第四十九章 飛騨攻略と、尾張大集結
一五六四年、六月。
美濃に本陣を置いた俺は、《GAME》の〔マップ〕を開きながら周辺の状況を確認していた。
信長の十一万が、伊勢で集結を続けている。
まだ動いていない。
この隙に、できることをやる。
半蔵から報告が来ていた。
「飛騨の状況を確認しました」
「飛騨か」と俺は呟いた。
飛騨。美濃の北に位置する山岳地帯だ。
《GAME》の〔マップ〕と〔データ〕を確認した。
【飛騨 織田信長支配下 兵力五千】
信長の支配下だが、守備が薄い。
美濃を取った今、飛騨が俺の側面に残っている。
放置すれば、信長が飛騨から美濃の北を突いてくる可能性がある。
「取る」と俺は即座に決めた。
軍議を開いた。
「飛騨を攻略する」と俺は言った。
「なぜ今、飛騨なのですか」と家康が聞いた。
「側面を固めるためだ」俺は地図を指さした。「美濃を取った今、飛騨が残っている。ここを信長様に使われれば、美濃の守りが崩れる可能性がある。先に取る」
「飛騨の地形は険しい」と信玄が静かに言った。「山ばかりだ。大軍は動かせない」
「だからこそ五千しか守っていない。俺たちも少数精鋭で動けば、地形を活かして戦える」
「誰を送る」と幸村が聞いた。
「信玄殿、忠勝、幸村の三人に頼む」俺は言った。「一万五千を連れて飛騨を攻略してくれ。素早く、確実に」
信玄が地図を確認した。
「飛騨は儂が詳しい」信玄が静かに言った。「甲斐と信濃から何度も遠征した土地だ。地形は頭に入っている」
「だから信玄殿に頼んだ」
「分かった。任せろ」
忠勝が握り直した。「行く」
幸村が静かに頷いた。「速攻で終わらせる」
翌朝、三人が一万五千を率いて美濃を出発した。
北の飛騨に向かって。
飛騨への道は、険しかった。
山道が続く。川が多い。地形が複雑だ。
しかし、信玄は迷わなかった。
「ここを曲がれ。その先に近道がある」
「この川は浅い。渡れる」
信玄の地形の読みが、一万五千の行軍を導いた。
飛騨の守備隊は五千だったが、城に籠もって抵抗した。
山の地形を活かした守りだ。
正面から攻めれば、時間がかかる。
しかし、信玄が動いた。
「水路を断つ」信玄が命じた。「飛騨の城は、山から引いた水路で生きている。それを断てば、籠城が続けられない」
一日で水路を断った。
二日目、城の守備隊が動揺し始めた。
忠勝が正面から圧力をかけた。
幸村が山の裏側から回り込んだ。
三日目の朝、飛騨の守備隊が降伏した。
半蔵から報告が来た。
「信玄殿、忠勝殿、幸村殿、飛騨を完全制圧。損耗は軽微です。快勝です」
俺は息を吐いた。
「素早かった」と利三が静かに言った。
「三人だからだ」俺は頷いた。「信玄殿の地形の読み、忠勝の突破力、幸村の機動力。この三人の組み合わせは、山地では特に強い」
信玄から報告が来た。
「飛騨を取った。明智殿の側面が固まった。次は何をする」
俺は返事を書いた。
「美濃に戻ってくれ。次は尾張に全兵力を集める。信長様との最終決戦の準備だ」
信玄、忠勝、幸村が美濃に戻ってきた。
三人とも、消耗が少ない。
飛騨での快勝の余波が、三人の顔に表れていた。
「戻った」信玄が俺のところに来た。
「ご苦労だった」
「次は尾張に全軍を集めるということか」
「そうだ」俺は地図を広げた。「美濃で決戦をしようとしたが伊勢から動かん。尾張を拠点に信長様との最終決戦に備える。全兵力を尾張に集中させる」
全軍に号令を出した。
「尾張に全兵力を集める。各地から動かせる全ての兵を尾張に送れ」
東北から。
越後から。
信濃から。
甲斐から。
関東各地から。
全ての兵が、尾張に向かって動き始めた。
兵力の集結に、五日かかった。
最終的な数字が出た。
【明智軍 尾張集結兵力 六万八千】
六万八千。
東北と越後の最低限の守備を残して、全兵力を集めた結果だ。
しかし、信長の十一万には、まだ及ばない。
