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【完結】GAME.信長を裏切った俺、明智光秀は天下を無視して東北を目指す。  作者: 山田 ソラ


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第二十六章 今川の影と、束の間の平和

 甲斐を制してから三日後。


 俺はGAME〔マップ〕を開いて、新しい国境線を確認した。武蔵、甲斐。二つの国が明智の色に染まっている。


 しかし、その西と南に、一つのマーカーが赤く光っていた。


【今川義元〔不死〕駿河 兵力三万】


 俺は画面を見つめたまま、固まった。


 今川義元。桶狭間で織田信長に討たれた男。前世の歴史では、永禄三年に死んでいるはずの男。しかしこの狂った時代では、〔不死〕を纏って駿河で生きている。


 しかも、三万。


 武田信玄が二万八千だった。それと同等の兵力を持つ〔不死〕が、甲斐の隣にいる。


 俺は目を閉じた。


「また笑えない相手が隣にいる」


 GAMEのパラメータを恐る恐る確認した。


【今川義元〔不死〕〔海道一の弓取り〕

武力92 統率100 知略93 格式100】


 〔海道一の弓取り〕という固有スキル。内容を確認した。〔海道一の弓取り〕周辺の武将への影響力が絶大。外交において相手を圧倒する。公家文化と武家の権威を兼ね備え、民からの支持が自然に集まる〕


 格式が100。


 この男の存在感は、単純な兵力を超えている。周囲の武将への影響力。民からの支持。


 今川義元が駿河にいるだけで、甲斐の民が揺れる可能性がある。武田が長年今川と関係を持っていたことは、前世の知識で知っている。


「信玄」と俺は呼んだ。武田信玄が来た。

俺は地図を見せた。


「今川義元が駿河にいる。知っていたか」


 信玄が静かに言った。「知っていた」


「なぜ言わなかった」


「聞かれなかった」


 俺は少し呆れた。この男は正直すぎる。


「今川とはどういう関係だ」


「長年、甲相駿三国同盟を結んでいた」と信玄が静かに答えた。「武田、北条、今川の三国で均衡を保っていた。しかしこの時代は狂っている。義元公が〔不死〕で蘇り、儂も〔不死〕になった。三国同盟の意味が変わってしまった」


「今川は今の甲斐をどう見ている」


「おそらく」信玄が少し間を置いた。「面白くないと思っている。甲斐が明智殿の下に入ったことを、義元公は快く思わないだろう」


 家康が静かに加わってきた。


「今川義元は、三河と関係が深い」と家康が言った。


「お前の古い主君か」


「そうです」家康が少し複雑な顔をした。「今川の人質として育ちました。義元公には、様々な思いがあります」


「今の今川は、動くと思うか」


 家康が少し考えた。「今すぐは動かないと思います。義元公は慎重な方です。相手の出方を見てから動く。しかし明智殿が駿河に近づけば、必ず反応します」


「近づくつもりはない」と俺は言った。「今は駿河に手を出す余裕はない。三万と戦う準備が、まだ整っていない」


 信玄が静かに言った。「明智殿、一つ提案がある」


「何だ」


「今川義元に使者を送ってはどうか。敵対する意思がないことを伝える」


「同盟を求めるか」


「同盟まではいかなくとも、不戦の約束だけでも結べれば、甲斐と武蔵が安定する」


 俺は考えた。


【今川義元〔海道一の弓取り〕格式100】


 この男への使者は、慎重に選ばなければならない。下手な文を送れば、格式を笠に着た返事が来て、話がこじれる。


「文を誰が書くか」と俺は呟いた。


「私が書きます」と家康が静かに言った。


「義元公には、私から伝えた方が伝わりやすい部分があります」


「頼む」と俺は言った。


 方針が決まった。今川への使者を送りながら、武蔵と甲斐で内政と兵力の回復に専念する。駿河には近づかない。秀吉への備えを優先する。それが今、俺たちにできる最善だ。回復の日々が始まった。


 武蔵と甲斐、二ヶ国の内政は荒れていた。武蔵は武田の侵攻で田畑が荒れ、民が逃げていた。甲斐は長年の武田の支配から明智に変わったことで、民心が定まっていない。


 どちらも、一からやり直しに近い。俺は利三と家康を中心に、内政の立て直しを始めた。年貢の見直し。田畑の整備。街道の修繕。市の再開。東北でやってきたことを、そのまま関東でもやる。


 信玄が意外な形で役に立った。甲斐の民は信玄を信奉している。その信玄が明智に従っているという事実が、甲斐の民の心を動かした。信玄が村々を回って「明智殿は信用できる」と言って回った。


