22.
「――はぁ……ハァ……!」
「クマちゃん!!」
混沌を有して神の崩壊を打ち払えど、常人が理外の力を振るうならば相応の代償が伴う。
「チクマ!」
転移を終えたダッキュの声は、チクマ以外の視線を集めた。シアスタの、双子の、ラリルレの、アザリスタの、視線を。
彼女等の目に映るのは、ソーエンと、黒い影だ。白の大地へ無為に横たわる、二人の存在だ。
分かっている、信じられないだけ。
死んでない。死んでない。死んでない。
あの二人が、死ぬはずが無い。どうせ何かあったらすぐ起き上がって、またすーぐ喧嘩するだけ。死んででも喧嘩する二人だもの、死ぬことすらありえない二人だもの。死んでも死なない二人だもの。
「イキョウさん……おばか、ばーか、おばかさん」
シアスタは、影の体を揺すりながら涙を流して言葉を向ける。
「ソーエン……」「にゃー……」
双子は、ソーエンの体をぽんぽんしながら声を掛ける。
三人とも分かっていた。分かっている事があっても信じられなくて、信じたくないから声を向ける。
向けたところで、何も返って来ない。
だが向けられるものがある。それは二人を崩壊させようとする、神のヒビだ。
数多からなる無数のヒビを、チクマが防ぐ。だが彼の体は混沌による限界をとうに超えて、常人の域を脱していた。
呼吸が乱れる、存在が乱れる、何もかもが乱れる。鎧は朽ちるように散り始め、闇へ呑まれるように混沌に寄る崩壊へ導かれていた。
そんな彼が崩壊の狭間で唯一眼を向けているのは、ルナトリックだけ。有象無象を犠牲にしようと守りたい者だけを守ろうと、神と存在を鬩ぎあっている彼の姿だけ。
(ふふ――)
全幅の信頼を置くチクマは、それでも笑ってしまう。
(おかしいよね、おかしいよ。
アレイスター。君ほどの傲慢で自己中心的で天才で利己的なヤツがさ、こんな必死になってるのに成せない理不尽があるんだもん。きっと、君が僕へ教えてくれた最善の選択も間違いなんだ。この事象に、僕達は最善を選べないんだ。だってさ。理不尽に理路なんてないでしょ。それを君は分かってるんでしょ。分かってるのに、どうにかしようと善処したアドリブで頑張ってるんでしょ。頑張るなんて、努力するなんて、天才の君らしくないってのにさ。楽しかったんでしょ、それが)
蝕むヒビの輝きは彼の髑髏のヘルムへ過剰な陰影を齎す。
(考えうる筋道一生懸命立ててるってのに毎回踏み壊してくあの二人が大好きで、毎回毎回何時も何時も軌道の修正をしなきゃならないなんて、アレイスターが楽しく思わない訳がないじゃない。だってね、イキョウとソーエンはアレイスターが想定しているどんな道筋をも外れてく二人なんだもん。君が思い描く利己的な最善をも超えて僕等に最善を齎してくれる、者達だもん)
割れる。チクマの装備が、体が、割れて行く。
「くまぢゃん! やだ! ヤダ!」
声が背後から。劈くような、声が、後ろから。一人の黒騎士が崩壊していることを、悟って。
「……だいじょーぶ、大丈夫。僕はここまでだけど、彼が絶対に、ラリルレちゃん達を守る役割を引き継いでくれる」
神の亀裂による崩壊を防いでいたチクマは、かの存在が深淵の底から這いずり上がる気配を感じている。
だが、違う。ラリルレはチクマが消えてしまうことに嘆いているのだ。そんなこと、チクマは分かっている。しかしこれ以上は、常人である彼にとってどうにも出来ないのだ。自らの身に起きている混沌の崩壊を止めることなど、できないのだ。チクマの、限界なのだ。
「いつも君の後ろを付いて歩き回ってたけど、アレイスター……今回は先に行ってるね」
――音を立てて、彼の体は割れる。
音は、体が壊れた音なのだろう。しかし、彼の割れた体から天へ昇る光が生じない。ここで死した者達は往々に、死の際には天へと昇る何かがあった。だが、混沌に身を落とした彼の死にはそれがない。
彼の死へ、向けられる声があった。小さな子達が呼ぶ、彼の名前。悲痛な声で叫ぶチクマの名前。