俺は《GAME》の〔データ〕を見た。
【織田信長 兵力十一万二千】
差は約四万四千。
それでも、俺は前を向いた。
全員が尾張に集まった。
信玄、忠勝、幸村、政宗、家康、昌幸、利三、半蔵、安東愛季、佐竹義重、今川義元。
全員の顔が揃った。
俺は全員を見回した。
「全員に告げる」と俺は言った。
広間が静まり返った。
「信長様の兵力は十一万二千だ。俺たちは六万八千。約二倍の差がある」
誰も驚かなかった。全員が知っていた。
「正面からぶつかれば、勝てない」俺は続けた。「しかし、諦めてもいない。信玄殿の地形を活かした戦略、本願寺への協力要請、秀吉への情報提供。全ての手を同時に使う」
信玄が立ち上がった。
「儂から話していいか」
「頼む」
信玄が全員を見渡した。
「十一万対六万八千。数字だけ見れば絶望的だ。しかし戦いは数字だけで決まらない」信玄が静かに続けた。「川中島で儂と謙信は何度も戦った。双方が三万前後で、互いに決定的な勝利を得られなかった。なぜか」
誰も口を開かなかった。
「地形だ。信念だ。指揮だ。そして仲間の絆だ」信玄が俺を見た。「明智殿にはこの全てがある。地形を読める俺がいる。信念を持った仲間がいる。そして、明智殿という主君がいる」
忠勝が続いた。
「俺は三河で最初に明智殿と戦った。負けた。しかし、あのとき気づいた。この男は諦めない、と」忠勝が真っ直ぐ俺を見た。「十一万が来ても、明智殿は諦めない。俺も諦めない」
幸村が続いた。「信濃で俺は明智殿の《欺瞞》に負けた。悔しかった。しかし今は違う見方をしている」幸村が静かに言った。「明智殿は諦めない代わりに、何でも使う。地形も、策も、仲間も、全部使う。その姿勢が、数の差を埋める」
政宗が続いた。「白装束で降伏した夜から、俺はずっと明智殿を見てきた」政宗が静かに言った。「諦めない男だということは、よく分かっている。だから俺もここにいる」
家康が続いた。「三河で敗れた後、私は明智殿について東北まで行きました」家康が静かに言った。「あの旅の間、明智殿が一度も諦めるところを見なかった。今も同じです。私は明智殿を信じています」
昌幸が穏やかに笑った。「面白くなってきましたな。十一万対六万八千。負けたら面白くない。しかし勝ったら最高に面白い」
利三が深く頭を下げた。「どこまでも、お供します」
半蔵が無言で頷いた。
今川義元が静かに言った。「桶狭間で死に、この時代で蘇り、また負けた儂が言うのもおかしいが」義元が続けた。「最後まで戦うことが、義だと思っている」
安東愛季が静かに言った。「海路は任せてください。信長公が海から動こうとしても、われらが防ぎます」
佐竹義重が短く言った。「鬼義重、最後まで戦う」
俺は全員の言葉を聞いた。
目が熱くなった。
悟られないように、天井を見た。
「ありがとう」と俺は言った。「全員に、本当にありがとう」
夜、俺は一人で尾張の城の高台に立った。
西の方角を見た。
伊勢の方向に、織田信長のマーカーが光っている。
信長様は、あそこにいる。
十一万の兵を率いて。
俺を待っている。
俺は懐から「死ね」の文を取り出した。
最後にもう一度、見た。
「信長様」と俺は呟いた。「六万八千で来ます。途轍もない数字ですが、諦めていません。あなたに仕えた光秀として、最後まで戦います」
風が吹いた。
尾張の春の風が、西から来た。
《GAME》の〔データ〕を確認した。
【明智軍 尾張集結兵力 六万八千】
【織田信長 兵力十一万二千】
差は縮まっていない。
しかし、俺の隣に、十一人の仲間がいる。
その重さが、数字の差を少しだけ、軽くしてくれた。
本願寺への使者を出した。
秀吉への情報提供の文を書いた。
信玄に尾張の地形を使った防衛計画と伊勢への侵攻計画を頼んだ。
全ての手が、動き始めた。
尾張の夜が更けていく。
最後の戦いが、近づいていた。




