表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】GAME.信長を裏切った俺、明智光秀は天下を無視して東北を目指す。  作者: 山田 ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/72

第四十三章 千曲川決戦、義と義のぶつかり合い

 千曲川が見えてきた。


 川幅が広い。流れが速い。


 川の向こう岸に、上杉の旗が並んでいた。


 白地に「毘」の一文字。

 毘沙門天の旗が、風に揺れている。


 三万二千の兵が、川の手前で展開を始めた。


 《GAME》の〔データ〕を確認した。


【上杉謙信〔不死〕〔毘沙門天〕兵力一万八千】


 前回の越後での戦いで消耗していた。

 一万八千。


 こちらの三万二千に対して、一万八千。

数は俺たちが上回っている。


 しかも、今回は越後の外だ。地の利の越後補正がない。


 しかし、《GAME》の〔データ〕を見ると、謙信のパラメータは変わっていなかった。


【武力100 統率100 義力100】


 越後補正がなくても、謙信は謙信だ。

 川の向こうから、謙信の使者が来た。


「上杉謙信公より。約束通り参った。戦の前に、一つだけ明智殿に伝言がある」


「聞かせてくれ」と俺は言った。


「謙信公は言われました。『明智光秀は謀反人だ。しかし正面から挑戦状を送る義は認める。義の決着をつける』と」


 俺は使者を見た。


「謙信公に伝えてくれ。『明智光秀、全力で受ける』と」


 使者が去った。

 信玄が俺の隣に来た。


「謙信との戦い、儂が先頭に立つ」


「危険だ」


「儂は死なぬ」信玄が静かに笑った。「そして、謙信とは長年の因縁がある。川中島で何度も戦った。あの男と決着をつけるなら、儂が前に出るべきだ」


 俺は信玄を見た。


「頼む」と俺は言った。


「任せろ」


 忠勝が来た。「俺も先陣に行く」


「信玄殿と一緒にか?」


「そうだ」忠勝が静かに言った。「信玄殿一人では心配だ」


「儂は死なぬと言っている」信玄が少し呆れた顔をした。


「それでも心配だ」忠勝が真剣な顔で言った。


 信玄が少し笑った。「頑固な男だ」


 幸村が来た。「右翼は俺が担う」


「謙信の側面を崩してくれ」と俺は言った。


「分かっている」幸村が静かに続けた。

「明智殿、一つだけ確認させてくれ」


「何だ」


「今回は策を使わない。正面からぶつかる。それは変わらないか」


「変わらない」


「分かった」幸村が頷いた。「義の戦いに、策は要らない。俺も全力で行く」


 本願寺の使僧が来た。


「明智殿、われらはどこに配置されますか」


 俺は少し考えた。


「中央の後方に配置してほしい。前線に出る必要はない。しかし旗を高く掲げてくれ」


「旗を、ですか」


「本願寺の旗だ。一向宗の旗が翻れば、謙信の兵に心理的な影響を与える。謙信は義の人だ。信仰の力を持つ本願寺が明智と共に立っているという事実は、謙信の義に対して別の義を示す」


 使僧が深く頷いた。「分かりました。南無阿弥陀仏の旗を高く掲げます」


 戦の前、俺は一人で川を見た。

 流れが速い。


 川向こうに、謙信の「毘」の旗が揺れている。


「謙信公」と俺は心の中で言った。「あなたの義は本物だ。俺があなたを謀反人と断じることを、俺は責められない。俺は確かに主君を討った。しかし東北の民がいる。あの民を守るために、俺は戦い続ける。あなたと戦いたくなかった。しかし戦わなければならない」


 風が吹いた。

 川の水が、光った。

 戦が始まった。


 信玄が千曲川を渡った。〔風林火山〕が展開した。


「疾きこと風の如く」


 信玄の軍勢が、川を渡る速度が速かった。


 謙信が前に出た。〔毘沙門天〕が発動した。


 越後の地の利はない。しかし謙信の義力が全軍に広がった。


 川を渡り切った信玄の部隊に、謙信の先鋒がぶつかった。


 川の近くでの激突は、泥と水と血が混じった戦いだった。


 信玄と謙信が、またもや正面からぶつかった。


 川中島を彷彿とさせる光景だ。

 

