表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GAME.信長を裏切った俺、明智光秀は天下を無視して東北を目指す。  作者: 山田 ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

第一章 三河攻め、死闘にも程がある

 遠江の仮陣地に篝火が揺れる夜、俺はゲームマップを凝視しながら頭を抱えていた。


 北に真田。西に徳川。東に今川義元の〔不死〕マーカー。


 どこを見ても詰んでいる。普通に考えれば、だ。


 だが俺はゲーマーだ。詰んでいるように見えるマップほど、どこかに抜け穴がある。それがゲームというものだ。俺はマップの細部を、目を細めながら読み込んでいった。


 兵力。地形。補給路。各武将のパラメータ。


 そして、あるアイコンに目が止まった。


「……忍者」


 思わず声に出た。


 利三が振り返る。「十兵衛様?」


「忍者が欲しい」


 また沈黙。最近、家臣たちが俺の発言に沈黙で返すのが癖になっている。無理もないが。


「いや、聞いてくれ」と俺は続けた。「今の俺たちには何が足りないか分かるか。兵力でも食糧でもない。情報だ。敵の動きを即時で把握できれば、この地図はもっと有利に動かせる」


 利三が腕を組んだ。「忍びの者、ということでございますか」


「そうだ。そして、地図に一人、光っている男がいる」


 俺は地図の上、三河の一点を指さした。


「服部半蔵。あいつが欲しい」


 問題は、服部半蔵が徳川家康の配下にいることだった。


 徳川家康。マップ上のパラメータを見るたびに、俺は苦笑いを禁じ得ない。統率、知略、武力。全ての数値がおかしい。しかもこの時代の家康はまだ若い。伸びしろが化け物じみている。


 普通に戦えば、勝てない。

 だから普通に戦わなければいい。


「奥義を使う」と俺は言った。


 光秀。いや、俺が持つもう一つのスキル。《欺瞞》。


 ゲームで言えばデバフ技だ。敵陣に偽の情報を流し込み、混乱させ、戦力を分散させ兵力を減らせる。光秀という男は歴史的に見ても調略と謀略に長けていた。その素養が、このスキルとして俺に宿っている。


 俺は三日かけて、作戦を練った。

 三河侵攻。兵力一万。

 出陣の朝、利三が静かに隣に立った。


「勝てますか」


 俺は正直に答えた。


「五分五分だ。でも服部半蔵を手に入れなければ、東北には行けない」


 利三は短く頷いた。「では行くまでです」


 この男はいつも、それだけ言う。それだけで十分だった。


 三河の土は固かった。


 遠江との国境を越えた瞬間から、俺はマップの緊張感が上がるのを感じた。各所に徳川の物見が立っている。隠れているつもりだろうが、マップには全員の位置が丸見えだ。俺は行軍路を細かく調整しながら、物見を避けつつ進んだ。


 そして、侵攻三日目、《欺瞞》を発動した。


 内容はシンプルだ。「今川義元が駿河から三河に侵攻する」という偽情報を、三河各地の商人と間者を通じて流した。


 今川義元は〔不死〕で実際に存在しているから、この情報には妙なリアリティがある。徳川の将たちが信じるのに、時間はかからなかった。


 マップ上で、徳川の兵力マーカーが動いた。


 南東に向いていた兵の半数が、今川への備えとして転用されていく。


 一万が、五千になった。


「今だ」


 俺は全軍に前進を命じた。

 しかし、甘かった。


 数で勝っているはずの戦場で、俺の軍は押されていた。


 理由は一人の男だ。

 本多忠勝。


 マップのパラメータを見たとき、俺は思わず画面を二度見した。武力の数値が、ぶっ壊れている。ゲームなら運営にクレームを入れるレベルだ。


 しかも、強いだけじゃない。動きが読めない。普通の武将なら突撃コースが予測できるのに、この男だけがマップの予測線を外れて動く。


 三度、正面突破を試みた。三度とも、忠勝一人に食い止められた。


 俺の精鋭部隊が次々と弾き飛ばされていく。


「笑えない……」


 思わず呟いた。ゲームなら笑えるバランス崩壊も、現実だと洒落にならない。俺の兵が死んでいる。血が流れている。悲鳴が聞こえる。


「十兵衛様、中央が崩れます!」


 伝令が叫んだ。


 俺はマップを見た。忠勝を中心に、徳川の残存五千が楔形に食い込んでくる。このまま押し込まれれば、数の優位が消える。


「《欺瞞》の第二段」


 俺は決断した。


「今すぐ、徳川の本陣に向けて情報を流せ。家康の首が取れたと。味方に向けて流せ」


 利三が眉を上げた。「……味方に、でございますか」


「わざと漏れるように流す。敵に聞かせるんだ」


 利三は一瞬考え、すぐに理解した顔になった。「御意」


 偽情報が戦場に流れた。

 効果は予想以上だった。


 本多忠勝が、動きを止めた。本陣の異変を察知した瞬間、あの化け物が初めて振り返った。たった一瞬の停止。しかしそれで十分だった。


「全軍、右翼から回り込め!」


 俺は叫んだ。


 忠勝が気づいて戻ろうとする。しかし遅い。右翼が崩れ、徳川の陣形が乱れた。


 それでも忠勝は三人の将を一人で屠りながら踏みとどまった。本当に笑えない。この男を正面から倒せる人間が、この時代に何人いるというのか。


 最終的に、俺の軍も限界に近かった。一万のうち、まともに動けるのは六千を切っていた。それでも、数と地の利を生かしてじりじりと包囲を縮める。


 “後少しで本多忠勝に勝てる”と考えていたら徳川家康から、使者が来た。


「降伏する」


 その言葉を聞いたとき、俺は膝から崩れ落ちそうになった。


 本陣の幕の中、家康は静かに俺の前に座っていた。若い。二十代半ばだ。しかしその目は、年齢不相応に落ち着いていた。敗れた悔しさより、相手を測るような冷静さが先に立っている。


 この男は怖い。本多忠勝より、ある意味怖い。


「明智殿は、天下を狙っておられぬようだ」


 家康がそう言った。


「……何故そう思う」


「天下を狙う者は、三河など攻めぬ。京を狙う。されど明智殿の軍は、東に向かっている」


 鋭い。こちらの目的を、一度の戦でほぼ看破している。


「俺は東北に行く」と俺は正直に言った。

「天下は要らん。生き残りたいだけだ」


 家康は少し間を置いた。そして言った。


「……面白い御仁だ」


 交渉は思ったより早く終わった。


 家康は従属を認め、三河の兵三千を俺の軍に加えた。そして俺が最も望んでいたものも、差し出された。


 本多忠勝。

 服部半蔵。


 忠勝は不満そうな顔をしながら、黙って頭を下げた。この男に頭を下げさせたことが、俺の今日最大の功績かもしれない。


 服部半蔵は最初から無表情だった。忍者というのはそういうものかと妙に納得した。


「使ってみせろ」と半蔵は静かに言った。

「さすれば、働きましょう」


 値踏みされている。それでも構わなかった。


 俺はマップを見た。東北への道が、少しだけ太くなった気がした。


「ありがとよ」と俺は呟いた。


 誰に言ったのかは、自分でも分からない。


 夜、利三が湯呑を持ってきた。


「少し、希望が見えましたな」


「ああ」と俺は答えた。「でも本多忠勝はやばすぎる。二度とあいつとは正面から戦いたくない」


 利三が珍しく、小さく笑った。


「同感にございます」


 マップの上で、東北への道がかすかに光っている。


 まだ遠い。まだ死ぬかもしれない。

 でも今夜は、少しだけ眠れそうだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