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【完結】GAME.信長を裏切った俺、明智光秀は天下を無視して東北を目指す。  作者: 山田 ソラ


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第二十八章 今川義元との駆け引き

 一五六一年、十月。


 信長の復活という衝撃から、一週間が過ぎた。俺は毎朝、GAMEの〔マップ〕を開いて、畿内の〔第六天魔王〕マーカーを確認することが習慣になっていた。今日も光っている。今日も西を向いている。秀吉との戦いが続いているらしい。


 東に来るのは、まだ先だ。


 しかし、その「まだ先」がいつ終わるか、誰にも分からない。俺にできることは一つだ。その日までに、できる限り強くなっておく。内政の立て直しを、本格的に加速させた。


 武蔵と甲斐の二ヶ国に加えて、東北五ヶ国、磐城、常陸、下野、下総、武蔵、甲斐。合わせて十一ヶ国だ。


 この規模の内政を回すには、人手が要る。家康が中心になって、各国の奉行を整備した。一国ごとに担当者を置き、報告を集約する仕組みを作った。前世の言葉で言えば、組織化だ。


「家康、よくこれだけの仕組みを作れる」と俺は感心して言った。


「三河で長年やってきたことの応用です」と家康が静かに答えた。「規模が大きくなっただけで、やることは同じです」


 利三がその仕組みを補佐して、書類の流れを整えた。


 政宗が武蔵の豪族をまとめ上げた。信玄が甲斐の民心を安定させた。安東愛季が海路で各国の物資を繋いだ。


 全員が動いている。


 兵力の積み上げも続けた。焦らない。無理をしない。しかし確実に増やす。一ヶ月で二千ずつ増やすペースを維持した。二ヶ月後には六万を超える計算だ。


 六万。


 信長の四万を数の上では上回る。しかし数が上回れば勝てるほど、信長は甘い相手ではない。〔第六天魔王〕のスキルは、兵力差を超えてくる可能性がある。


 だから量だけでなく、質も上げる必要がある。幸村が毎日、各地の精鋭部隊の訓練を指導した。信玄が武田流の兵法を伝授し始めた。忠勝が武蔵の新兵たちに手本を見せ続けた。


 そんな日々の中で、半蔵が来た。いつも通り、気配もなく現れた。


「報告があります」


「聞かせてくれ」


「今川義元の動向です」半蔵が静かに続けた。「甲斐への関心を強めています」


 俺は手を止めた。


「具体的には」


「今川の間者が甲斐に入っています。城の守備状況、兵力の配置、民の動向。全て調べられています」半蔵が続けた。「義元公は甲斐を狙っている可能性があります」


「理由は何だと思う」


「二つ考えられます」半蔵が指を立てた。「一つは、甲斐が武田から明智に移ったことへの不満。三国同盟の一角だった武田が明智に従ったことを、義元公は面白く思っていない」


「もう一つは」


「信長公の復活です。〔第六天魔王〕が畿内にいる。今川は駿河で信長と接する位置にある。緩衝地帯として甲斐を欲しがっている可能性があります」


 俺は地図を広げた。駿河の今川。甲斐の明智。尾張の信長。この三者の位置関係を確認した。駿河は、甲斐と尾張の間に位置している。


 信長が東に来れば、駿河を通過するか、甲斐を通過するかの二択になる。


 今川義元が甲斐を取れば、信長への防衛線を甲斐に作れる。


 俺が甲斐を持っていれば、信長への防衛線を甲斐に作れる。


 どちらも同じ発想だ。


「今川と俺は、同じものを狙っている」と俺は呟いた。


 しかし、向いている方向が、少し違う。


 今川は甲斐を取りたい。俺は駿河を緩衝地帯にしたい。この差を埋められれば、交渉の余地がある。


「信玄」と俺は呼んだ。


 信玄が来た。


「今川が甲斐を狙っている」と俺は言った。


 信玄が静かに頷いた。「半蔵殿から聞いた。間者の動きは俺も気づいていた」


「なぜ言わなかった」


「様子を見ていた」信玄が静かに言った。


「義元公の考えが読めなかった。しかし今、明智殿と話したかった」


「今川とどう付き合うべきだと思う」


 信玄が少し間を置いた。「義元公は〔海道一の弓取り〕だ。プライドが高い。しかし合理的な判断もできる。利害が一致すれば、話し合いに応じる」


「利害が一致する部分は何だと思う」


「信長だ」信玄が即座に答えた。「義元公も信長を警戒している。信長に桶狭間で討たれた記憶が、この時代でも消えていない。〔不死〕で蘇った義元公が、最も恐れているのは信長の再来だ」


 俺は頷いた。


「今川と同盟を結びたい」と俺は言った。「駿河を信長への緩衝地帯として機能させる。そのために今川と手を組む」


 家康を呼んだ。


「今川との同盟を探りたい」と俺は言った。「前回の不戦の約束を、正式な同盟に格上げしたい」


 家康が静かに考えた。


「難しいです」と家康が正直に言った。「義元公は誇り高い。明智殿に下ることを、良しとしない可能性があります」


「対等な同盟でいい。上下関係は求めない」


「それでも、義元公の格式が邪魔をします」家康が続けた。「〔海道一の弓取り〕は単なる自称ではない。公家とも繋がり、朝廷からの権威を持っている。明智殿は謀反人として知られている。その立場差が、交渉を難しくします」


