10.
クライエン王国の首都、とある親子。
「おとーさん……」
少女は、泣きそうな顔で父親を見上げていた。
「大丈夫だ、ムー。おとーさんはどこにも行かないからな……ッ!!」
父親は、泣きそうな娘を前に戦うことが出来ない。ただ、娘をぎゅっと抱きしめる。
コーマ帝国の首都、とある家族。
「あなた……」
「バンダナおにーちゃん救世主なの?」
「死んじゃうの……?」
「…………」
父親は、不安そうな家族を前に戦うことが出来ない。ただ、家族をぎゅっと抱きしめる。
((済まない、イキョウ……俺は……戦えない……ッ))
世界の命運を前に、戦いへ赴く事が出来ない者達も居た。
* * *
とある一等級冒険者一団。
「バンダナさんとフードさん……」
「やだぁ~!! バンダナちゃんもフードちゃんも二人揃ってないといやー!!」
「全く……あの二人、そりゃ神様相手に戦えるんだったらキングレイスやデュラハンなんて敵じゃないよね」
「借りは返す。某達も戦うとしよう」
* * *
「ヤイナ、弟子。準備しなさい」
「あ……あっ……えっと……――」
つい最近まで戦うことを知らなかった者は、良い師に巡り会えて刀を持つことが出来る。楽しくお話をしてくれた彼と、楽しく物語を聞かせてくれて彼の、力になることはできる。
でも、それでも、二人を良く知っているから、行く末がなんとなく感じられた。きっと、あの二人は二人で死んで行くのだろう、と。
それが、彼等の物語なのだろう。
「……あのおバカ達はね、そーゆー者達なの。人に成りたくて成れなかったおバカと、どこまでも親友と一緒に居てやるって思ってるおバカ」
「で、でも、キュムキュムさんが、見た、未来では……ソーさんは、生きて……」
それでもその物語を信じたくは無かった。心のどこかで、否定したかった。
しかし二人を知ってる者こそ、より強く信じてしまう、二人の死を。あの唯一無二で一心同体でいつも二人セットの者達が、どちらも居なくなってしまう物語を。
「弟子、分かってるでしょう。そんなことあるはず無いって。私に未来は見えない、でも、私には、イキョウを殺して、ソーエンだけが平和に生きる未来なんて光景が想像できないわ。例え何があろうとも、ね」
「……………………あたしも同意するっス」
「てん、ちょう……」
「――キュムキュムちゃんが見た未来が、一番残酷っス。一生懸命人であろうとしたキョーパイセンが壊れたまま死んで、たった一人の親友を世界の為に孤独に殺して自分だけが生き続けるソーパイセンとか、二人の尊厳を壊そうとしてるだけにしか思えないっス。あたしには分かれないっス、分かりたくもないっス、そんな未来」
「でも、イキョウは口先だけは達者だから……きっとダッキュちゃんが見た未来では、最期にソーエンへ残酷で優しい言葉を残したのでしょうね。
世界を救う為にはね……あの子達の未来には、あの子達の未来だけには、悲惨な結末が待っていたのよ。世界っていうのは何の犠牲も無しに救えるものじゃぁないって、良く語ってる相応しい結末なのかーもね。……おじいちゃんはあのおバカ達が好きで、優しいから、頑張ったのでしょうね。
……知ってる? 弟子。あのおバカ二人はね、二人揃っておバカなことすると最終的には何でもできちゃうの。でも、今はイキョウだった男が居ない、ソーエンも孤独になっちゃってる。もうね、何も出来ないの」
「……なんとなく、ですが……分かります……。キョーさんと、ソーさん、いつもだったら、きっと、笑って喧嘩しながら、神様を……」
語るセイメアの言葉には、誰も何も答えず――
「――さぁて、行きましょうか。神様を斬りに、ね」
――宿屋から、三人が出て行き、かつて騒がしさに見ていた食堂は空っぽとなり、誰もいなくなった。
* * *
戦う意志を宿した者達は、ヒビの下に集い覚悟を決めていた。
集った者達の中には、一般人だって居る。女だって、男だって、ここに居る。自らの世界を存続させるために、立っている。
そんな中、覚悟を決めた者たちが集う中、王国ではキアルロッドが槍を握り締めて皆を鼓舞していた。
「はぁ……今回ばかりは、ここに居る皆を守りきれないかもね……」
鼓舞に喚き立つ部下達を見ながらぽつりと呟くキアルロッドの言葉は、ユーステラテスとの戦いを思い出した故の言葉だ。
あの時は助ける余裕があった、あのバカ二人のおかげで。だが、今は違う。神との戦いを前に全てを守っていられる余裕は無い。
その呟きへと言葉を返したのは、隣に立って居るスターフとザレイトだった。
「戦う者達は皆、覚悟の上だぜ」
「……勿論、私達騎士も同様だ。ここに居る皆、誰かに守られようとしているのではない、世界を守ろうとしているのだ」
「――ま。そんじゃ互いに死なないよう祈りあっておくくらいはしておくかね」
キアルロッドが肩に槍を担いだ瞬間――前触れも無く空のヒビがが光りを放ち、その光りは強さを増してみなの目を眩ませる。
眩しさに眼を瞑っただけだった。足など一歩たりとも動かしていなかった。だというのに――
――目を開けば、そこは見知らぬ光景が広がっていた。
白く、土でも石でもない大地。暗いと言うのに遠くまで見通せる空の星星。生命の息吹など微塵も感じない無機質な空間。
皆が直感した。ここは、人が降り立っていい空間ではないと。ここに存在して良いのは、ただ唯一の存在だけだと。
周りを見れば、数え切れないほど大勢の者達がこの空間で軍を成して立っている。地平線とも呼べない平らな大地の彼方まで、大勢の者達が並んで立っている。
そして、遥か遠くでは――
「おいおい……あれが神様って奴かい……? はは、ははは、おかしいね、見ただけで鳥肌立っちゃったよ……」
――羽を生やし光輪を背負った光の人型が、居た。それを見たもの達は皆、本能的な恐怖と畏怖を覚え、怖気にも似た寒気を背中に走らせる。
存在としての格が違う、そうとしか思えない光の人型は、二人の人型と龍を相手に一つの綻びも見せずに平然と君臨していた。