だが、叫んだとて何も変わらず、変えられず、死に思いを向ける暇も無く、止まらぬ事象は小さな子達とアザリスタ、そしてダッキュや例の二人へも襲い掛かろうとする――
守りの要であったチクマが居なくなった。
神の亀裂を止められる者が失われた。ならば、今、誰が少女達を守れると言うのだ。現状を憂い、多くの仲間を、大切な仲間を失ったことを悲しみ、泣いている子供達を、神の力を前に誰が守れるというのだ。
「――――なんだ、この状況は」
暗い底から響く声と共に現われたるは、一本の巨大な触手だった。
白い大地に生まれた黒い穴は水面のように揺らぎ、その穴から現れたピンクの触手は、ラリルレ達を守るかのように神の亀裂を砕き割る。
そしてその触手は大うねりをする蛇かの如く周囲を振り払い、辺り一体の亀裂を壊し去ってから――本体が大穴から姿を現した。
広がった大穴から這い出てくるは、全てを冒涜するような見た目をした大蛸だ。頭蓋のような頭部には巨大な目が、伸びる触手は不均一で不定な脈状めいた動きをして。
ピンク色――違う、血と臓器が交じり合った肉々しい色合いこそが、彼の本当の色合いだ。
『あれは――ゲゼルギアが姿を取り戻したのか……なんとも脆く弱弱しくなったものだ』
「くっくっ、く……全知全能の貴様と違う神であるぞ。全知全能の範疇にはない、歪な異物だ。阿呆共と同じように」
『詰まるところ同じだ。昔のように、排除するだけ』
ルナトリックと削り合いをしている神。体に理外の負荷を掛け続けているせいでいつ消滅してもおかしくないルナトリック。
両者は互いの力をぶつけ合い、かの邪神の姿を視界に写している。
だが、ゲゼルギアの大目は、もはや神など映していない。映しているのは、たった一つだけ。違う。もっともっと、大切にしたい一つ達だけ。
「ラリルレよ……泣いているのか……?」
「クマぢゃんが……ッ! ぐまぢゃんが――!」
泣きじゃくる子達が、大切な存在達が、泣いている。アザリスタの前で、ダッキュの前で、大きなゲゼルギアをロロと違わず、失った者への嘆く声を彼へ向けている。その姿へ、ゲゼルギアの巨大な目は、向けられている。
「チクマが――そう、か――そうか……散ったか…………感謝などせぬ――――――――何をしていたのだルナトリック――ッ!」
感情的な声は静かな怒号となり、おぞましき圧を放って周囲を揺らがせる。だが、揺らいでいるのは、彼の瞳も同様だった。
「イキョウも、ソーエンも、貴様等何を暢気に死んでいるのだ――! 我が信頼した貴様等は所詮その程度の存在だったのか――!」
絶望、失望。にも似た、言葉は感情的な怒りが虚底から響くような声となって響き渡る。
その声に、誰よりも驚いているのは……彼の邪神と呼ばれた存在と戦ったことのあるダッキュだった。
「ゲゼ、る、ギア――?」
彼女は、ここまで感情的になったゲゼルギアを見たことがない。否、目にする機会があるとなど微塵も思っていなかった。彼との戦いにおいても、決着が付いたときでさえ、封印される寸前でさえも、何処か傍観して達観して俯瞰していた彼が、自らの野望を打ち砕かれた時にすら見せなかった感情的な姿が、有るとすら思ってもみなかった。
「ラリルレが! シアスタが! リリムが! リリスが! 泣いているのだぞ! 不甲斐なき貴様らを信じた我が愚かだった! 貴様らならば問題無いと思った我こそが愚かなバカだった!」
荒れ狂うおぞましさは何処か優しく、しかし怒りを示すように白い台地へ黒き衝動を放つ。
深淵が形を成した存在、混沌が生み出した存在。だが、その存在が怒りを放つ言葉はあまりにも優しくて、その優しさを示すように、周囲には黒き衝動の敵意を振りまくが、背後には『この者達を絶対に護る』といった意思を示していた。
愚かな生者共はほぼほぼ壊滅した戦場には、カフスがカラガラに護っていても碌な戦力が揃っていない。そもそも、神に対するならただの生者の戦力は無力だ。だったら、居たとしても無意味に等しい。
