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【完結】GAME.信長を裏切った俺、明智光秀は天下を無視して東北を目指す。  作者: 山田 ソラ


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第二十五章 甲斐決戦

 武蔵を制してから五日が過ぎた。


 城の修繕と兵の手当てが続いている。消耗は大きかった。九千まで削れた兵力を補充しながら、俺はGAMEの〔マップ〕を眺め続けた。


 武田信玄のマーカーが甲斐で光っている。


【武田信玄〔不死〕〔風林火山〕甲斐 兵力二万八千】


 武蔵から撤退した分、少し減っている。しかし、まだ二万八千だ。


 そしてこのマーカーを見るたびに、俺の背筋に冷たいものが走った。


 ビビっていた。正直に言う。武田信玄が、怖かった。武蔵の戦いで、俺は武田の強さを改めて思い知った。


 山県昌景一人に、九千の兵が三時間押さえ込まれた。あれは武田の将の一人だ。信玄本人が前線に出ていたら、どうなっていたか。


 上杉謙信と北条氏政という二つの同盟がなければ、間違いなく負けていた。


 しかし、同時に、気づいていた。武田信玄が甲斐にいる限り、俺の東北は安全ではない。


 武田信玄は、何度でも立て直してくる。武蔵を取られても、甲斐に戻って再起する。また関東に来る。また幸村の下野を脅かす。


 この繰り返しが、永遠に続く。ある夜、俺は地図を広げながら考えた。怖い。信玄は怖い。しかし、怖いから攻めない、という選択肢は存在しない。


 怖いから、先に潰す。それしかない。


「甲斐を攻める」と俺は呟いた。


 誰もいない部屋で、一人で決めた。


 翌朝、軍議を開いた。


「甲斐の武田信玄を攻める」と俺は言った。


 広間が静まり返った。いつもの沈黙とは少し違う。驚きと、緊張と、そして覚悟が混ざった沈黙だ。


「武蔵で勝てた」と俺は続けた。「しかし信玄を甲斐に残している限り、また来る。〔不死〕の男は死なない。何度でも立て直す。だから今、甲斐まで攻め込んで、決着をつける」


