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【完結】GAME.信長を裏切った俺、明智光秀は天下を無視して東北を目指す。  作者: 山田 ソラ


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第三十九章 尾張の空白

 尾張攻略戦が始まった。


 四万九千の兵が、信長の本拠地に向かって動いた。


 最初の激突は、尾張の東端で起きた。


 信長の精鋭部隊が、街道を塞いで待ち構えていた。


 鉄砲の数が多い。陣形が整っている。一人一人の動きが速い。


 織田信長の軍勢は、やはり別格だった。


 最初の斉射で、信玄の前衛が大きく削られた。


「散開しろ」と信玄が即座に命じた。〔風林火山〕が展開した。


 密集を避けて、鉄砲の効果を最小化する。信玄の判断は速かった。


 忠勝が前に出た。


 この男が前に出ると、戦場の空気が変わる。


 鉄砲が集中した。しかし、忠勝は止まらなかった。


 何発当たっても、止まらなかった。

 〔不死〕ではないのに、止まらない。


 この男は本当に人間なのか、と俺は何度目かの疑問を持った。


 忠勝が鉄砲隊に突入した。


 近接戦になれば、鉄砲の優位が消える。

 忠勝の槍が、鉄砲隊を薙いだ。

 幸村が右翼から動いた。


 尾張の地形を事前に半蔵から把握していた。丘の陰を使って、織田の左翼を迂回した。


 織田の陣形が、左右から圧力を受け始めた。


 しかし、崩れない。


 〔第六天魔王〕のスキルが、全軍の士気を維持している。


 押されても、削られても、崩れない。三日間、激戦が続いた。


 俺の兵力が削られていく。四万九千が、四万三千になった。


 四万を切った。三万八千になった。それでも、信長の軍も削れていた。


 互いに削り合う消耗戦だ。


 四日目。

 信玄が動いた。


「明智殿」信玄から伝令が来た。「信長の本陣が、薄い。今が機会だ。全力で突く」


 俺は即座に答えた。


「任せる。やってくれ」

 

 信玄がスキル〔風林火山〕を最大展開した。


 全軍が一斉に前進した。

 忠勝が中央突破を図った。

 幸村が左翼から切り込んだ。

 三人が、同時に動いた。

 信長の陣形が、三方向から圧迫された。

 そして五日目の朝。


 GAMEの〔マップ〕上で、異変が起きた。


 信長のマーカーが、動いていた。

 西に向かっていた。


「半蔵」と俺は呼んだ。


「確認中です」半蔵が消えた。


 一時間後、戻ってきた。


「信長公の本軍が、尾張から撤退しています。西、畿内の方向に向かっています」


 俺は固まった。


「撤退」と俺は繰り返した。


「はい。尾張の守備隊は残っていますが、信長公本人と主力部隊が畿内に向かっています」


「なぜだ」


「秀吉の動きと関係している可能性があります」半蔵が続けた。「畿内で秀吉が攻勢に出たという情報があります。信長公が尾張を捨てて、畿内に戻った可能性があります」


 戦は続いた。


 信長本人はいないが、残った守備隊が抵抗した。


 しかし、主力を失った守備隊では限界がある。


 信玄と忠勝と幸村の三人が、残存部隊を順次制圧していった。


 六日目の夕暮れ。


 尾張攻略完了、GAMEの〔マップ〕上で尾張が明智の色に変わった。


 しかし。


 俺の胸に、複雑な感情があった。

 勝った。

 しかし、信長様はいなかった。


 尾張を取ったが、信長様を倒していない。


 決着が、ついていない。

 信玄が俺のところに来た。


「信長がいなかった」信玄が静かに言った。


「ああ」


「どう思う」


「正直に言う」と俺は言った。「複雑だ。勝ったはずなのに、すっきりしない」


「信長は生きている」信玄が続けた。「畿内で秀吉と戦っている。いずれまた東を向く」


「分かっている」


「しかし、今日は勝った」信玄が俺を見た。「信長の本拠地を取った。それは事実だ」


 忠勝が来た。


「尾張を取った」と忠勝が静かに言った。


「ああ」


「信長はいなかった」


「ああ」


「次は畿内か」と忠勝が聞いた。


「まだ分からない」と俺は答えた。「今は兵力を回復する。消耗が大きすぎる」


 忠勝が頷いた。「正しい判断だ」


 幸村が来た。


「尾張を取った。しかし、終わっていない顔をしているな」と幸村が言った。


「終わっていないからだ」と俺は答えた。


「信長公がいなかったことを悔やんでいるか」


「悔やんでいる」


「悔やむ必要はない」幸村が静かに言った。「信長公が畿内に戻ったということは、秀吉への対応が急ぎだったということだ。それだけ秀吉が信長公を追い詰めている。俺たちに有利な状況だ」


