24.
(私、とってもとっても弱いよ)
神の御許へ転移をしたラリルレは、宙にて眼前に浮く神を目に映す。
『――――ッ、は――ァ!」
そのタイミングで、神は何かを察知したのか、はたまた再起動のタイミングが合っただけなのか、弾いたような息を出して意識というモノを露にした。
「<スパークルスター>!」
「<アイスストーム>!」
「「<しょっくうぇーぶ>!」」
「<スペクタクルアズール>!」
「<連恋狐火>!」
意識を覚醒させた神へは、絶え間ない攻撃が浴びせられる。
『これしき――!? っぐぅ――!? 何故だ、何故干渉を――!? 冷たい……? 熱い、痛い――? なんだ、なんだこれは!? 感覚、か!?」
冷気、熱気、攻撃の余波の煙の内側から“声”が聞こえてくる。脳に響く声がある、だが、同時に耳にも響く声がある。
『体が、重い――胸までも――なんだ、この動作――呼吸――!?」
煙が晴れた先に現われたる神の姿に、変化はない。翼や光輪を持つ人型実体に、槍が刺さっている姿をしている。が、その人の形をしてるだけの実体は、今、人のような動きを模していた。
『この槍の影響かルナトリックぅぅぅぅうううううううううう!」
神は力ずくで槍を引き抜こうとする、が、抜けない。二重螺旋の片方である神の部分が自身と同化してしまっているかのように、神は神自身を拒絶できない。
「あついっていった――」「つめたいっていった――」「「いたいっていった!」」
「効いておる! うち達の攻撃が、神へ確かに影響を与えておる!」
「……影響を与えられるなら……」
アザリスタの暗い声は、手段を内に秘めた声だ。明確な手段があるわけではない、だが、復讐の為に使おうとしていた力は、未だ彼女の中に眠っている。
(私、とっても、よわいもん!)
ラリルレは、干渉できると知った神へ戦陣を切って魔法を放った。
(覚悟もったのに、キョーちゃんみたいに、ソーちゃんみたいに、ルナちゃんみたいに、クマちゃんみたいに……ロロちゃんみたいに、できない!)
神の混乱は神自身へ混乱を齎し、その隙へ皆は魔法を叩き込む。
だが、ラリルレの視界は幾度となく雲って、曇る原因を袖で振り払わないと視界が確保できない。
――私ね。きっと、仲間の中で一番弱いんだ。
アザリスタ、ダッキュ、シアスタが絶え間ない攻撃を行い、リリムとリリスもそれに加勢する中、残る魔力を振り絞るラリルレは、思う。
――シアスタちゃん、すっごく強いもん。とっても頑張り屋さんで素直さんで、色んなコト知ってて、心がとっても強い、友達みたいで親友みたいで年下でかわゆくて、私とわるわるなこと一緒する、ちっちゃい組のリーダーだもん!
神はラリルレ達を排除しようと“律”を制定する――が、不完全な神が作り出そうとする“律”は生み出す前に崩壊する。だから仕方なく、殺すに十分な光弾を浴びせれば――ラリルレが大地に杖を付きたて、渾身の力で放った防御魔法で防がれた。
――リリムちゃんとリリスちゃん、すっごく強いもん。私よりもっともっとちっちゃいのに、お勉強一生懸命頑張って、パーティに必要なこといっぱい覚えて、冒険者のみんなに質問しにいって、甘えんぼ上手で、友達みたいで妹みたいで幼いあままがかわゆくて、<インフィニ・ティ>最強のかわわだもん!
魔力が尽きたラリルレは杖を回して、神の光弾を打ち落とす。運動が苦手なラリルレだって、必死になれば、これくらいはできる。ゲームの経験と、冒険者として培った経験の二つがある彼女にとって、不可能なことではない。そして、ゲームの身体能力とゲームの装備は、不完全な神の攻撃だって防ぐことが可能だ。
だが……ラリルレは、手に確かな痺れを感じる。
「皆! 防御は私に任せて! 攻撃して!」
ラリルレは、皆を背にして言葉を飛ばした。この現状、防御役をこなせる壁が居ない、タンク役が、攻撃を引き受けられる担当が居ない。だが、担当でなくともその役割をラリルレは遂行できる。
ラリルレの言葉には皆、心配を――防御魔法が使えない状態ということを、皆は理解している。だが、ダッキュでさえ防げない攻撃を防げるのはラリルレしかいない。だったら、この局面にて唯一の役割をこなせる彼女へ向けるのは、心配ではなく信頼だ。
しかし、だが、一人の少女が一つの杖で皆を守れるか。一人の少女が一つの体で皆を護れるのか。無理だ。そんな事実、力を操る神こそが最も理解している。
『天変に一が適わぬのは、常世の道理であろう」
突きつけられた現実は、ラリルレ達の周囲を囲むように産み出された光輪と、その光輪から放たれる無数の光弾だった。
だったらなんだ、こんなの、こんなこと、キョーちゃんなら、ソーちゃんなら、ルナちゃんなら、クマちゃんなら、ロロちゃんなら、己が身を犠牲にしてでも克服できる現実だ。だが、ラリルレにはその非常識さは無くて、だったらできることは――ログアウトボタンを押して、すぐに復活して、全快した魔力を全開で使うだけだ。
ラリルレは、その指を、ログアウトボタンへ、怖いけど、死ぬのは本当に怖いけど、でも、イキョウとソーエンはそんな姿を一度も見せたことが無いから、怖さに歪んだ顔を浮かべてでもUIへ指を突きたてようとして――
「く、ふふ――! リーちゃんに、そんなことさせない!」
