54.早朝、街、街路にて
昨夜は疲れたから風呂入って飯食ってさっさと寝た。ヤイナのカフェでな。
そして翌朝の早朝。オレはコロロとの約束を果たす為に宿の裏庭へと向うことにした。
他は寝てるから起さずそーっと出ようとしたけど――。
「早朝の鍛錬に付き合うとは、面倒見が良いな」
「それが阿呆の性分であろう」
ナトリとソーエンが偶然目を覚ましやがって、オレに付いて来てやがる。
早朝の綺麗な空気の中、なんで野郎三人で歩かなきゃいけないんだよ。
あと、コロロとの至福の時間を邪魔すんなって言っても意地でもついてこようとしやがって、マジでふざけんなよ。
「なんで付いて来るの? オレのマイスイートラブリーエンジェルボイスにノイズをもたらさないでくれる?」
「何故お前はこの世界に来て最高のASMRを堪能できているのに俺には無い。そう思うと心底腹立たしくてな。ストレスが顕著に溜まっている」
「我輩は単純な興味だ」
「片方私怨だらけなんだけど。そのせいでナトリの理由許容しそうになっちゃったじゃん」
「どこかに俺の至高は居ないものだろうか」
「……ソーエンおにいちゃん♡」
せめてもの仕返しで、オレの最高に可愛い声でお前を呼んでやるよ。
「ぶっ殺されたいようだな」
「それはこっちのセリフだぞコラ。オレの邪魔すんなら相応の覚悟してんだろうな」
「我輩にはやはり分からんな。阿呆が前に言っていた梱包財を潰す音も、馬鹿が言っていた割り箸を折る音も我輩の脳には快楽をもたらさなかったのである」
「初心者向けでもダメだったかぁ。しゃーないよ、人には向き不向きの音があるからな…………割り箸?」
「折る時の子気味良い音が最高だ。初心者向けと言っても過言ではない」
「それは過言過ぎない? でもちょっと気になる……」
この世界にネットが無いからこそ、今ここで聞けなくて余計に気になる……。なんとなく音は想像できるけど、割り箸を折る音なんてハイレゾで聞いたこと無いからメッチャ気になる。
心にメモしておこう。『元の世界に返ったら絶対に割り箸を折る音をハイレゾで聞く』っと。
「そうだ、スライムはどうだった?」
「ただただ粘着質な音が続いて、思わず不快になったのである」
「あーそれ下手くそな奴だわ。上手い奴は音のバリエーションとソノリティがしっかりしてるから」
「スライムは奥が深いぞ。無限の可能性を秘めてると言っても過言ではない」
「確かにそれは過言じゃないな。……家にスライムいるじゃん。あいつの身体ちょいと拝借できないか?」
「ふむ…試す価値はあるな。ナトリに至高の音を届けるとしよう」
「阿呆共は絶えず愉快な発想をするのであるな。一度貴様等の頭の中を覗いてみたいものだ」
「ナトリが言うとマジでやりそうだから怖い」
「それも魔法で可能なのか」
昨夜、ソーエンとラリルレには、魔法のことやナトリが魔術師だったこと、何故オレ達がこの世界に呼ばれたかとか、オレがナトリと事前に話していた情報を共有した。
二人とも頭がパンクしそうになってたけど、オレとヤイナがあれこれ補足したおかげでなんとか理解できたようだ。
「言ったであろう、我輩達が習得できるものは限られていると」
「そうではない。この世界にそのような魔法があるのかを聞いているんだ」
「確かにそれは重要だわ。オレ達の情報を抜き取られたら大変だもんな」
「無いと断言しない方が面白いであろう。なぜなら魔法は無限の可能性を秘めているからな。まるで、貴様等の言ったスライムのように」
「じゃあスライムって実質魔法じゃん…」
「十分に発達した科学は魔法と見分けがつかないと聞いたことがある。スライムもその類だろう」
「ふははははははは!!なんと言う柔軟な発想だ!! 貴様等の会話を聞くと我輩の頭の固さを思い知らされる!!」
褒められちゃったよ。賢いナトリにそう言われると悪い気はしないな。
まあ、そんな会話をしながら早朝の町を歩く。やっぱ仲間ってのは良いもんだ。
ただし、オレは忘れていた。昨日から他の仲間を放置していたことを――。




