28.巨大スライム
「嘘でしょマジでっ?いくらアレが身分以外何のとりえもないヘタレ雑魚貴族でも、トラブルに巻き込まれるような山じゃ――」
顔をしかめたシナライアは疑問を口に出しながらも、悲鳴の聞こえて来た方へ向かった。俺も後に続く。嫌な奴とはいえクラスメイトはクラスメイトだ。もしも死亡事故なんかに遭ったら後味が悪い。シナライアも咄嗟に次々と悪態が出てくるあたり、相当ヘタレ雑魚貴族――モン=デ=モンデのことを嫌っているようだが、俺と同じ気持ちなのだろう。道とも言えないような草木の間をシナライアは器用に走り抜けていき、俺は彼女が通った後を辿りながら必死についていく。この年齢の三歳差は大きく、俺は頭がくらくらとしながらシナライアについて行った。ようやく足を止めたシナライアが、困惑の声を上げる。
「な、何?何なのあれ――!!」
そして、俺とシナライアが見たものは――予想外の光景だった。
巨大なスライム。色も赤紫というか、ほとんどピンク色の、これまで俺たちが退治してきた普通のスライムとは明らかに違っている個体だった。その大きさは優に人間の背の高さを超え、小さな池か沼地かのように体を広げている。モン=デ=モンデと仲間の学生たちはスライムに取り込まれかけていて、高級な素材でできているにも関わらず、服が溶けかかっていた。モン=デ=モンデの黒いマスクだけは解けていなかったが。特注品なのか、あれ?
「尊き炎の精霊よ!汝に慈悲の心あらば、我に力を与えたまえ!!来たれ双炎!!」
シナライアの叫びに呼応して、彼女の両手に火球が発現する。以前見たときよりも、一回り大きい二つの火の玉を抱えながら、巨大スライムに向かって飛び込んで行った。
「これで五匹目だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
だが――
「――なっ!!」
スライムがぎゅっと体を縮める。スライムの体に入った火球は、核に到達する前に体に押しつぶされ、消されてしまった。シナライアは焦りの表情を浮かべる。
「――くっ!足下に蠢く土の精霊よ――きゃあっ!!」
続いて土魔法を使おうとするが、その魔法が発動する前にスライムに絡めとられてしまった!体を脈打たせたスライムがシナライアの首から下にまとわりつき、締め付けていく。モン=デ=モンデ達よりも安物の素材でできたシナライアの服は、瞬く間に溶けだしてしまった。
「痛っ――熱いっ!!」
あらわになった肌もまた、スライムの粘液に苛まれてしまう。モン=デ=モンデ達も苦し気なうめき声を上げていた。粘液の強さも、普通のスライムならばこんな風に人肌を溶かすようなことはない。明らかに強化されている。
もはや余裕はない。俺は覚悟を決めた。こんな強大なモンスターが現れるのは学院としても想定外だろう。助っ人を呼んでも落第にはならないはずだし、いざとなれば俺が責任を取る――
「お姉――ごほっ!!」
しかし、俺が叫びを上げきることはできなかった。口の中に異物が飛び込んでくる。それがスライムが飛ばした体の一部だと気づいたときには、スライム本体が体を伸ばし、俺の頭をその体内に包みこんでいた。