「ふ、は、は……まったく、だ……!」
――光の弾は、現象である無数の斬撃と、影の触手によって防がれた。
ラリルレは覚悟を持った指の先、それを下げて見れば――そこには――
歪んだ両腕から血を垂れ流しているナナと、体の至るところが崩壊しているルナトリックの姿を映してしまう。
「フハハ! ナナよ、どうしたその腕は」
「くふ、ふ、いっしょーけんめー護っちゃった♡ だってぇ、ヤイナと弟子を護れるの、私しかいなかったんだもーん♡」
「貴様が居れば十分だと思っていたのだ――クックック、勘弁して欲しいのである。理外の力を手にしていないというのに、ロロとチクマが命を賭けて担った役割を存命してこなすなど……」
「あら、珍しー、勘弁なんて言葉吐くのー? 私だって勘弁してほしーわよー、生まれて始めて全身パンパン、手も足も肩も腱も血管も千切れそうでとーってもいたーい。痛いのに、詰まんなくて気持ちよくないのがとーってもム・カ・ツ・ク♡」
ラリルレの前に現われたるは、歪んだ両腕から血を垂れ流すナナと、体中に欠けが存在しているルナトリックだった。
二人共、見るからにボロボロだというのに平然と立って神へと相対している。自分達の仲間は、それができてしまう。だから、出来ないラリルレは、二人のボロボロな姿を見てやるせなさと不甲斐なさを感じてしまうのだ。
故に――強く思ってしまう。自分は、弱いのだ、と。
「ナナちゃん! ルナちゃん! 休んでて! ここは私が――」
「ナナよ、後何度刀を振るえる」
「さぁ? 腕が壊れちゃうまで、かーしら。おじさんは魔力だいじょーぶ?」
「さて、どうであろうな。この身が滅ぶまでは持つことだろう」
「ナナちゃん! ルナちゃん!」
これだ。ラリルレは皆を護りたい、でも、皆が護らせてくれることを許してくれない。寧ろ皆が自分を守ろうとしてくれる。
「……守られるばっかりなんていやだよ! 私にも! 皆を! 守らせてよ!」
「……ねぇ、リーちゃん。リーちゃんはね、みんなの心の最終防衛らいんなの」
「なればこそ、居るだけで我輩は、ナナは、我輩達は――そして、阿呆と馬鹿こそが、守って貰えて居るのだ」
――神がルナトリックの名を叫びながら攻撃をしてくる。その悉くを、最強の二人は凌いで言葉を放った。
しかし、律でもなんでもない神が放ったただの攻撃を、凌ぐ事までしか出来なくなった二人へ、神は気付きを向けている。
『ほう……? そうだろう、なるほど、当たり前だ、当然のことか。どれほど足掻こうが理内の存在であるものな、貴様らは。根本から違う者達ではないのだったな。なら、ばッ――!?」
「くふ、くふふふふ!」
「くっくっく、フハハハハハハハ!」
現象の斬撃と叡智の魔術は躊躇無くその全てを神を滅する為に向けられる。
神とてこれまでは悠然と対処していた攻撃も、力を削がれ弱体化した今では壁や盾を生成して捌かなければならない状態へ陥っていた。
さらには、そこへ子供達やダッキュの攻撃が加わり、必須に面倒が追加される。互いに、両者、この場に居る者たちは例外なく消耗をしていた。
『律さえ使えれば』 全知全能であった神が無いモノねだりをする。槍が邪魔だ、これがノイズとなって権能を阻害している。神は怪我をしたことも異常に見舞われたこともない、するはずもない。故に体を治すといった行為をしたことがない。
だが、だったら、神は何を持ってすれば今の状態から脱することができる。攻勢を受け、防戦へ転じ始めた状況で、神は考える。
『――ああ、そうだった。あったではないか」
言葉を発した神の意識は、目の前の敵達ではなく星々が輝く空へと向けられた。
この神域に輝く星は全て、新しい神を創るための材料となる。であるならば、つまり――。
『ルナトリックよ。少々驚きはしたが、結局は無駄な足掻きで片付きそうだ」
「永き時の果てに差し迫る大望の為を、目先の為に消費するか」
『ああ。だからこそそれに関しては完敗だ、ルナトリック。一生物に過ぎない貴様は、神なる■の願いを潰したのだぞ。誇るが良い――」
神は言葉と共に大量の光弾と光柱を発生させると、後方へ大きく退く。
『――だが、ここより先は貴様へ敗北を突きつけてやるとしよう。天使共、相手をしておけ」
両者の開いた距離を埋めるように、間へは戦場に残っていた天使達が集結した。ナナ達は手負いで限界も近いというのに、相対する天使達は健在な状態であり同個体が複数存在していて……神への道が壁で防がれた。
ラリルレ達は焦る。今の状態で天使達を相手になどできない、残っている力は微かであっても消耗できない、何か企んでいる神を放置などできない。
「あらら、随分“人間”臭くなったのね。神さまは」
ナナは壊れた腕で握る刀を、杖のように大地へ突き刺しながら言う。
「やはり阿呆と馬鹿が絡むと誤算ばかり起こるのであるな。もはや大望が大望を成しておらん、目先こそが大望に変わっておる」
ルナトリックは崩れ塵行く体で杖を付き、悠然な立ち姿にふらつきを乗せて言う。
余裕。そんなもの、二人には無い。天使を一体ですら相手にする余力は無い。
だが、そんなことなど天使達には関係が無かった。かの存在達は神の命令を実行するべくルナトリック達へ襲い掛かる。
そんな相手を前に二人は――高笑いをしながら力を振るったのだった。