「信玄殿、ありがとうございます」と俺は礼を言った。


「主君のためにやることは当然だ」と信玄が答えた。


 忠誠98の意味を、こういう場面で感じた。


 武蔵では政宗が動いた。陸前と磐城で培った統治の経験を、武蔵で活かした。城下町の整備、豪族への対応、防衛網の構築。政宗の仕事は速い。一週間で、武蔵の各城が落ち着いた雰囲気になってきた。


「政宗、早いな」と俺は言った。


「伊達者と言われた伊達だ」と政宗が静かに言った。


 褒め言葉なのか自賛なのか分からなかったが、結果が出ているので文句はない。


 兵力の回復も、着実に進んでいた。武蔵と甲斐の両方で、兵を募った。東北でやってきた方法と同じだ。農作業の合間に訓練し、無理のない範囲で増強する。


 武田の旧兵が多く集まってきた。信玄の名前が効いていた。信玄が明智に従っているなら、と集まってくる。


「これは助かる」と俺は呟いた。


 利三が「忠誠98の効果ですな」と言った。最近、利三も忠誠値という概念を普通に使うようになっている。


 一週間後、家康が今川への文を書き終えた。俺に見せてくれた。家康の文は、丁寧で格式があり、しかし要点が明確だった。


「明智光秀は駿河に敵対する意思がない。武蔵と甲斐の安定を求めているだけだ。今川とは平和的な関係を望む」


 俺は読んで頷いた。「完璧だ」


「義元公は格式を重んじる方です」と家康が言った。「この文の書き方と礼儀を見れば、無礼とは受け取らないはずです」


 使者を今川に送った。使者が出発した翌日、半蔵が来た。


「秀吉の動向を報告します」


 俺は身を固くした。


「東海道を越えて、関東に向けて動き始めています。速度は遅いですが、確実に東に来ています」


「どのくらいの兵力だ」


「現時点で確認できているのは五万。しかし後続がいます。最終的に七万から八万になる可能性があります」


 広間が静まり返った。七万から八万。俺の現在の総兵力は、東北と関東を合わせて四万五千だ。


 正面からぶつかれば、勝てない。


 信玄が静かに言った。「秀吉か。ついに来るか」


「来ます」と家康が静かに答えた。「秀吉は天下統一を目指している。東北と関東に明智殿が勢力を持っていることを、放置するはずがない」


「どのくらい時間がある」と俺は聞いた。


「関東に入るまで、早くて三ヶ月。遅くて半年」と家康が答えた。


 三ヶ月から半年。回復に専念できる時間が、そこまでしかない。


「急ぐ」と俺は言った。「内政も兵力も、全力で急ぐ。ただし無理はしない」


 昌幸が静かに笑った。「急ぐが無理はしない。難しいことを仰いますな」


「矛盾しているのは分かっている」と俺も苦笑いした。「でもそれしかない」


 その夜、今川への使者が戻ってきた。返事を持ってきた。家康が文を読んだ。そして、静かに俺に渡した。俺は読んだ。


 今川義元の文は、格式ばった言葉で書かれていた。しかし内容は明確だった。


「駿河に手を出さぬ限り、動かぬ。ただし動けば許さぬ」


 脅しと不戦の約束が、同時に書いてある。


「今川らしい返事だ」と信玄が静かに言った。


「不戦の約束は取れた」と家康が言った。


「今は十分です」


 俺は頷いた。駿河には近づかない。その約束さえ守れば、今川は動かない。


 回復の日々が続いた。


 武蔵の田畑が整い始めた。甲斐の民が明智の年貢の軽さに驚き始めた。市が再開され、人の声が戻ってきた。


 信玄が俺のところに来た夜があった。


「明智殿」


「何だ、信玄殿」


「儂は長年、戦い続けた」信玄が静かに言った。「天下を目指して、戦い続けた。しかしこういう時間を、儂は作れなかった」


「こういう時間とは」


「民が笑っている時間だ」信玄が外を見た。「甲斐の民が、儂の時代より笑っている。それが、少し悔しい」


 俺は信玄を見た。


「悔しいか」


「悔しいが、良いことだとも思っている」信玄が俺を見た。「矛盾しているな」


「矛盾していない」と俺は言った。「両方、本当のことだ」


 信玄が短く笑った。

 

 二週間が過ぎた。GAMEの数値を確認した。兵力が少しずつ回復している。内政の数値が上がっている。


 しかし、秀吉のマーカーが、また少し東に動いていた。三ヶ月という時間が、少しずつ縮まっていく。俺は机に向かった。


 秀吉が来たときの防衛計画を、書き始めた。七万から八万に対して、四万五千。正面からは戦えない。謙信の同盟。北条の同盟。信玄の力。


 全部を組み合わせて、秀吉を受け止める方法を考える。


 窓の外で、甲斐の秋が深まっていた。民の笑い声が、遠くから聞こえた。この声を守るために、俺は戦い続ける。




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