「兵力は」と利三が静かに聞いた。


「武蔵で補充した分を含めて、一万二千動かせる。下野の幸村は動かさない。磐城の忠勝も残す。今回は別の二人に頼む」


 全員が俺を見た。


「家康と政宗に任せたい」


 徳川家康と伊達政宗が、同時に俺を見た。


「二人に甲斐での戦を頼む」と俺は言った。「一万二千を二人に預ける。俺は武蔵で後方支援と補給を担う」


 家康が静かに聞いた。「私と政宗殿が前線を担う、ということですか」


「そうだ。家康は知略と統率がある。政宗は戦場での判断が速い。この二人が組めば、武田信玄に対抗できる」


 政宗が少し目を細めた。「信玄公は本物だ。強い」


「分かっている。だから二人を選んだ」


 家康が静かに目を閉じた。考えている顔だ。しばらくして目を開けた。「分かりました。やります」


 政宗が短く言った。「任せろ」


 昌幸が静かに言った。「甲斐は山に囲まれた盆地です。武田の得意な地形です。信玄公は甲斐の地形を知り尽くしている」


「だから家康の知略が必要だ」と俺は言った。「地形を逆手に取る方法を、家康なら考えられる」


「補給は」


「安東愛季の海路と、東北からの陸路を組み合わせる。甲斐は海から遠いが、武蔵を経由すれば補給路を作れる」


 利三が頷いた。「補給は私が担います」


 半蔵が無言で頷いた。情報収集の継続という意思表示だ。


 出発の前日、家康が俺のところに来た。


「十兵衛様、一つ確認したいことがあります」


「何だ」


「武田信玄を倒した後、どうするつもりですか」


 俺は少し考えた。


「倒す、というよりは降伏させたい。信玄を仲間にできれば、こちらの戦力が格段に上がる」


 家康が少し目を細めた。「〔不死〕の武将を仲間にする、ということですか」


「そうだ。伊達政宗も最初は敵だった。今は忠誠値が100だ。信玄も同じように仲間にできれば、秀吉への備えが全く変わる」


「信玄公が仲間になるとは限りません」


「可能性はある。あの人は甲斐では義の人だ。謙信と友敵関係にあった男だ。誠意が通じれば、必ず応じてくれると思っている」


 家康がしばらく黙った。そして静かに言った。「……分かりました。倒した後、交渉する機会を作ります」


 翌朝、家康と政宗が一万二千を率いて西に向かった。


 出発の朝、政宗が俺に短く言った。


「信玄公を連れて戻る」


「頼む」と俺は言った。


 家康が馬上から俺を見た。「武蔵で待っていてください」


「ああ」


 一万二千の兵が、甲斐に向けて動き始めた。俺は武蔵で待った。待つのは辛い。しかし、政宗に「五月蝿い」と怒られた経験が生きていた。任せた以上、信じる。余計な伝令は飛ばさない。