 俺は少し考えた。


「家康、お前に交渉に行ってほしい」


 家康が俺を見た。


「俺が行けば謀反人が来たと受け取られる。しかしお前は今川の元家臣だ。義元公とも面識がある。お前が行けば、話の入り口が違う」


「私が今川に行く、ということですか」家康が少し間を置いた。「義元公は私が明智殿に仕えていることを、裏切りと見ているかもしれません」


「その可能性は分かっている。しかし他に適任がいない」


 家康が目を閉じた。しばらくして目を開けた。


「分かりました。行きます」家康が静かに言った。「ただし条件を一つ」


「何だ」


「交渉の内容と条件は、私に一任してください。義元公の性格上、細かく指示されると上手くいきません」


「任せる」と俺は即答した。「全部任せる」


 出発の前夜、家康が俺のところに来た。


「十兵衛様」


「何だ」


「今川との同盟が成立しても、信長公は止まりません」家康が静かに言った。「緩衝地帯ができても、信長公は迂回してくる可能性があります」


「分かっている」


「それでも同盟を結ぶ価値があると思いますか」


 俺は少し考えた。


「今川が中立でいてくれるだけでいい」と俺は言った。「同盟が成立すれば、信長が東に来たとき、今川が背後を突いてくれるかもしれない。少なくとも、今川が信長の味方にならなければ、それだけで価値がある」


「可能性としては」家康が問う。


「今川が信長と手を組む可能性がある。桶狭間の恨みがあるにしても、信長の圧力に屈することはあり得る」


「その可能性を承知で」


「承知で、それでも試みる」と俺は言った。「動かなければ何も変わらない」


 家康が静かに頷いた。「分かりました」


 翌朝、家康が少数の供を連れて、駿河に向かって出発した。


 出発の朝、信玄が家康に近づいて静かに言った。


「義元公によろしく伝えてくれ。信玄はまだ生きている、と」


 家康が少し驚いた顔をした。そして静かに頷いた。


「伝えます」


 信玄が続けた。「それと、一つだけ義元公に伝えてほしいことがある」


「何ですか」


「信長が来れば、駿河も無事ではない。明智殿と手を組む方が、義元公の国のためになる。儂がそう言っていたと、伝えてくれ」


 家康が深く頷いた。


「必ず伝えます」


 家康が去った後、俺は武蔵の城で内政と兵力増強を続けた。動きながら、待つ。この感覚が、少しずつ身についてきていた。


 信玄が俺の隣で地図を見ていた。


「明智殿」と信玄が言った。


「何だ」


「本当に天下を要らないのか」


「要らない」


「なぜだ」


 俺は少し間を置いた。


「天下を取っても、守れる自信がない」と俺は正直に言った。「俺には信長様のような天才性がない。秀吉のような処世術もない。ただ、仲間と一緒に生き残ることなら、できるかもしれないと思っている」


 信玄が長い間、俺を見た。


「……正直な男だ」と信玄が静かに言った。「儂が長年求めていた家臣の言葉ではなく、対等な人間の言葉だ」


「信玄殿に対等と言われると、照れる」


 信玄が短く笑った。


 五日後、家康から伝令が来た。短い文だった。


「義元公と会えた。話し合い中。時間がかかる。待て」


 家康らしい、簡潔な報告だ。俺は頷いた。「待つ」と俺は呟いた。


 GAME〔マップ〕を確認した。畿内の信長マーカーが、今日も西を向いている。


 秀吉との戦いが続いているらしい。時間がある。しかし、その時間は無限ではない。

 

 十日後、家康が戻ってきた。顔色が、いつもより少し疲れていた。しかし目に光がある。


「どうだった」と俺は聞いた。


 家康が座った。


「義元公は、信玄公の言葉を聞いて、少し表情が変わりました」


「信玄の言葉が効いたか」


「はい。信玄公が明智殿に忠誠を誓っているという事実が、義元公に刺さったようです。武田と今川は長年の盟友でした。その武田が認めた主君なら、と」


「結果は」


 家康が少し間を置いた。


「正式な同盟ではありません」家康が静かに言った。「しかし不戦の約束を、より強固なものにすることで合意しました。信長が東に来た場合、今川は明智に情報を提供する。その約束を取り付けました」


 俺は頷いた。


「十分だ」と俺は言った。


「義元公は一つ条件を出しました」


「何だ」


「甲斐には手を出さない。その代わり、駿河にも明智は手を出さない」


「約束する」と俺は即答した。


 家康が深く息を吐いた。


「疲れました」と家康が珍しく正直に言った。


「ありがとう、家康」と俺は言った。「本当に助かった」


 その夜、全員に報告した。


 今川との間に、より強固な不戦の約束が成立した。


 信長が東に来た場合、今川からの情報提供がある。


 駿河が実質的な緩衝地帯になった。


 信玄が静かに言った。「義元公らしい判断だ。完全な同盟ではないが、実質的には手を組んでいる」


「そうだ」と俺は言った。「今川は今川のやり方で動く。それでいい」


 昌幸が穏やかに笑った。「信長公が東に来るまでに、できることが増えましたな」


「まだ足りない」と俺は言った。「もっと強くなる。もっと整える。信長様が東を向いたとき、受け止められるように」


 夜、俺は一人でGAMEの〔マップ〕を見た。


【上杉謙信〔同盟中〕】

【北条氏政〔同盟中〕】

【今川義元〔不戦協定〕】


 三方向の安全が、少しずつ形になっていた。しかし、畿内の〔第六天魔王〕マーカーは、今日も赤く光っている。


 いつか、あの男と向き合う日が来る。


 俺は深呼吸をした。その日まで、積み上げ続ける。東北の星が、遠い北の空で静かに輝いていた。




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