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【完結】GAME.信長を裏切った俺、明智光秀は天下を無視して東北を目指す。  作者: 山田 ソラ


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第二十章 家康の諫言、限界という名の壁

 下総から常陸に戻ったのは、三日後だった。


 夜間行軍の疲れが兵の顔に滲んでいた。それでも誰も弱音を吐かなかった。幸村への急報が全員に伝わっていたからだ。仲間が危ない。それだけで、足が動く。


 常陸の城に入った夜、半蔵から報告が来た。


「幸村殿、無事です。武田の前衛部隊が上野で動いていますが、まだ下野には入っていません」


 俺は息を吐いた。


「幸村の守りは」


「固まっています。佐竹義重殿と連携して、常陸との間の連絡網も機能しています」


「分かった。引き続き監視を頼む」


 半蔵が消えた。


 俺は椅子に座り込んだ。疲れが、一気に出た。

 

 翌朝、軍議を開いた。今回の下総攻めの総括をするためだ。全員が揃った。家康、利三、昌幸、政宗、安東愛季。磐城の忠勝は来られないが、半蔵経由で状況を共有している。俺が口を開く前に、家康が静かに言った。


「十兵衛様、一つ申し上げてよろしいか」


「かまわん」


 家康が地図を広げた。現在の明智軍の配置を指でなぞっていく。


「磐城に忠勝殿と一万二千。羽前に昌幸殿と六千。東北各地の守りに四千。常陸に義重殿と明智様、九千。下野に幸村殿と四千九百。下総に新たに守備兵が必要」


 家康が指を止めた。


「下総に守備兵を置けば、さらに兵力が分散します」


 俺は黙って聞いた。


「現在の総兵力はおよそ三万二千。これを全ての持ち場に分散させれば、どこも薄い。薄い守りは、各個撃破される危険があります」


 家康が続けた。


「一点突破と面での守り、どちらを取るか。今の明智軍には、その選択が必要です」


 俺は地図を見た。家康の言っていることは分かる。東北六ヶ国に磐城、常陸、下野、下総。合わせて十の国を守ろうとしている。三万二千の兵力で、十ヶ国を守る。


 計算が合わない。


「具体的にはどうすればいいと思う」と俺は聞いた。


 家康が静かに答えた。「捨てる場所を決めることです」


 広間が静まり返った。


「捨てる、か」


「全部を守ろうとすれば、全部を失います」家康が真剣な目で俺を見た。「戦国において、守備の兵力には限界があります。その限界を超えた瞬間、守りは崩壊します」


 昌幸が口を開いた。


「家康殿の言う通りです」昌幸が穏やかに、しかし、真剣に続けた。「信玄公もよくおっしゃっていた。『城は人なり』と。どれだけ城を作っても、守る人間が足りなければ意味がない」


 政宗が静かに言った。「俺の経験でも、兵力を分散させすぎた軍は必ず崩れる。一点が崩れると、連鎖する」


 利三が数字を出した。「現状を整理します。三万二千の兵力に対して、守るべき拠点が現在十ヶ所。一ヶ所平均三千二百の守備兵になります。三千二百では、本気で攻めてきた軍勢を止められません」


 安東愛季が静かに言った。「海路での増援は可能ですが、時間がかかります。陸路で間に合わない速度で攻められれば、海路の増援は意味をなしません」


 全員が同じ方向を向いていた。これ以上の分散は、限界だ。俺は深呼吸をした。


「家康、聞いていいか」


「どうぞ」


「捨てる場所を決めるとして、お前ならどこを捨てる」


 家康が少し間を置いた。


「捨てるという表現は正確ではないかもしれません」家康が言い直した。「優先順位をつける、ということです。最も重要な場所を厚く守り、それ以外は薄くする。あるいは一時的に放棄して、後で取り戻す」