 最強クラスの二人が、戦国最大のライバルが、再び向かい合っている。


 忠勝が信玄の隣に立った。

 二人が、謙信の正面に立った。

 謙信が動いた。

 自ら馬を駆って、信玄に向かってきた。

 信玄が受けた。


 〔風林火山〕対〔毘沙門天〕。


 二つのスキルが激突した。


 轟音のような衝撃が、戦場に広がった。

 右翼で幸村が動いた。


 謙信の左翼を狙って、迂回攻撃を仕掛けた。


 速い。


 幸村の動きは、相変わらず速い。

 謙信の左翼が揺れた。

 しかし、謙信は対応した。


 自ら戦いながら、左翼への指示を出し続けた。


 統率100の力が、戦場全体を見ていた。

 中盤、戦が膠着し始めた。


 数で上回っているはずなのに、謙信の義力が差を埋めている。


 一人一人が、恐れを知らない。

 信念で動いている。

 信念で戦う人間は、強い。

 幸村が言っていた言葉が、正しかった。


 そのとき、後方の本願寺の旗が高く上がった。


 使僧が大声で唱え始めた。「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」


 一向宗の念仏が、戦場に響いた。


 本願寺の五千が、旗を高く掲げて前進し始めた。


 正面からではなく、側面から。静かに、しかし確実に。


 その光景を見た謙信の兵が、一瞬動きを止めた。


 本願寺が、明智と共に立っている。


 一向宗の信仰が、謙信の義と向かい合っている。


 義と信仰がぶつかった瞬間、謙信の兵の足が微かに揺れた。


 信玄がその瞬間を逃さなかった。


「今だ」〔風林火山〕が最大展開した。「山の如く動かず、火の如く攻める」

 全軍が一斉に前進した。

 忠勝が中央を突いた。

 幸村が左翼を崩した。

 本願寺の五千が右翼を押した。

 謙信が踏みとどまった。


 一人で、三方向の圧力を受けながら、立っていた。〔不死〕の男が、〔毘沙門天〕の力を全開にして、それでも押されていた。


 しかし、崩れなかった。

 謙信という男は、崩れない。

 俺は《欺瞞》を使おうと思った。

 そして、やめた。


「使わない」と俺は決めた。


 謙信は正面からの挑戦状に応じてくれた。


 義の決着を求めてくれた。


 そこに《欺瞞》を使えば、謙信の義を汚す。


 それはできない。

 力で押し続けた。

 正面から。

 策を使わず。

 ただ力と力のぶつかり合いで。


 二日目の夕暮れ。


 謙信の兵力が大きく削れていた。

 一万八千が、一万二千になっていた。

 しかし、謙信は立っていた。


 最後まで、立っていた。

 そして、謙信が動いた。

 後退を始めた。

 越後に向かって。

 戦いながら、退いていった。

 半蔵が飛んできた。


「謙信公、越後に向けて撤退しています」

 俺は頷いた。


「追うか」と政宗が聞いた。


「追わない」と俺は言った。


「なぜだ」


「謙信は義の人だ。逃げているのではなく、退いている。その違いを俺は大切にしたい」


 千曲川の戦場が、静かになっていった。


 謙信の「毘」の旗が、北に遠ざかっていく。


 俺はその旗を、黙って見送った。

 夜、俺は全員の顔を見た。


 信玄が疲れた顔で、しかし満足そうに言った。「謙信と正面からぶつかれた。良い戦だった」


 忠勝が無言で槍を立てた。


 幸村が静かに言った。「謙信公は強かった。本当に強かった」


 政宗が「当然だ」と短く言った。


 本願寺の使僧が「南無阿弥陀仏」と静かに唱えた。


 家康が「よく勝てました」と静かに言った。


 昌幸が「見事でした」と穏やかに笑った。


 翌日、越後に向かって進軍した。

 謙信が越後に戻っている。


 しかし、戦力が大きく削れた今、越後の守りは薄い。