 半蔵の報告だけを待った。三日後、最初の報告が来た。


「家康殿と政宗殿、甲斐の入り口で武田の前衛部隊と交戦。撃破して前進中」


 俺は頷いた。


 四日後、二度目の報告。


「甲斐盆地に入りました。武田信玄、自ら前線に出てきたとのことです」


 俺はGAMEの〔マップ〕を確認した。


【武田信玄〔不死〕〔風林火山〕前線に出撃】


 来た。信玄本人が出てきた。


 五日目、六日目。


 報告が来なかった。俺は武蔵の城でGAMEの〔マップ〕を扇子を握りしめながら見つ続けた。


 報告がないということは、戦が続いているということだ。


 七日目の朝、ようやく半蔵が来た。


「激戦が続いています。家康殿と政宗殿、武田信玄と直接対峙しています」


「二人は無事か」


「今のところ、無事です。しかし消耗が大きい」


「補給を急げ。武蔵から追加の物資を送る」


「既に動いています」


 甲斐での戦いは、想像以上に長かった。

家康の知略と政宗の判断力が噛み合って、武田の陣を少しずつ削っていく。しかし武田信玄〔不死〕は何度押されても立て直してくる。


 〔不死〕の意味を、俺は改めて思い知った。倒せない。削れない。弱らない。


 それでも家康と政宗は止まらなかった。

家康が地形を読んで補給路を断ち、信玄の兵糧を削り始めた。兵力では負けていても、消耗戦に持ち込めれば別の話だ。


 政宗が素早い機動で武田の側面を突き続けた。一点に集中させない。常に複数の方向から圧力をかける。信玄が一方を立て直すと、別の方向から崩す。


 この二人の組み合わせは、俺の予想を上回っていた。


 十日目の朝、半蔵が飛んできた。


「武田信玄から、使者が来ました」


 俺は立ち上がった。


「何と言っている」


「直接、明智殿と話したいと」


 俺は甲斐に向かった。武蔵から甲斐まで、半日の行程だ。家康と政宗の陣に着いたとき、二人とも満身創痍だった。


「よく戦ってくれた」と俺は言った。


 家康が疲れた顔で「何とかなりました」と言った。


 政宗が血のついた甲冑のまま「連れてきたぞ」と言った。


 武田信玄が来た。初めて、目の前で見た。老いた顔だ。しかし目が、違う。この時代で誰よりも長く戦い続けてきた男の目だ。疲れを知らない、燃え続ける目だ。

〔不死〕という意味が、その目を見て初めて分かった気がした。


 信玄が俺を見た。「明智光秀か」


「そうです」


「天下を狙っていないと聞いた」


「本当のことです」


 信玄が少し間を置いた。「東北に民が安心して生きられる場所を作りたいと。家康から聞いた」


「家康が」と俺は少し驚いた。


「戦いながら話してくれた」信玄が静かに続けた。「あの男は、お主のことを心から信じている」


 信玄が俺を見た。


「儂は長年、天下を目指した」信玄が静かに言った。「しかし、天下を取れなかった。時間が足りなかった。生まれるのが遅すぎたかもしれん」


「武田信玄が、そんなことを言うとは思いませんでした」


「負けた者は正直になれる」信玄が短く笑った。「お主は天下を要らないと言う。儂にはその感覚が分からなかった。しかし家康と政宗と十日間戦って、少し分かった気がする」


「何が分かりましたか」


「あの二人は、主君のために戦っていた」信玄が静かに言った。「天下のためではなく、明智光秀という人間のために。そういう将を持つ主君は、本物だ」


 俺は信玄を見た。


「仲間になってほしい」と俺は言った。


 信玄が少し驚いた顔をした。


「儂を仲間にするか。武田信玄を」


「あなたの強さが必要だ。秀吉が東に来る。あの男と戦うには、あなたが必要だ」


 信玄が長い間、俺を見た。


「条件は」


「甲斐の民を守ること。それだけだ」


「それだけか」


「それだけだ」


 信玄がしばらく黙った。そして静かに言った。「……面白い男だ、お主は」


 信玄が深く頭を下げた。


「お受けします」


 その夜、俺はGAMEを確認した。


【武田信玄〔不死〕〔風林火山〕忠誠98】


 忠誠の数値が高かった。今まで忠誠値は最初みんな若干低くい数値で表示されていた。しかし、武田信玄だけは、数値が高く表示されている。


 98。


 100点満点で、98。


 俺は目を疑って、何度も確認した。変わらない。98だ。


「なんで」と俺は呟いた。


 利三に武田信玄の忠誠な高さを教えた、

利三が目を開いて驚いた。


 家康が「信玄公らしい」と静かに言った。


 政宗が「あの十日間の戦が、よほど気に入ったのかもしれない」と言った。


 翌朝、信玄が俺のところに来た。


「一つ聞いていいか」


「どうぞ」


「忠誠値とやら、儂は高いのか」と信玄が言った。


 俺は固まった。


「……なぜそれを知っている」


「家康から聞いた。明智殿はそういうものでものを見ていると」


 家康め、余計なことを。


「高いです。非常に高い」と俺は正直に言った。


 信玄が短く笑った。「家康と政宗は本物だ。あの二人と十日間戦えたなら、主君も本物だろうと思っただけだ」


 全員に信玄の加入を伝えた。


 忠勝が「武田信玄が仲間になったか」と静かに言った。珍しく、少し驚いた顔をしていた。


 幸村が「信玄公か。上野で感じた圧力が、これで俺たちの味方になる」と言った。


 昌幸が目を輝かせた。「信玄公!お会いしたかった!」と言って、信玄に向かって走っていった。さすがに武田の元家臣だ。


 謙信への報告を送ったら、返事が来た。


「信玄が仲間になったか。複雑だが、民のためになるなら良い」


 謙信らしい。


 夜、俺は全員のGAMEの忠誠値を確認した。


【武田信玄〔不死〕〔風林火山〕忠誠98】

【本多忠勝 忠誠100】

【真田幸村 忠誠100】

【徳川家康 忠誠100】

【伊達政宗 忠誠100】

【真田昌幸 忠誠92】

【半蔵 忠誠100】

【安東愛季 忠誠100】

【佐竹義重 忠誠93】

【斎藤利三 忠誠100】


 全員の顔が浮かんだ。京から逃げ出したあの夜には、想像もできなかった仲間たちだ。そして、武田信玄が加わった。


 俺は心強くなったと思った。本当に、心強かった。GAMEの〔マップ〕の西に、秀吉のマーカーが光っている。


 まだ来る。


 しかし、今夜はこの仲間たちがいれば戦えると、初めて本気で思えた。




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