第三十七章 遠江と三河、そして尾張へ
駿河と信濃を制してから、十日が過ぎた。
俺は駿河の城で地図を広げながら、次の手を考えていた。
信長は尾張と美濃に戻っている。
【織田信長〔第六天魔王〕】マーカーが、西で輝いている。
次の攻撃が来るのは時間の問題だ。
ならば待つより、先に動く。
GAMEの〔マップ〕を確認した。
駿河の西に、遠江がある。
【遠江 織田の支配下 兵力八千】
遠江。
俺が京から逃げ最初に到着した土地だ。
本能寺の翌朝、家臣と家族を連れて逃げ出した、あの遠江だ。
あの土地が、今は織田の色に染まっている。
不思議な気持ちがした。
逃げ出した土地に、今度は攻め込む。
遠江の隣、三河も確認した。
【三河 織田の支配下 兵力一万五千】
三河。
かつて家康がいた土地だ。
家康から忠勝と半蔵を手に入れた、俺の最初の戦いの地だ。
この二ヶ国を取れば、尾張への道が開ける。
信長の本拠地、尾張への道が。
軍議を開いた。
「次は遠江と三河を取る」と俺は言った。
「二正面か」と家康が静かに言った。
「そうだ。しかし今回は順番をつける。まず遠江を素早く落とす。次に三河を取る。並行ではなく、順番に」
「遠江の兵力は八千。こちらが圧倒的に上回っています」家康が続けた。「しかし三河の一万五千は手強い。信長の精鋭が入っています」
「だから三河には最大戦力を投入する」俺は続けた。「遠江には忠勝と幸村。三河には信玄、忠勝、幸村の三人を投入する」
信玄が静かに言った。「三河に三人か。それほど手強いか」
「信長の精鋭だ。手を抜けない」
「信濃の守りはどうする」と昌幸が聞いた。
「政宗に任せたい」
政宗が静かに頷いた。「信濃は俺が守る。信長が信濃から来るなら、俺が最初に当たる」
「頼む、政宗」俺は言った。「信濃を守り切ってくれれば、東北への道が繋がる」
「任せろ」政宗が静かに言った。「伊達者が信長公に遅れを取るか」
幸村が静かに言った。
「遠江は明智殿にとって、特別な土地だ」
「ああ」と俺は答えた。
「やはり感慨はあるか」
「ある」と俺は正直に言った。「あそこから東北に逃げた。今度は攻め込む。感慨がないはずがない」
「終わったら、一度ゆっくり見て回ればいい」と幸村が言った。
「そうだな」俺は静かに笑った。「逃げた時には見られなかったものを、今度は見たい」
遠江攻略戦、忠勝と幸村が二万の兵を率いて遠江に向かった。
遠江への道は、駿河から西に向かう。
俺はマップで二人の進軍を確認した。
三日で遠江の国境に達した。
遠江の守備隊八千が迎撃に出てきた。
しかし、勝負にならなかった。
忠勝が中央を突破した。
幸村が側面を制圧した。
二日で、遠江の主要城が全て落ちた。
【遠江攻略完了 明智軍完全制圧】
完勝だった。
半蔵の報告が来た。
「忠勝殿と幸村殿、遠江を制圧しました。二人とも無事。損耗は軽微です」
俺は頷いた。
「この二人に遠江を任せれば、間違いなかった」と利三が静かに言った。
「ああ」
遠江制圧から二日後、忠勝と幸村が三河に向かった。
今度は信玄も合流する。
三万の軍勢が、三河の国境に向かった。
三河攻略戦
三河の戦いは、最初から違う重さがあった。
信長の精鋭部隊が、三河の各城に配置されている。鉄砲の数が多い。練度が高い。守りが固い。
最初の攻撃で、忠勝の前衛部隊が鉄砲の集中射撃を受けた。
「また鉄砲か」と俺は歯を食いしばった。
信長の軍の強さは、鉄砲の運用にある。
〔第六天魔王〕スキルが軍全体に染み渡っている。個々の兵の動きが、普通の軍とは別次元だ。
信玄が動いた。〔風林火山〕を展開した。「疾きこと風の如く、静かなること林の如く」
信玄の指揮が、三万の動きを変えた。
鉄砲への対応を地形で無効化した。丘の陰、川の流れ、木立の中。信玄は甲斐で培った地形の読み方を三河で応用した。
鉄砲の射程外から、じわじわと締め付けていく。
しかし、三日目に、信長の援軍が来た。
尾張から一万の援軍が三河に入ってきた。
GAMEの〔マップ〕上で敵の兵力が膨らんだ。
「まずい」と俺は呟いた。
即座に伝令を飛ばした。
「三人に急報。尾張から援軍が来た。一万増えた。対応を頼む」
信玄から返事が来た。「把握している。補給路を断つ。問題ない」
忠勝から返事が来た。「任せろ」
幸村から返事が来た。「援軍ごと包んでやる」
