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【完結】GAME.信長を裏切った俺、明智光秀は天下を無視して東北を目指す。  作者: 山田 ソラ


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第二十二章 武田の武蔵侵攻と、安房の賭け

 北条からの返事が来てから五日後。


 マップが赤く染まった。武田信玄が動いた。上野から南下して、武蔵に侵入した。

マップ上で武田の三万二千のマーカーが、武蔵の平野に展開していく。圧倒的な数だ。武蔵の各城が次々と武田色に変わっていく。


【武田信玄〔不死〕〔風林火山〕】武蔵侵攻開始。


 俺はマップを見ながら、頭の中で地図を描いた。武蔵は関東の中央だ。ここを武田に取られれば、北条は東西から挟まれる形になる。西から武田、南から秀吉の圧力。北から俺。北条の状況が、一気に悪化した。


 そして、同時に俺の状況も変わった。武田が武蔵に入れば、下野の幸村との距離が縮まる。上野と武蔵、二方向から幸村を狙える位置に武田が来た。


「急報を幸村に」と俺は即座に言った。


 半蔵がすでに動いていた。「送りました。幸村殿からの返事待ちです」


 返事は半刻後に来た。


「武田の動きは把握している。下野は今のところ安全。しかし時間の問題かもしれない。早く決断しろ」


 幸村の言葉は短い。しかし含意が多い。

早く決断しろ。何をどう決断するか。俺はマップを見続けた。その夜、軍議を開いた。家康、利三、政宗、半蔵。常陸の義重と磐城の忠勝には半蔵経由で状況を共有した。


「武田が武蔵に入った」と俺は言った。


「北条の状況が変わった。同盟交渉を急ぐ必要がある」


「しかし」と家康が静かに言った。「武田に武蔵を取られた北条は、弱体化しています。今から同盟を結んでも、北条がどこまで機能するか」


「だから条件が必要だ」俺は地図を指さした。「北条に何かを与える。それと引き換えに同盟を結ぶ」


「何を与えますか」と利三が聞いた。


 俺はGAME〔マップ〕の南東を見た。下総の南。海に突き出た半島。


【安房 里見義堯 兵力六千】


 しばらく沈黙した。一つの考えが浮かんでいた。まだ声に出したくなかった。しかし他に選択肢が見えない。


「里見を取る」と俺は言った。「そして北条に渡す」


 広間が静まり返った。

 

 利三が口を開いた。「取った国を、渡すということですか」


「そうだ」


「それは」利三が慎重に言葉を選んだ。「取るために戦って、兵を失って、そして渡す。民への影響も」


「分かっている」と俺は言った。「しかし北条と同盟を結ぶためには、誠意を示す必要がある。言葉だけでは信じてもらえない。謙信への宝物と同じだ。本気を物で示す」


 家康が静かに言った。「なぜ安房ですか」


「北条は安房の里見と長年争ってきた。北条にとって里見は目の上のたんこぶだ。それを俺が取って渡せば、北条への誠意として十分な重さを持つ」


「しかし、安房を渡せば」政宗が続けた。

「明智殿の領地は増えない。兵力と時間を使って、北条の領地を増やすだけになる」


「それでも構わない」と俺は言った。


 政宗が俺を見た。


「本気か」


「本気だ。北条と同盟を結べれば、秀吉への防衛線が格段に厚くなる。武田が武蔵に入った今、北条は孤立している。俺が手を差し伸べれば、必ず応じる」


 家康が静かに目を閉じた。考えている顔だ。しばらくして目を開けた。


「……論理は正しいと思います」家康が言った。「ただし里見義堯は手強い。安房は半島地形で守りが固い。短期間で落とせなければ、武田の動きに対応できなくなります」


「短期間で落とす」と俺は言った。


「兵力は」


「下総から動ける兵が六千。里見の六千と同数だ」


「また同数か」と政宗が少し呆れたように言った。


「いつもそうだ」と俺も苦笑いした。「でも今回は一つ手がある」


 里見義堯。GAMEのパラメータを確認した。


【里見義堯 武力65 統率80 知略62 海戦100】


 海戦が最大値だ。


 里見は水軍を持つ海の武将だ。安房の半島地形と海路を使った戦いに絶大な強さがある。しかし、俺には安東愛季がいる。


【安東愛季〔水軍保有〕〔交易路保有〕】


「安東殿に動いてもらえるか?」と俺は家康に聞いた。


 家康が頷いた。「海路で安房を封鎖する。陸から俺たちが攻める。里見の海戦能力を無効化できます」


「それだ」と俺は言った。


 軍議が終わった後、政宗が俺の隣に残った。


「明智殿」


「何だ」


「安房を取って北条に渡す。その判断、後悔しないか」


 俺は少し考えた。


「後悔するかもしれない」と正直に言った。「兵を失って、国を渡す。損な話だ。でも北条との同盟の方が、長い目で見れば東北を守れる」


「東北を守るために、関東を諦める」


「諦めるわけじゃない」俺は地図を見た。「北条と同盟を結べれば、秀吉への対応が変わる。秀吉が東に来たとき、北条と一緒に受け止められれば、東北は守れる。それが最優先だ」