 各城が、次々と明智の色に変わっていった。


 謙信の本拠地、春日山城の前に立ったとき、俺は使者を送った。


「明智光秀より、上杉謙信公に伝えてくれ。話し合いたい」


 返事が来た。


「今は話せない。越後を受け取れ。ただし民は傷つけるな」


 俺は文を読んだ。

 越後を受け取れ。

 降伏でも、同盟でも、投降でもない。

 ただ、越後を渡す。

 謙信らしい言葉だった。


 越後攻略完了、越後の春日山城に入った。


 本陣を構えた。

 《GAME》の〔マップ〕を確認した。


【明智軍支配領域 二十ヶ国】


 二十ヶ国。


 遠江から逃げ出した男が、二十ヶ国を持っている。


 信じられない数字だ。

 しかし、謙信は生きている。


 どこかに消えた謙信のマーカーが、《GAME》の〔マップ〕から見えなくなっていた。


 〔不死〕だから死んでいない。

 どこかにいる。

 利三が静かに入ってきた。


「十兵衛様、越後を取りました」


「ああ」


「謙信公は」


「どこかにいる」と俺は言った。「しかし、今は追わない。越後の民を安定させることが先だ」


「越後の民はどう対応しますか」


「いつも通りだ」俺は答えた。「年貢を軽くする。死者を弔う。市を再開する。東北でやってきたことを、越後でもやる」


 越後の本陣で、最初の夜を過ごした。


 春日山城の高台から、越後の夜景を見た。


 山が多い。川が多い。

 この土地を、謙信は守り続けてきた。

 その土地を、今俺が治めている。


「謙信公」と俺は呟いた。「あなたの民を、俺が守ります。約束します」


 半蔵が来た。


「信長公の動向を報告します」


「何か変わったか」


「信長公と秀吉の戦いが、一時停戦に入った可能性があります。信長公が東を向き始めているという情報があります」


 俺は固まった。


「東に来るか」


「可能性があります。しかしまだ確認が取れていません」


「引き続き監視を頼む。最優先で」


 その夜、俺は《GAME》の〔マップ〕を見た。


 二十ヶ国が、静かに光っている。


 謙信のマーカーが、《GAME》の〔マップ〕の端でかすかに光っている。


 信長のマーカーが、畿内で輝いている。

 秀吉のマーカーが、その隣にある。

 まだ終わっていない。

 しかし、確実に、前に進んでいる。

 信玄が入ってきた。


「明智殿」


「何だ」


「越後を取った。次はどこに行く」


「分からない」と俺は正直に答えた。「信長様の動きを見ながら、決める」


「謙信はどうする」


「いつか話したい」俺は静かに言った。「謙信は義の人だ。東北の民のために戦い続けた事実を、いつか伝えたい。それを聞いて、どう判断するかは謙信が決める」


 信玄が少し間を置いた。


「……お主は諦めない男だな」


「諦めたら、終わる」と俺は言った。


 信玄が短く笑った。


「東北の雪、まだ約束は生きているか」


「生きている」俺は答えた。「越後を取ったら、次は東北に帰れるかもしれない。信玄殿に雪を見せられるかもしれない」


「楽しみだ」信玄が静かに言った。


【武田信玄 忠誠100】


 《GAME》の〔データ〕を確認した瞬間、数字が変わっていた。


 99から、100になっていた。

 俺は画面を見つめた。


「信玄殿」と俺は言った。


「何だ」


「ありがとう」


「礼はいい」信玄が短く言った。「東北の雪で返せ」


 越後の夜が更けていく。

 二十ヶ国が静かに光っている。

 信長がいつか東を向く。

 謙信がどこかで生きている。


 しかし、今夜は、越後を取った事実が、俺の胸にある。


 前に進んでいる。

 確実に、前に進んでいる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