、京への備え
三方向の攻略が完了した翌朝。
俺は各戦場の損耗報告を待っていた。近江と伊賀は比較的順調だった。
問題は、大和だった。信玄から報告が来た。「大和での損耗を報告する。六万が、三万一千まで減った」
俺は数字を見た。六万が、半分以下だ。
「信玄殿、将は全員無事か」
「主要な将は全員無事だ。しかし、兵の消耗が激しかった。秀吉の大和防衛は本物だった」
全体の兵力を計算した。
大和での三万近い損耗。近江と伊賀の消耗を合わせると、総兵力六万千を切っていた。
十万の兵が、六万千になっていた。
「辛勝だな」と俺は呟いた。
利三が静かに入ってきた。「十兵衛様、秀吉の現在兵力も確認しました。大和での消耗で、六万三千まで減っています」
「六万三千対六万千……ほぼ互角だが」
「はい。このまま前進すれば、押し潰されます」
信玄が近江の本陣に来た。
「明智殿、正直に言う」信玄が静かに言った。
「言ってくれ」
「今の兵力で秀吉とぶつかれば、負ける。大和の内政と兵力増強に時間が必要だ。儂が大和を任せてもらえれば、立て直す。忠勝、幸村、家康、昌幸、政宗を付けてくれれば、確実にやれる」
俺は信玄を見た。
「大和を全部任せる」と俺は言った。
「御意」信玄が頷いた。「三ヶ月待ってくれ。必ず立て直す」
軍議を開いた。
「大和の内政と兵力増強を信玄殿に任せる。忠勝、幸村、家康、昌幸、政宗の五人が信玄殿を支えてくれ」
忠勝が静かに言った。「大和を立て直す。任せろ」
幸村が続いた。「兵の練度も上げる。消耗した兵を鍛え直す」
家康が静かに言った。「内政は私が担います。信玄殿の指揮の下で」
昌幸が穏やかに言った。「守りの構築は私が担います。大和を鉄壁にしてみせます」
政宗が短く言った。「大和の豪族をまとめる。信長公の旧臣の対応と同じやり方でやる」
信玄が全員を見た。「六人で大和を立て直す。明智殿、任せろ」
六人が大和に向かった。
信玄を先頭に、忠勝、幸村、家康、昌幸、政宗が動いた。
俺は近江からその背中を見送った。
俺は伊賀に移動した。
信繁と昌景が待っていた。
「伊賀は安定しています」信繁が静かに言った。
「ありがとう、信繁殿。伊賀を守り続けてくれ。俺は伊賀で兵力をかき集める」
「どのくらい集めますか」と昌景が聞いた。
「最低でも二万は必要だ。できる限り集める」
兵力集めが始まった。
伊賀の各地から兵を募った。近江、大和からも補充を求めた。信繁と昌景が指揮して、訓練を並行して進めた。
半蔵の報告によれば、秀吉は山城に二万五千、摂津に二万を展開して京を中心に守りを固めていた。攻めてくる動きはまだない。大和での消耗を補充中らしかった。
「防衛線はどこに引く」と義重が聞いた。
「伊賀と山城の間に山がある」俺は地図を指さした。「ここだ。山地を背にして、川を前に置く。信玄殿の設計と同じ発想だ」
「分かった」義重が頷いた。「俺が前に出る。鬼義重が山の前に立てば、秀吉も慎重になる」
「頼む、義重殿」
防衛線の構築が始まった。
信繁が山地の各所に物見を配置した。昌景が伊賀の各城を繋ぐ連絡網を整えた。半蔵の忍びが山城と摂津の秀吉軍の動きを監視し続けた。
伊賀での日々が続いた。兵力が少しずつ積み上がっていく。
一週間で一万三千。二週間で一万七千。三週間で二万一千を超えた。
一ヶ月後、大和から報告が来た。信玄から。
「大和の内政、順調に進んでいる。兵の補充も始まっている。三万まで戻せた」
三ヶ月と言っていたのに、一ヶ月で三万を達成していた。
「信玄殿らしい」と利三が静かに笑った。
「本当に頼もしい」と俺は答えた。
家康からも報告が来た。「大和の内政、軌道に乗り始めました。年貢の見直し、市の再開、街道の整備。民の反応は良いです」
政宗からも。「大和の豪族、七割が明智に従い始めました。武田の旧臣が明智についているという事実が、他の旧臣にも影響しています」
昌幸からも。「大和の守りを三重の防衛線で設計しました。秀吉が来ても、相当の消耗を強いることができます」
忠勝からも。「兵の鍛錬を毎日やっている。消耗戦で生き残った兵は、もともと強い。休養と訓練で急速に戻っている」
幸村からも。「練度が上がっています。もうじき戦える状態に戻ります」
全員が動いている。
全員が、自分の持ち場で確実に動いている。
大和と伊賀の兵力を合わせると、八万三千まで回復していた。
三万八千から、一ヶ月で四万五千の回復だ。
秀吉の現在兵力は六万八千と半蔵が報告してきた。
六万三千対八万三千。
差は二万だ。兵力的には勝ってる。
半蔵が来た。
「山城の秀吉軍が、南に向かって動き始めています。大和方面への圧力をかけ始めています」
俺は《GAME》の〔マップ〕を確認した。
秀吉が動き始めた。
大和の信玄への伝令を飛ばした。
「秀吉が山城から南下している。大和への圧力に備えてくれ」
信玄からの返事が来た。
「把握している。大和の防衛線は完成した。来るなら来い」
俺は伊賀の本陣に立って、《GAME》の〔マップ〕を見た。
山城の秀吉が南に動いている。
伊賀から見れば、秀吉の西側だ。
秀吉が大和に向かえば、信玄たちが受ける。伊賀に向かえば、俺と義重が受ける。どちらの方向に来ても、受け止める体制ができている。
義重が俺の隣に来た。
「来るな」義重が静かに言った。
「ああ」
「明智殿、最後の戦いになるか」
「なるかもしれない」
「鬼義重、最後まで前に立つ」
「頼む、義重殿」俺は言った。「ずっと頼りにしている」
義重が短く頷いた。
伊賀の夜が更けていく。
秀吉のマーカーが、ゆっくりと南に動いている。
六万三千の軍勢が、こちらに向かってきている。
東北の星が、遠い北で輝いていた。民が待っている。
終わらせなければならない。