 俺は幸村を見た。


「そういう見方もできるな」


「俺はいつも正しい」と幸村が言った。珍しく、少し得意そうだった。


 尾張に全兵力を移動させた。

 兵力の回復を開始した。

 まず損耗の確認だ。


【明智軍 現在兵力 三万六千】


 四万九千が、三万六千まで削れた。

 一万三千の損耗。

 駿河、信濃、遠江、三河、尾張。

 連続した戦いで、兵が疲れていた。


「回復に専念する」と俺は命じた。


「どのくらいの期間を想定していますか」と家康が聞いた。


「二ヶ月は最低でも必要だ」と俺は答えた。「兵の傷を治し、新しい兵を集め、食糧を確保する」


「尾張は豊かな土地です」家康が静かに言った。「回復は早いかもしれません」


「急がない」と俺は言った。「着実に、確実に」


 家康が頷いた。「それが正解です」


 尾張での最初の夜。

 俺は城の高台から、西の空を見た。


 畿内の方角に、織田信長のマーカーが光っている。


 信長様は、あそこにいる。

 秀吉とも戦っている。


 俺とも、いつか決着をつけなければならない。


 三つ巴の状況が、畿内で続いている。

 半蔵が来た。


「謙信公への文の返事が来ました」


 俺は立ち上がった。


「何と書いてある」


 半蔵が文を差し出した。

 俺は文を開いた。

 謙信の文は短かった。


「義について、考えている。しばらく待て」


 俺は文を見た。


「待て、か」と俺は呟いた。


「動きを止めた可能性があります」と半蔵が静かに言った。「謙信公の南下が、一時停止しています。明智殿の文を読んで、判断を保留しているようです」


「良い方向か」


「今のところは。しかし、謙信公の判断がどう出るか、まだ分かりません」


 俺は文をしまった。


「信じる」と俺は言った。「謙信は義の人だ。東北の民のために戦い続けた事実を、あの人が無視するとは思えない」


「それが明智殿の判断ですか」


「それが俺の信念だ」


 半蔵が無言で頷いた。

 利三が入ってきた。


「十兵衛様、東北からの報告です」


「何があった」


「昌幸殿より。東北五ヶ国、全て安定しています。民の生活は平穏です。謙信公の動きに備えて、守りを固めています」


 俺は息を吐いた。


「昌幸殿らしい報告だ」


「それと」利三が続けた。「東北の民から、明智殿への感謝の声が届いています。何年も戦のない日々が続いて、ありがたいと。そういう声が、各地から届いています」


 俺は静かに目を閉じた。

 戦のない日々。

 東北の民が、平和に生きている。


 京から逃げ出したあの夜、俺が求めていたものだ。


 それが、東北で実現している。

 しかし、まだ、終わっていない。


 信長様がいる限り、東北の平和は脅かされ続ける。


「もう少しだ」と俺は呟いた。


 翌朝、俺は尾張の城下を歩いた。

 この土地は、信長様が育てた土地だ。


 整然とした街道。活気のある市。堅固な城。


 信長様の手が、この土地の隅々まで行き届いている。


 戦のために作られた土地だ。しかし民が生きている。


「信長様」と俺は心の中で言った。「あなたが作ったこの土地を、俺が守ります」


 家康が隣に来た。


「明智殿、次の手を考えていますか」


「考えている」と俺は答えた。「しかし今は回復が先だ」


「畿内に行くつもりですか」


 俺は少し間を置いた。


「信長様と決着をつけなければならない日が来る」と俺は静かに言った。「しかし今は、まだその時ではない。兵を回復して、謙信の動きを確認して、全てが整ってから動く」


「急がないということですか」


「急がない。しかし、止まらない」


 家康が静かに頷いた。「それが明智殿のやり方ですね」


「四年間、それでやってきた」と俺は言った。


 尾張の回復が始まった。


 兵の傷を治し、食糧を確保し、新しい兵を募った。


 尾張の民は、最初は警戒していた。


 信長の配下から明智の支配に変わった。当然だ。


 俺は年貢を軽くした。市を再開した。死者を弔った。


 東北でやってきたことを、そのまま尾張でやった。


 少しずつ、尾張の民の顔が変わっていった。


 一週間後。

 GAMEの〔マップ〕を確認した。


 謙信のマーカーが、越後で止まっていた。


 南下が、止まっている。

 俺は静かに頷いた。


「信じてよかった」と俺は呟いた。


 二週間後。

 兵力が回復し始めた。


【明智軍 現在兵力 四万一千】


 三万六千から、四万一千まで戻ってきた。


 まだ足りない。しかし着実に積み上がっている。


 信玄が俺のところに来た。「明智殿、一つ聞いていいか」


「何だ」


「信長と決着をつけた後、どうするつもりだ」


 俺は少し考えた。


「東北に帰りたいな」と俺は言った。「尾張まで来たが、俺の居場所は東北だ。民が待っている」


「天下は」


「要らない」と俺は即答した。「信長様が畿内にいて、秀吉が動いている。天下は混乱したままだ。しかしそれは俺の仕事ではない。俺の仕事は東北を守ることだ」


 信玄が俺を見た。


「…東北の雪、本当に見せてくれるか」


「約束した」と俺は言った。「守る」


 信玄が短く笑った。


【武田信玄 忠誠99】


 99になっていた。

 100ではない。しかし99だ。


 この男が最後の一つを渡さないのは、きっと信長との決着がついていないからだ。


 俺はそう感じた。

 夜、俺は一人で尾張の夜空を見た。

 西に、畿内の光が遠く見える。

 信長様は、あそこにいる。

 秀吉もいる。


 この戦国の世の、最後の嵐が、畿内で渦巻いている。


 俺はその嵐に、いつか向かわなければならない。


 しかし、今夜は尾張の静けさを感じていた。


 民の声が聞こえる。

 篝火が揺れている。

 これを守るために、前に進む。


 GAMEの〔マップ〕の織田信長のマーカーが、畿内で静かに輝いていた。

 



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