「愚かな神よ、愚かな邪神が貴様を冒涜してやろう――」
「ロ、ロ、ちゃん……?」
嘗ての邪神は、嘗ての姿をしていたとて嘗てのような全盛期の力を揮えるのであろうか。
答えは否。
封印されていた邪神は、温かい少女に癒されて、一緒に居たくて最低限の肉体になり、だったらその少女の為だったら存在を無理矢理にかなぐり捨てても温かい笑顔の為に戦えるか。
応えは、是。
全盛の時代でも神に適わないと理解していて、蓄えていた戦力も力も今は失っていると分かっていて、あの頃よりも遥か劣っているとしても。
「座すべき神域ごと冒してくれる」
『不可能を言に表すなど、まるで生者のようだなゲゼルギア――』
巨大な蛸からは混沌の泥が滲出して白の大地を黒く染め始める。
その事実に、神は不可思議な態度を露にした。
知らぬ者ならば邪神がコレくらいして当然と思うだろう。だが、違う。力の大半を失っているゲゼルギアが神域を染める程の混沌を有しているはずがないのだ。神域とは神の領域、神の領域を塗り替えられるのは同じく神の力を持つ者か異質な者達ではある。ゲゼルギアはその両方の素養を持っている。が、見た目だけが全盛期の姿を有しているだけでスカスカな巨大の蛸がこの神域に影響を、世界の基準点である神が作り出したこの世界に影響を、齎せるほど力は残っていないはずだった。
片手間にはルナトリック。片手間にはゲゼルギア。不味い。非常に不味い。方や生者が神と混沌の力を無理に行使する滅び行く存在、方や大半の力を失った取るに足らない邪神。どちらか片方ならば何ら問題なく対処できるが、同時に来られては片手間では対処できないほどに厄介だ。だが、何が厄介かと問われれば、勝敗を決することに対して厄介なのではなく、例のあの二人の残っている肉体を消滅させる障害になっていることが厄介なのだ。
ルナトリックが相対し妨害してくるからあの二人の肉体を滅ぼせない、というのにゲゼルギアまで加われば更に遠のく。
「よくも子供達を泣かせたな痴れ者があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
だが、神の意思が、考えが、何だ。悲願が目的が未来がここより先にある全てが何だ。
知らない。知らん、どうでもいい。
ゲゼルギアの巨大な瞳には、大切な仲間達の姿、その中でも泣いている小さな子達の姿しか映っていない。
『どうしたのだゲゼルギア。正しく生者のような――!?』
理性的な暴走で、優しい理由で荒れ狂う、邪神。
その触腕は大縄が地面を鞭打つように神へ襲い掛かった。
ゲゼルギアの頭部からの触腕だけではない、侵された神域の大地から伸びる無数の触手が神の姿を捉えて次々襲い掛かる。波状に放たれる、他を意に介さない触手の滅撃だ、神さえ滅ぼせる一撃を放つ邪神の猛攻だ。
『なんだ――!? 全勢の世ほどに力も無いと言うのに……ッ!』
「アアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああッ!」
暴走――ではない。ゲゼルギアは、怒りで動いていても、怒りに支配されているわけではない。
生まれて初めて信頼していた者達が、信頼するに値しなかったと直面した絶望。自らが作り出した邪神軍の『配下』ではなく、<インフィニ・ティ>の『仲間』として、子供達は大切にしたかった。イキョウ達大人組には、信頼を向けていた。
大切にしたいとか、護りたいとか、信頼しているとか、そこに上下関係なんて無かった。ゲゼルギアにとって、全員が信頼している『仲間』で、『仲間』だから護りたいと思えて、大切にしたいと思えて、信頼をしていて――それもこれも、ラリルレが大切にしている気持ちと、大好きっていう気持ちを真似したら、いつしか真似ではなくなって――。
『――クッ――!? 何処から貴様はこの力を――!?』
