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GAME.信長を裏切った俺、明智光秀は天下を無視して東北を目指す。  作者: 山田 ソラ


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第四章 上野攻略、長野業正はブチ切れた

 信濃の陣に、半蔵の報告書が積み上がっていた。


 俺はそれを一枚一枚めくりながら、マップと照らし合わせていく。灯火が揺れる深夜の作業だが、眠気は感じない。情報を読むのは、前世のゲーマー気質が疼く瞬間だ。データを並べて、最適解を探す。それだけは得意だ。


 報告の内容は、正直言って笑えなかった。


【越後 上杉謙信〔不死〕 兵力三万】

【甲斐 武田信玄〔不死〕 兵力三万】


 二つの〔不死〕マーカーが、信濃を挟むように光っている。


 上杉謙信と武田信玄。この二人が生きていて、しかも死なない。川中島で何度も激突した宿敵同士が、同時に存在している。この時代の歪みは本当に底が知れない。


 俺は深呼吸をした。


 この二つには、今は触らない。触れない。三万対一万では話にならない。《欺瞞》を使ったとしても、相手が謙信と信玄では切り札の効果が読めない。あの二人は戦の天才だ。偽情報を見抜く嗅覚も、並外れているはずだ。


 では東北へ向かうルートはどこか。


 マップを北に辿っていくと、一つの国が目に入った。


【上野 長野業正〔不死〕 兵力七千】


 七千。

 俺は思わず身を乗り出した。


「これなら、いける」


 長野業正。


 前世の記憶を掘り起こす。確か、武田信玄が唯一攻め落とせなかった城主だ。箕輪城の名将。信玄をして「業正一人に何度煮え湯を飲まされたか」と言わしめた男だ。


 強い。間違いなく強い。


 しかし、七千だ。こちらは信濃で兵を整え、三河からの合流組も加えて一万二千まで回復している。兵力差はある。


 そして、何より、上野を取れれば東北への道が大きく開ける。


「行く」と俺は決めた。


 利三に地図を広げさせ、作戦を練り始めた。


「まず《欺瞞》から入る」


 翌朝の軍議で、俺は言った。


 忠勝、幸村、昌幸、家康、利三、半蔵が揃っている。最近この面々が当たり前になってきたが、改めて見ると化け物集団すぎて眩暈がする。


「長野業正は堅守の将だ。正面から攻めれば箕輪城に籠られる。籠城戦になれば七千でも厄介すぎる」


 昌幸が静かに頷いた。「さすがに業正殿の守りは固い。信玄公でさえ手を焼いた」


「だから城から引きずり出す」


 俺はマップを指さした。「《欺瞞》で武田信玄が上野に侵攻するという情報を流す。業正は武田と長年戦ってきた。信玄の名前には必ず反応する。城の守りを固める前に、迎撃に出てくるはずだ」


「その隙に我らが挟む、ということか」幸村が腕を組んだ。「業正殿を野戦に引き込むわけですな」


「そうだ」


 忠勝が静かに言った。「先陣は俺がやる」


 幸村が横目で忠勝を見た。「俺もやる」


 この二人が同じ方向を向いている。忠誠値がわずかに上がった気がした。

 

 《欺瞞》は、予想以上に効いた。


 半蔵が上野の各所に流した情報は三日で業正の耳に届いたらしく、マップ上で箕輪城の兵力マーカーが動き始めた。城門が開き、兵が展開していく。


「出てきた」と俺は呟いた。


 業正は武田への備えとして北西に兵を向けた。その背後、東側から俺の軍が動く。


 忠勝が先頭に立った。

 幸村がその隣に並んだ。


 この二人が並んで突撃する光景は、正直に言って壮観だった。マップ上で二つの最強マーカーが並走している。敵ユニットが次々と消えていく。


 それでも業正の兵は強かった。


 七千という数字に油断していた部分があった。一人一人の練度が高い。長年武田と戦い続けた歴戦の兵だ。簡単には崩れない。


 中盤、俺の右翼が押し込まれた。


「《欺瞞》第二弾」


 俺は間を置かず発動した。今度は業正の部隊内部に流す。「長野業正が武田と密約を結んでいる」という情報だ。根拠も何もない。ただの悪質な噂だ。


 しかし、これが業正の部隊に動揺を生んだ。


 信じた兵と信じない兵が言い争いを始め、陣形が乱れた。その隙に忠勝が中央を割った。


 日が傾く頃には、勝負が決していた。

 問題は、そこからだった。


 業正の本陣に使者を送った。降伏勧告だ。


 返事が来るまで、いつもより時間がかかった。


 そして、戻ってきた使者の顔が妙に引きつっていた。


「申し上げます」使者が恐る恐る口を開いた。「長野業正様より伝言にございます」


「なんと言っていた」


「…………『卑怯者の下に膝は折らん』と」


 陣が静まり返った。


 利三が咳払いをした。幸村が視線を逸らした。昌幸が面白そうに口元を押さえた。


「他には」と俺は努めて平静に聞いた。


「『《欺瞞》などという姑息な術を使う輩に、武士の情けは無用』と……それと」


「まだあるのか」


「『武田信玄公の名を騙るとは万死に値する、地獄で信玄公に詫びろ』と」使者が震えながら言った。「以上にございます」

 

 沈黙。

 昌幸が堪えきれず、小さく吹き出した。


「昌幸」と俺は言った。


「も、申し訳ございません」昌幸が笑いを噛み殺している。「業正殿らしい、と思いまして」


 長野業正は、去った。


 兵を解散させ、家族を連れ、どこかへ消えた。降伏もせず、戦い続けもせず、ただ怒って去った。


 マップから業正のマーカーが消えた瞬間、俺は小さく項垂れた。


 仲間になってほしかった。


 正直に言えば、業正は欲しかった。信玄を何度も退けた守りの名将だ。東北への道で、あの堅守は絶対に役に立つ。


 しかし、《虚報》を使い続ける限り、こういう男は仲間にならない。


 それを改めて突きつけられた気がした。


「残念だったな」と幸村が隣に立った。


「ああ」


「業正殿は筋を通す方だ。ああいう将は、力で屈服させても心はついてこない」


 幸村の言葉が刺さった。


 こいつは自分のことも言っているのかもしれない、と思った。


「反省してる」と俺は言った。


「してるだけでは足りん」幸村が静かに言った。「次は変えろ」


 上野は制した。


 箕輪城に明智の旗が立った。兵力は消耗したが、上野の地は手に入った。マップ上で、東北への道がまた一歩近づいた。


 夜、俺は一人で業正のマーカーが消えた場所を眺めた。


 強くて、真っ直ぐで、怒って去った男。


 《欺瞞》は勝つための道具だ。使わなければ死ぬ場面もある。でも使い続ければ、業正のような男は永遠に仲間にならない。


 どこかで変えなければいけない。

 でも今はまだ、その答えが出ていない。


「長野業正か……」俺は呟いた。「いつか、会えたら謝りたいな」


 マップの北が、静かに光っていた。




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