 政宗が静かに頷いた。


「……独眼竜と呼ばれた俺が言うのも何だが」政宗が少し間を置いた。「天下を諦めて民を守る武将を、俺は初めて見た」


「笑うか」


「笑わない」政宗が真っ直ぐ俺を見た。「そういう武将を守りたいと思っている」


 翌日、安東愛季に連絡を取った。返事は早かった。「海路は任せてください。里見の水軍は把握しています。封鎖ルートを三日で作ります」

 

 さすがだ。同時に幸村への伝令を飛ばした。


「安房を攻める。下野を頼む。武田が動いたら即座に知らせてくれ」


 幸村からの返事。


「分かった。武田は今のところ武蔵で止まっている。急げ」


 下総から六千の兵を率いて、南に向かった。安房への道は、海沿いの細い街道だ。半島地形で、大軍が展開しにくい。しかしそれは守る里見にとっても同じことだ。


 進軍二日目に、安東愛季の船団が海上に現れた。日本海の白い帆が、太平洋に来ている。安東愛季がわざわざ来てくれたのか、と俺は少し驚いた。使者を出すと、愛季から返事が来た。


「明智殿が渡すと決めた国ならば、しっかり取って渡せるよう、自分で来ました」


 この男は、本当に義理堅い。


 里見義堯は、海から仕掛けてきた。〔海戦100〕の実力は本物だった。海上での機動力が圧倒的で、安東の船団が一時押し込まれた。


 しかし、愛季も〔水軍保有〕は伊達ではない。日本海で鍛えた海戦経験が、太平洋でも通じた。激しい海上戦が続いたが、徐々に安東が押し返していった。


 陸上では、俺の六千が里見の陸上部隊と激突した。地形が険しい。半島の細い道で、兵力差が活かせない。一進一退の戦いが続いた。苦戦した。正直に言えば、想定より手こずった。


 しかし、三日目に、海上封鎖が完成した。里見の補給路が断たれた。食糧と武具の補充ができなくなった里見の兵力が、じわじわと削れていく。


 四日目の夕方、里見義堯から使者が来た。


「降伏します」


 俺は深呼吸をした。


 里見義堯が連れてこられた。精悍な顔をした武将だ。海を見続けてきた目をしている。安東愛季と似た目だ。


「明智殿」と義堯が静かに言った。「負けた理由は海だ。陸だけなら負けなかった」

「安東殿のおかげだ」と俺は正直に言った。


「その安東殿の水軍、見事だった」義堯が少し悔しそうに言った。


 俺は少し間を置いた。


「義堯殿に、一つ正直に話さなければならないことがあります」


 義堯が目を細めた。


「この安房を、北条に渡すつもりだ」


 広間が静まり返った。里見義堯が俺を見た。長い沈黙だった。


「……北条に渡す」と義堯がゆっくり繰り返した。「俺が長年戦い続けた北条に」


「うむ」


「なぜ私にそれを正直に話す」


「騙して渡すことはできない」と俺は言った。「義堯殿は立派に戦った。その人に嘘をつくのは、俺の性分に合わない」


 義堯がじっと俺を見た。


「明智殿は変わった武将だ」と義堯が静かに言った。「取った国を渡す。しかも正直に話す」


「損な性格だと思う」


 義堯が少し笑った。


「……民を北条から守ってくれるか」


「北条は民政が上手い。政宗殿が保証してくれた」と俺は答えた。


 義堯が目を閉じた。そして、静かに言った。「分かりました。受け入れます」


 安房を制した。しかし、俺の領地は増えていない。すぐに北条への使者を送った。文には一つだけ書いた。


「安房を取りました。北条殿への誠意として割譲します。同盟をお願いしたい」


 家康が見て「今度も三行ですね」と言った。


「前回で学んだ」と俺は答えた。


 使者が小田原に向かって出発した翌日。半蔵から急報が来た。


「武田信玄、武蔵での動きが一時停止しています。理由不明。北条との交渉に入った可能性があります」


 俺はGAME〔マップ〕を確認した。

 

 武田のマーカーが武蔵で止まっている。

北条のマーカーが小田原で動いていない。

そして俺の安房割譲の使者が、今まさに小田原に向かっている。タイミングが、合っている。良い方向に、合っているかもしれない。


「待つしかない」と俺は呟いた。


 夜、里見義堯が俺のところに来た。


「明智殿、一つ聞いていいか」


「かまわん」


「民を守るために、自分の得にならないことをする。なぜそこまでする」


 俺は少し考えた。


「京から東北まで、逃げ続けた男の話をしてもいいか」と俺は言った。


 義堯が頷いた。俺は話した。本能寺の翌朝のこと。東北を目指した理由。仲間が増えた道のり。吐いた夜のこと。へニャへニャになった夜のこと。全部話した。義堯が静かに聞いていた。


「天下は本当に要らないのか」と義堯が最後に聞いた。


「要らない」と俺は即答した。「ただ、みんなで生き残りたい」


 義堯が長い息を吐いた。


「……俺も、仲間にしてもらえるか」


 俺は義堯を見た。


【里見義堯 忠誠66】


 GAMEに新しいマーカーが増えた。


「渡した国の元の主君が仲間になるのか」と俺は思わず笑った。


「文句があるか」と義堯が少し笑った。


「ない。大歓迎だ」


 翌朝、北条からの返事が来た。


「安房の件、確かに受け取った。同盟の詳細を話し合いたい。使者を送られたい」


 俺は文を握りしめた。動いた。安房を渡したかいがあった。GAME〔マップ〕の関東が、少しだけ俺の色に近づいた気がした。




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