――混沌の触腕は、絶対である神を吹き飛ばし、弾き飛ばし、失落を与えるが如く白の大地へと叩きつける。
……神は焦りのような声を出した。だが、出しただけ。その御身にダメージは生まれているが、生まれているだけ。
もはや今は世界が壊れている。多くの命が失われている。神を倒しただけでは、何も、何も、元通りにはならない。
だが、ロロにとって、それが何だ。
「■■■■――!」
もはや、声にすらならない声が神の光や亀裂、律をも壊して神の体を裂いて行く。
正しく邪神の攻撃だ。その攻撃や戦い方に気高さや価値有る問答もなく、ただ難敵を引きちぎって力を削ぎ落とそうとしている。無数の触手は白い大地から無限に現われ神の体を力任せに引き裂く。
『んふふ~、ロロちゃん』
あの笑顔が、言葉も生まれないほどに大好きだった。
『ゲゼル、ギア、貴様ああああああああああああ!?』
逃れようとも絶えぬ触腕に襲われる。
『ロロー』『みょーん』『ぱっちん』
否が応すら関係ない、双子がしてくるみょーん、ぱっちんが大好きだった。
『存在、が、根底から――!? 今の貴様にの何処に――歩・ォk、、、お!? ふざ、フザ、ふざけるな……!』
白き大地に現れる無数の穴からは触腕が次々神を襲い、暗き穴を潰す光の筋は穴を潰そうとも生える触手の猛攻に追いつかない。
『むっふっふ。ロロさん帽子を賜った、料理長シアスタからのお願いです。コショーとってください』
『任せろ』
情緒豊かで泣き虫で自信家な、ひたむきなシアスタの素直さが大好きだった。
「呑食王――! ソーキス! 貴様、この後に及んで貪っているだけの存在に成り果てたかァ!」
嘆く怒りに狂う声は、ちっちゃい組みの中で最も対等に見ていた存在へおぞましき声を飛ばす。
邪神として個を得たロロにとって、同種と言う存在は居ない、存在していない。だが同種が居ないとて、憎しみから這い出た存在とて、認めて良い存在が居たって良いだろう……!
ルナトリックがそうだ。チクマだってそうだ。あの二人は理に根付いた存在だというのに、その領分を越えてでも、大切なモノ達を護る為に身を粉にすることを厭わない。
イキョウとソーエンなど、根本すら曖昧な、混沌に近しい理外の存在だというのに人らしく振舞って邪神の自分以上に己を消耗する事を厭わない。自分がどうなろうと、大切な者達を護る為なら己の犠牲など度外視する二人だ。
そんな五人は、ロロにとって、信頼足りうる五人だと思っていたのだ。魔王軍における四天王のような配下の存在ではない、『コイツ等なら大丈夫』という漠然とした信頼を向けられる者達だったのだ。
『我が居なくても、きっと、アイツ等ならばラリルレを、子供達を、笑顔にしてくれる』
その信頼が今、無い。その信頼が今、現実には無い。ラリルレが、シアスタが、リリムが、リリスが、泣いている。
ロロは、心というモノが分からない。分からないが、分かりたくて、ラリルレの真似をして、ラリルレの笑顔が好きだから、ラリルレが笑顔になってくれることは良いコトだって思っていて。
ラリルレが笑顔になることは、シアスタもリリムもリリスも、笑顔になる。自分は人のように、他のように、人を笑わせる事が出来ない。心を知らないから。それでも、面白いことをしなくても、愉快なバカ達のようにできなくても、ラリルレは『んふふ~』ってしてくれるし、双子は『きゃっきゃ』してくれるし、シアスタは『むっふっふ』ってしてくれる。
自分は、特段面白いことをしていない。出来ない。なのに、笑顔を向けてくれることが――ロロは、ゲゼルギアは、邪神は――――我は――――
大好きだったのだ――
荒れ狂う触手は、確かに神を捕らえて叩き潰す、引きちぎる、吹き飛ばす、貫く、壊す。有する混沌の限界などとうに向かえ過ぎ去り、体の崩壊が始まっていたとしても。
『なんなのだ、何なのだ、ナン、なの、だ、これは!? ゲゼルギアの力などもはや取るに足らないはず、だ、ト――いうのに――――ッ!・?』