信玄が補給路を断った。
三河の守備隊と援軍部隊の間の兵站が切れた。
食糧と武具の補充ができなくなった。
じわじわと、敵の兵力が削れていく。
しかし、五日目、六日目になっても、三河の守備隊は崩れなかった。
信長の兵の意志の強さが、普通ではない。〔第六天魔王〕の心理的圧迫が、逆に味方の士気を最大まで引き上げている。
七日目の朝。
忠勝が動いた。
補給が断たれて弱り始めた守備隊の正面に、忠勝が単独で突撃した。
この男の戦い方は、いつも同じだ。
一番危険な場所に、一番最初に飛び込む。
忠勝の突進が、守備隊の中央を割った。
幸村が左翼から切り込んだ。
信玄が全軍に前進を命じた。
〔風林火山〕が最大展開した。
激しかった。
信長の精鋭は最後まで崩れなかった。
しかし、じわじわと、確実に追い詰められていった。
補給が断たれ、包囲が縮まり、逃げ場がなくなった。
八日目の朝、三河の守備隊が降伏した。
三河攻略完了
半蔵から報告が来た。 「三人とも、無事です。しかし消耗が大きい」
「どのくらいだ」
「三万が二万三千まで減っています」
七千の損耗。
ギリギリの勝利だった。
俺は大きく息を吐いた。
三河に全兵力を集める命令を出した。
武蔵、駿河、相模、常陸、磐城の守備隊から動かせる兵を全て三河に向けた。
東北の守りは昌幸と佐竹義重に任せた。
信濃の守りは政宗に任せた。
「政宗」と俺は伝令を送った。「信濃は任せた。信長が信濃から来たら、最初に当たってくれ。しかし無理はするな。時間を稼いでくれれば十分だ」
政宗から返事が来た。「分かった。しかし無理はしない、は俺には難しい。精一杯やる」
この男らしい返事だ。
三河に兵が集まった。
各地から集めた兵力を確認した。
【三河集結 総兵力 四万九千】
五万近い。
遠江と三河攻略で消耗したが、各地から補充した分で補えた。
この兵力を持って、尾張に向かう。
全員が三河に揃った。
信玄、忠勝、幸村、家康、利三、半蔵、安東愛季、佐竹義重、今川義元。
俺は全員の顔を見回した。
「尾張を目指す」と俺は言った。「信長様の本拠地だ。ここを攻めれば、信長様が動く。最終決戦になる可能性がある」
誰も動じなかった。
全員が、覚悟を決めた顔をしていた。
「一つだけ言っておく」と俺は続けた。「信長様を倒すことが目的ではない。東北の民を守ることが目的だ。信長様が和睦を求めるなら、俺は受け入れる。しかし『死ね』の返事しかしない信長様には、力で示すしかない」
家康が静かに言った。「信長公が和睦を求める可能性は」
「分からない」と俺は正直に答えた。「しかし、可能性はゼロではない。信長様は合理的な人だ。勝てないと判断すれば、別の選択をするかもしれない」
信玄が俺の隣に来た。
「明智殿」
「何だ」
「尾張への道、儂が先頭を行く」と信玄が言った。
「危険だ」
「儂は〔不死〕だ。先頭でも死なない」信玄が静かに笑った。「それに、信長と戦うなら儂が最も適している。信長の戦い方を今回学んだ。次は対応できる」
「頼む、信玄殿」と俺は言った。
「任せろ」信玄が短く言った。「明智殿が作った東北を、儂も守りたい。行ってみれば良かった、東北の雪を」
俺は信玄を見た。
里見義堯の言葉が蘇った。「東北の雪を見たかった」
「戦が終わったら、一緒に行こう」と俺は言った。
信玄が少し驚いた顔をした。
「……本当か」
「本当だ。約束する」
信玄が短く笑った。忠誠値98の男が、初めて子供のような顔をした。
出発の前夜。
俺は一人で三河の夜空を見た。
ここは、俺の旅の最初の戦いの地だ。
家康から忠勝と半蔵を手に入れた土地。
あのときから、長い道のりだった。
京から逃げて、東北まで走り、今度は西に向かっている。
「逃げてきた男が、信長様の本拠地を攻める」と俺は呟いた。
笑えるような、泣けるような話だ。
GAMEの〔マップ〕を確認した。
尾張に、〔第六天魔王〕マーカーが光っている。
信長様は待っている。
俺たちが来ることを、分かっているはずだ。
翌朝、四万九千の兵が三河を出発した。
西に向かって。
尾張に向かって。
信長に向かって。
俺は馬上から、進軍する兵たちを見た。
東北の民が、待っている。
仲間たちが、隣にいる。
それだけで、前に進める。
尾張が、目の前に見えてきた。