「優先順位は」


「南です」家康が即答した。「磐城と常陸が最重要です。ここが崩れれば東北への道が開く。次に下野。幸村殿がいる限り守れますが、武田が本気で来れば危うい」


「下総は」


 家康が少し間を置いた。


「下総は……正直に申し上げます。今の兵力では、守りきれません」


 俺は地図を見た。下総。取ったばかりの国だ。結城政勝が民を守ってくれと言って降伏した国だ。


「民を守ると約束した」と俺は言った。


「覚えています」家康が静かに答えた。


「しかし、守れない約束をすることも、民を傷つけます。兵力が足りない状態で守備に入れば、北条が来たときに戦場になる。戦場になれば、民が最も傷つく」


 痛いところを突かれた。家康の言葉は、いつも正確だ。感情ではなく、現実を見ている。


「では下総をどうする」と俺は聞いた。


「一時的に守備兵を置かず、行政だけを行う。北条が動いたら一時撤退する。そして後で取り戻す」


「北条が民に何かすれば」


「北条は民政が上手い大名です」政宗が横から言った。「民を傷つけることはしない。それは俺が保証できる」


 俺はしばらく黙った。家康がさらに続けた。


「もう一つ、申し上げます」


「まだあるか」と俺は苦笑いしながら言った。


「これ以上、兵力を分散させてはいけません」家康がはっきりと言った。「次に国を取るのは、三万二千の兵力が四万を超えてからにすべきです」


「四万か」


「四万あれば、今の拠点を守りながら次を取れる。それ以下での拡張は、全体を危うくします」


 俺は地図を見た。四万まで、あと八千だ。三ヶ月で一万二千を目標にしていた。なら二ヶ月ほどで四万に届く計算になる。


「……分かった」と俺は言った。「四万になるまで、領土の拡張は止める」


 家康が静かに頷いた。


「ただし」と俺は続けた。「武田信玄が上野から下野に向かってきた場合は話が別だ。その場合は全力で対応する」


「それは当然です」家康が言った。「守るための戦は、拡張とは違う」


 軍議が終わった後、家康が俺の隣に残った。他の全員が去っていく中で、家康だけが座ったままでいた。


「家康」と俺は言った。「今日は色々と言ってくれてありがとう」


「耳が痛かったですか」


「痛かった」と俺は正直に言った。「正しいことほど、耳が痛い」


 家康が静かに笑った。


「明智殿は、諫言を聞ける方だ」


「そうか」


「聞けない主君は多い。聞いてくれるだけで、臣下は助かります」


 俺は少し考えた。


「家康、お前は三河で俺に負けた。それからずっと俺を助けてくれている。なぜだ」


 家康が少し間を置いた。


「最初は打算でした」と家康が正直に言った。「明智殿の下にいれば生き残れると思った。それだけです」


「今は」


「今は」家康がゆっくりと言葉を選んだ。「明智殿が作ろうとしているものを、見たいと思っています。天下を狙わない武将が何を作るのか。それが、純粋に気になっています」


 俺は家康を見た。この男の目が、初めて少し柔らかく見えた。


【徳川家康 忠誠100】


 最大値になっていた。いつの間に、と俺は思った。しかしよく考えれば、この二年間ずっと隣で支えてくれていた。


「ありがとう、家康」と俺は言った。


 家康が静かに頭を下げた。その夜、俺は一人でマップを見た。現在の領地を確認する。東北六ヶ国、磐城、常陸、下野、下総。十ヶ国。家康の言葉が頭に残っている。


「これ以上の分散はだめだ」


 四万になるまで、止まる。焦らない。急がない。しかし、マップの西に武田信玄のマーカーが赤く輝いている。上野で止まっているが、いつ動くか分からない。


 南に秀吉のマーカーが東に向かっている。時間がない気がする。しかし、家康は言った。急ぎすぎるな、と。この矛盾の中で、俺は答えを探し続けた。


 マップの十ヶ国が、夜の中で静かに光っていた。


 翌朝、俺は机に向かった。兵力増強の計画を、もう一度最初から書き直した。

 

 無理のない数字で。着実に積み上げられる数字で。四万という目標に向けて、一歩ずつ。窓の外で、常陸の朝が始まっていた。秋の風が、南から吹いてきた。




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