神にとって、もはや脆弱で疎密な混沌の邪神など気にも留める必要が無く全知全能であしらう必要すらない無価値で不可逆の存在だったはずだ。
だが、その“だった”を覆すように、ロロの猛攻は確かに神の存在を削る。世界に在るべく存在として望まれた不変の神が、混沌と言う力によって存在を否定されていく。
しかし――
「消えうせろ神がァアアアアアア!」
『貴様、も、! 故を違う、神であろうが! ■よりも劣った、愚かな、もはや脆弱な、なりふり構わずその腕を振り回さぬと、■に届かぬ混沌の神がァ!』
なりふり構わない――。弱体化した邪神は今、何を消耗して戦っているのだろうか。
「<憎臓の冒淵>!」
イキョウやソーエンが使った、同種の力。世界を侵す、混沌の浸食。
世界を塗り替えるかの如くゲゼルギアが侵食する大地からは、生物の手足や頭部が――ヒトだけではない、あらゆる生物達の醜く歪んだ体のパーツが次々這い出てきて、神の御身を深淵の底へと引き摺りこもうとしてくる。
その醜い生物達は、元々は正しく生きていた生物達だ。憎しみに歪んでしまった、生き物達の成れの果てだ。
『このような搾りかす如きの力など――ガランドウル……ッ!?』
深淵への引き摺りから逃れようとした神の御身は――穴から出でた巨大な騎士が掴み、地へと押し付けた。
「何を逃げようとしているのだ、神よ」
『お前、が、理性を保って――またか……ッ!』
「己が“もし”生者ならばこれが己の在り方だったのだろう。役割から脱した己が望むのは、無辜なる生物達を試し殺す為に狂った剣を携えるのではなく、末妹であるアルフローレンを殺した貴方をぶち殺すことだ」
『世迷言を――』
「狂ってしまったのは、どちらかな」
ガランドウルは神を押しつぶすように腕に力を込める。
神は、存在が否定されて力が弱まって行く。深淵の穴が神の御身から力を堕とす、醜い成れ果て達は再生する神の御身を幾度と無く引きちぎり穴の中へ引き摺り込む。
だが、神であればこのような所業にさえ対抗――
「――さて」
深淵の醜い大地へ、足を落として近づいてくる者が居る。とうに限界を超えている男が、無理に優雅さを醸し出しながら、近寄ってくる。
『何、を、する気だ、ルナトリック――!』
片手には混沌の球体が。片手には光の楔が。相反する力を携えた男、ルナトリックは、割れた仮面から覗く光の筋で、神の姿を捉えている。
「無限の貴様へ有限を与えるとしよう。愚かで素晴らしいものであるぞ、“生物”としての在り方というのは」
『まさ、か――!?』
「堕ちるが良い……神よ」
『やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
ルナトリックの手にある混沌と光は、形を変えて二重螺旋を形作る。それはまるで槍のように、神の体をガランドウルの手ごと貫こうとする。
何が起こるか、何が起こるか。それを知る前に、神とて無抵抗なわけではない。なりふり構わず力を放出して辺り一面を消滅させようとした。
相反する力である二重螺旋の槍、神の爆発。神に等しい力と正しく神の力は寸でのところでぶつかり合い、その余波はラリルレ達をも飲み込もうとする。
「ラリルレ――!!」
なりふり構わぬ邪神がなりふりを構わない理由。大切な大切な、大事な理由。それを護る為、邪神は己のスカスカな体でさえ消耗してその背に護った。
光と余波は、ラリルレ達の視界を奪う。奪われた視界は、それでも時間が経てば戻ってくれる。だから、目を開ければ、その目には景色を映すことができる。
目に映った視界。その先。遠くでは、膝を突いて停止しているルナトリックと、上半身が消し飛び核を失ったガランドウル、そして御身に二重螺旋の槍が突き刺さった神が宙で停止している姿があった。あった。あってしまった。見えてしまう。
それが見えてしまうということは――遠く先をも見えてしまうということは――
視界を遮る者が、無いことと同義だ。




